風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
清盛が夢見た福原京と港の造営

清盛の銅像と清盛塚(神戸)
 私事ですが今年4月から京都商工会議所の講演会では「京都歴史年表」を主軸に講演しています。6月と12月を除く毎月、東京で開催しています。ド・ストライクの歴史を学ぶことで、京都への観光目線が再び開け、改めて知ることもあります。年表なので、出てくる人物も誰もが知る超・有名な歴史上の面々ばかり。今回はその一人、平清盛にスポットを当てます。

 平清盛は京都では、それほど大注目される武将ではありませんが、ゆかりの場所は多々あります。そして西日本エリアには清盛スポットが沢山ある訳ですが、今回は清盛が遷都を夢見た福原京、その貿易港となった大輪田泊を旅してみます。

京都の清盛ゆかり若一神社

京都・若一神社に建つ清盛の銅像
 平家一門の京都の中心地は「六波羅(ろくはら)」周辺。軍事拠点であり、邸宅も建ち並んでいました。有名な清盛坐像(重文)のある六波羅蜜寺、あのエリアです。

 また京都駅北西、西への交通の便の良いあたりに清盛の邸宅・西八条第がありました。そのゆかりを残すのが若一神社(にゃくいちじんじゃ)です。神社と車道の間には清盛が植えたとされる楠が大きく枝を張り出し、伸ばしています。


清盛が後白河法皇の為に建てた三十三間堂
 その他、清盛が後白河法皇のために建てた三十三間堂(蓮華王院)が最も有名。また後白河法皇が清盛に命じて和歌山・熊野から土砂木材を運ばせ造営させた新熊野神社などもあります。
清盛の貿易拠点 大和田泊を歩く

清盛の愛人や松王丸の供養塔のある来迎寺
 平家の財源は日宋貿易によるもので、その拠点となったのが大輪田泊(おおわだのとまり)、現在の神戸港です。航路を整備し、港に近い高台に都を遷し、居を構えようと企みますが、遷都は失敗に終わります。都はさておき、港としての造営は成功し、宋銭の輸入により、当時の国内の経済活動が活発になったことは、清盛の何よりもの功績です。

大輪田泊の遺構 石椋
 その大輪田泊を歩いてみましょう。神戸・三宮駅から市営地下鉄海岸線に乗り4駅。10分程で中央市場前駅に到着。次の和田岬駅までの一駅分、清盛の港を散策します。

 駅近くの築島寺(来迎寺)には、港造営の際に自ら進んで犠牲(人柱となって海神に身を投じる)となった松王丸の供養塔と清盛愛人・祇王・祇女の墓があります。

 ほどなく歩くと、巨石、大和田泊の石椋(いわくら)が案内板と共に置かれています。この巨石は港湾施設の遺構とされています。こうした石が汲み上げられ基盤を作っていました。

清盛が出家し、眠る?寺と弁天様に込めた願い

清盛が出家した寺・能福寺には清盛廟がある

大輪田泊にある清盛像

清盛橋
 しばらく歩くと能福寺。兵庫大仏が鎮座していて、大仏の方が有名なようですが、ここが清盛出家の寺と言われています。また当時の住職が京都で没した清盛の遺骨を持ち帰ったと伝わり、境内には立派な清盛廟があります。

 このあたり一帯が清盛の貿易の本拠地ですが、とても静かな街でした。また、あちらこちらに阪神淡路大震災の供養・鎮魂の碑などがあり、そうした歴史の一幕を改めて感じました。同じ場所で刻まれる歴史は異なれど、それは時代を超えて、次に学び伝えていくことは大切だなと…合掌。

 能福寺を後にして進むと、大きな交差点に清盛塚・清盛像を見つける事が出来ます。十三重の石塔は高さ約8・5m(重文・1286年)、そして昭和に建てられた清盛像が隣に。

 さらに歩みを進めると兵庫運河に架かる清盛橋。この橋は市民によって名付けられました。橋を渡り、神戸・兵庫工業高校の校舎に沿って和田岬駅へ向かうと、和田神社の鳥居が見えてきます。

 この和田神社のほか、このエリアのあちらこちらの社寺に、清盛が勧請した弁天様が祀られていました。これら勧請された弁天様は港造営の際に工事の無事とこの地の繁栄を清盛が祈願したと考えられています。


和田神社にも清盛が勧請した弁天様がある

和田神社の鳥居
 そして和田岬駅に到着。一駅分の距離をゆっくりと清盛スポット巡り約2時間弱でした。途中、清盛が後白河法皇を幽閉したとされる場所の碑(薬仙寺の境内)もあり、京都での二人のイイ関係、そして敵対と、権力、思惑の駆け引きの中で生き抜いた清盛に思いを寄せるプチ旅行でした。さて、電車に乗って京都に戻ろう!っと。(あ、この時代は都まで歩いたのですね…昔の方は健脚…)。

プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京在住。京都市観光おもてなし大使・「首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザー」としてフリーで活動中。BS朝日「とっておきの京都」ブレーン、BS11「古地図で謎解き! にっぽん探究」京都担当、京都商工会議所講演会(東京会場)講師、朝日新聞デジタル「京都旅レシピ」コラム連載など。また中学校へ出向き修学旅行事前学習講義も行う。京都観光文化検定1級。京都市観光おもてなし大使ページ