風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
美しさ気品さにうっとり「友禅染め」の雅な世界(2015年12月1日)
 

知恩院の三門の南にある「友禅苑」は四季折々の美しい庭で知られる昭和の名園
 京都の社寺に行くと、その庭に出入りしている植木屋さんが手入れをしている場面に時折、遭遇します。植木道具が足元に置いてあったり、脚立が木に架かっていたり、青いビニールシートが敷かれたりして、見栄えが悪く「ああ、残念」「写真に脚立が映ってしまう…」と普通なら思うことでしょう。当然です、運が悪かったとしか言いようがありません。ごめんなさい…です。

 私は毎月、京都に出向いているせいで「また来る」という意識があるので、寺の門前に植木屋さんの車を見つけると「やったー」と思います。庭に入り、お仕事している植木職人さんを探し、ちらちら気にしながら、話しかけるタイミングを狙います。その庭の一番、美しさを知っているのは、植木屋さんだからです。庭のポイントや一番、良い季節、そして例年と今年の草花の開花の違い、特に桜や紅葉の見ごろ、それらを話しかけ、質問します。職人さんなのであまり話が上手ではない方もおられますが、「よくぞ、聞いてくれた!」とばかりに、色んなことを教えてくださる植木職人さんに出会うこともあり「超ラッキー!!」と心が躍ります。なので、私にとって植木職人さんは貴重な情報源であり、一期一会の師であります。(何度かお見かけする職人さんもおられますが…)


「友禅苑」に入ると補陀落池という池が。池の中心には石造りの台があり上段の高村光雲作・聖観音像が拝観者を優しく迎える
 つい先日も、知恩院三門の南にある「友禅苑」という名園で、植木職人さんが作業なさっており、「今年の紅葉、例年に比べ、いかがですか?」と話しかけました。手を止めて、親切に教えてくださいました。ラッキーです!

 今回は、その美しい庭園「友禅苑」ゆかりの友禅染めの創始者「宮崎友禅」をテーマに、京都と金沢を繋ぎます。

扇絵師・宮崎友禅デザインが京都で大ブレイク
 

京都を代表する伝統的工芸品の一つ「京友禅」の着物~雪輪亀甲文様~ 写真提供:京友禅協同連合会

知恩院の三門。この近くに宮崎友禅は居を構えていた

「友禅苑」にある宮崎友禅の像。手には絵筆を持っている
 宮崎友禅という絵師から名付けられた「友禅染め」は江戸時代に発達した文様染めのこと。現在でも京友禅、加賀友禅を代表するように、雅やかで美しく上品な着物で知られています。その宮崎友禅(1654?~1736年?)とは、扇絵で売れっ子だった京都の町絵師です。染めの手法は江戸時代初期からあったものの、その大ブレイクは、この宮崎友禅が衣裳のデザインを手がけたことがきっかけで「友禅染め」として発展していきます。当時の文献に、その宮崎友禅のデザインの人気ぶりが記載されていて、「友禅染め」の流行ぶりが垣間見れます。友禅は今で言うとデザイナーであり、デザインブック、見本帳を発行することで全国にその名が広まっていきました。古典的な図案を継承しながら、斬新で華やかなデザインが人々を魅了したようです。従って宮崎友禅は「友禅染め」の創始者ということで、伝統的工芸品にその名を残していると言う訳です。

 また当時、江戸幕府から贅沢を禁じる「奢侈禁止令」が発せられており、その禁をうまくかいくぐっての工夫創作が衣裳に求められていたという背景もありました。そんな時代の中の天才・デザイナーの登場ということです。

 友禅の生涯については、はっきりしたことは分かっていません。生まれは金沢・能登・京都と幾つか説があります。

 ただ「知恩院」の近くに居を構えていたことだけは確かで、昭和29年、友禅生誕300年を記念して京都の染織業界によって像が建てられ、改修造園した庭を「友禅苑」としたとのこと。この庭は昭和の名園の一つです。その苑内にある宮崎友禅像は筆を持ち、肩膝をあげ、僧形であったとされる姿を表現しています。この像の前で、宮崎友禅翁顕彰会による追善供養・謝恩供養が今でも行われています。

晩年に友禅が暮らした加賀でさらなる発展を遂げる
 

石川県・金沢にある龍国寺で宮崎友禅の墓碑と文献がみつかっている 写真提供:協同組合 加賀染振興協会

加賀友禅会館にある「宮崎友禅斎」の像 写真提供:協同組合 加賀染振興協会

兼六園の近くにある「加賀友禅会館」。加賀友禅の展示や実演、体験などが出来る施設 写真提供:協同組合 加賀染振興協会

宮崎友禅の指導によってさらに発展した「加賀友禅」。今もなおその伝統美は受け継がれている 写真提供:協同組合 加賀染振興協会
 生誕地や没地などもはっきりしない謎の多い宮崎友禅ですが、晩年は京都を離れ、加賀に移り住み、そこで没したという説が有力です。大正時代に金沢にある龍国寺で墓碑と文献が見つかっています。ここでも「友禅祭り」が年に一度行われています。

 加賀友禅の実演、体験や展示は兼六園の北東にある「加賀友禅会館」へ。加賀友禅は、もともとこの地にあった「梅染」に、宮崎友禅の登場によって発展したものと言われています。

 京友禅と加賀友禅の違いを述べるのは難しいのですが、工芸の専門家でない私が解釈する限りでは、京友禅が公家文化の影響を受けた色使いや集合配列文様であることに対し、加賀友禅は武家文化の特長を持ち写実的な草花文様であると理解しています。冬の兼六園も素敵ですし、是非、近くの加賀友禅会館へもお立ち寄りください。

 京友禅、加賀友禅を代表する「友禅染め」は国が指定する伝統的工芸品としても知られ、その着物は雅さ、美しさ、品格があり日本を代表する染物として今もなお、愛され続けています。もし、私にサンタクロースがいるのであれば、クリスマスプレゼント「京友禅、加賀友禅のお着物欲しいな、着たいな…」と無理なお願いをしつつ、今年の「京都物語」はこれにて。

 来年も、他では、なかなか語れない京都と各都道府県のお話しをお伝えして行ければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 良いお年をお迎えください。

 

  • 友禅苑:9時~16時(受付終了) 大人300円(知恩院方丈庭園との共通券500円あり)
    ・電話075・531・2157
  • 加賀友禅会館:9時~17時 水曜休 地階無料/1階有料 大人310円
    ・電話076・224・5511
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京在住。京都市観光おもてなし大使・「首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザー」としてフリーで活動中。BS朝日「とっておきの京都」ブレーン、BS11「古地図で謎解き!にっぽん探究」京都担当、京都商工会議所講演会(東京会場)講師、朝日新聞デジタル「京都旅レシピ」コラム連載など。また中学校へ出向き修学旅行事前学習講義も行う。京都観光文化検定1級。京都市観光おもてなし大使ページ