風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
夏休み、全国の「道の駅」を楽しもう!
「道の駅」を調べてみたところ‥‥
 夏休みが近づきました。旅行計画をそろそろ立て始めるころでしょうか? 私は毎月、京都に通っていますが、旅好きゆえ、時々小旅行にも出掛けます。本格的な旅は20~30代にどかん! と47都道府県を回ったので、最近は大人しく、近場ばかり。また鉄道好きなので基本、電車。私が運転をしないのでドライブ旅行は殆どしません。

 という中、たまたま用があって、高速バスと路線バスの乗り継ぎをするために某「道の駅」に寄りました。ドライバーにはお馴染みですね。休憩や地元の物産販売、レストランなど、全国各地にある「道の駅」。私も何度か利用していますが、午前中の農産販売に沢山の人々が群がっている光景に遭遇したのは初めてで、噂やテレビでも見たことがありますが、バーゲンセール並みの人出に驚きました。新鮮で安くて美味しいのでしょう。

 これを機にふと「道の駅」が気になり、調べたところ、歴史好き、京都好きの心をくすぐるような「道の駅」が幾つかありました。近隣で新鮮野菜を買うのであれば、「道の駅」は目的地。でもドライブ旅行者にとっては「道の駅」はわざわざ行く所ではなく、目的地への途中で立ち寄る所という、私のこれまでの認識が変わりました。調べ終え「道の駅」をきっかけに観光したくなる場所であってもいいのでは?…。そのきっかけとなったのは「道の駅 那須与一の郷」を見つけた時。「おお~そうか! 那須与一ね!」と。私の場合は歴史や京都に関係する場所であることが旅の目的になるので、早速「イイね!」と思いました。その視点(全く個人的視点ですが)で、全国の「道の駅」を調べてみると…。

 2016年5月現在、「道の駅」公式HPによると全国に1093の「道の駅」があるとのこと。都道府県別に数に差はありますが、ネーミングだけで「私が行きたい!」と思える「道の駅」ベスト11を独自に選びました。深く調べれば違う見解もあるのでしょうが、公式HPにある名前と簡単な説明だけで、興味を持った「道の駅」を挙げます。地名で付けただけの「道の駅」が大半で正直パッとしません。その地が「見えない」とでも言うのかな…魅力を感じないというのか? ネーミングって大事です。地名に添えて地元自慢が反映されていることが、とても大切なのではないか? と感じました。ネーミングだけで、何となく「分かる」「楽しそう」という含みを持った明解さ。「道の駅」の名前、もっと砕けて、ユーモアやドラマが、そこにあってもいいのではないでしょうか?

歴史好きが思わず立ち寄りたくなるネーミングの「道の駅」11
 今回は「歴史好きの私」が、思わず行きたくなる「道の駅11」。切りよく10にしたかったのですが、どうしても1カ所減らせなかった…順不問、北から南へ、挙げます。

 ①「那須与一の郷」栃木県・大田原市
 ②「一向一揆の里」石川県・白山市
 ③「古今伝授の里」岐阜県・大和郡山市
 ④「一乗谷あさくら水の駅」福井県・福井市
 ⑤「浅井三姉妹のさと」滋賀県・長浜市
 ⑥「明恵ふるさと館」和歌山県・有田川市
 ⑦「大坂城残石記念公園」香川県・土庄町
 ⑧「源平の里むれ」香川県・高松市
 ⑨「公方の郷なかがわ」徳島県・阿南市
 ⑩「桃山天下市」佐賀県・唐津市
 ⑪「遣唐使ふるさと館」長崎県・五島市

 以上です。いかがでしょうか? 所々の解説は省きますが、歴史好きな方には、合点が行く、土地とネーミング。少し「?」がありましたら、調べてみてください。「なるほど!」となります。今回は ①「那須与一の郷」栃木県・大田原市の紹介と京都を繋げます。

武将・那須与一と京都のゆかり
 那須与一はご存じの通り「平家物語」で弓の名手として知られた武将。「屋島の合戦」で、船上の扇の的を見事、弓で射止め賞賛された平安時代末期の武将です。下野国(現在の栃木県大田原市)で育ち、源義経の家臣となり、義経の命で京へ向かいます。その道中に病に倒れ、病気平癒・大願成就の阿弥陀如来を深く信仰していきます。病が治り参戦し、先に述べた「屋島の合戦」で見事、武功を挙げました。この時17歳だったようです。その後、下野守に任命され、京に凱旋するも出家。当時、伏見にあった「即成院」に庵を結び、そこで源平合戦で戦死した人々の菩提を弔いながら過ごし、34歳、この寺で没します。

那須与一の墓とされる宝塔

与一の手洗い所

手洗い所の脇の箱を開けると…
 京都駅の東、真言宗・泉涌寺派の総本山「泉涌寺」があります。その塔頭の一つに、その那須与一ゆかりの「即成院」があります。「即成院」は明治時代に、現在の地へ移転しましたが、那須与一が庵を結んだ当時は伏見にありました。

 その「即成院」には、鎌倉時代に作られた約3mの石造の宝塔が与一の墓として残り、与一の功績にあやかろうと成功を願って沢山の人々が訪れています。「願いが的へ」と、与一のエピソードにちなんで扇に願いを朱書きして奉納。

 また境内にある「与一の手洗い所」には面白い、遊び心を持った、ある仕掛けに沿って参拝することが出来ます。手洗い所の脇に設置された箱の中に仕掛けがあるので、是非、現地で楽しんでください。


「即成院」入り口の案内版
 また「即成院」には“仏のオーケストラ”と言われる、阿弥陀如来と二十五菩薩(共に重文)が安置され、当時の阿弥陀信仰の様子を感じる、素晴らしい仏様がおられます。お薦めです。ちょっと余談ですが「即成院」という寺名から“即、成仏する”ということで、別名「ぽっくり寺」とも呼ばれています。
道の駅「那須与一の郷」を起点に大田原市へGO

与一伝承館 写真提供:大田原市観光協会

那須神社 写真提供:大田原市観光協会

玄性寺 写真提供:大田原市観光協会
 一方、与一が幼少期に過ごした大田原市。まず、道の駅「那須与一の郷」の敷地内にはレストランや農産物直売館、情報館のほかに「与一伝承館」という観光施設があります。

 ここでは「屋島の合戦」で扇の的を射ぬいたエピソードを映像とからくり人形で再現。子供でも楽しめる工夫がなされています。また那須家伝来の家宝を始め、資料の展示が楽しめます。(大人300円・中学生以下無料・900~1700)銅像もあります。

 その他、大田原市には那須氏が崇拝し、与一が奉納した太刀が伝わる「那須神社」。当社の本殿と楼門は今年、重要文化財に指定されました。

 与一が屋島で弓を射る際、その失敗は許されないプレッシャーの中で念じた「南無八幡大菩薩…」とは、当社の祭神と言われています。また近くの曹洞宗の「玄性寺」には江戸期の那須氏によって建てられたという与一を始めとする一族の供養塔もあります。

頑張れ!道の駅!

 この大田原市のように「那須与一の郷」とネーミングされた「道の駅」。分かりやすく、楽しく印象にも残ります。与一を知っていれば尚更です。あとで「休憩したよね、あれ? どこだっけ?」にはならないはず。もし時間に余裕があり、歴史好きであれば「道の駅」を起点に「ゆかりの場所に寄ってみようか?」と観光にも繋がります。どの「道の駅」にも地元の情報発信の役割を担っているようですが、地名だけでは、何がここの産地で、何が自慢でウリだか、分かりにくいです。その点、「那須与一の郷」をはじめ、先ほど挙げた10カ所は、自分がどんなエリアを、今、走行しているのか? というドライブ中の醍醐味が感じられ、いいネーミングだと思います。立ち寄ってみたいなと思います。旅は発見! 出会い! ですから、地元電波をキャッチしたい旅人側は、情報を欲しています。それゆえ地元の物産・情報起点「道の駅」のネーミングに、もっとユーモアを! ドラマを! 期待します。

プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京在住。京都市観光おもてなし大使・「首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザー」としてフリーで活動中。BS朝日「とっておきの京都」ブレーン、BS11「古地図で謎解き! にっぽん探究」京都担当、京都商工会議所講演会(東京会場)講師、朝日新聞デジタル「京都旅レシピ」コラム連載など。また中学校へ出向き修学旅行事前学習講義も行う。京都観光文化検定1級。京都市観光おもてなし大使ページ