風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
~全国の国立博物館へ 通おう!旅しよう!親しもう!~(2014年9月1日)
 
 この度、京都国立博物館の平常展示館が建て替えのための約6年間の休館を経て、いよいよ今月13日にリニューアルオープンをします。「待ちに待った!」という思いで一杯です。その新しい平常展示館は「平成知新館」と名付けられました。まず9月13日から始まるリニューアルオープン記念展「京へのいざない」を早速、観覧予定です。そして「京博パスポート」を購入し、京都のみならず、全国に4つある国立博物館の平常展示も、そのパスポートで何度でも行けるようにしよう!と企んでいます。

新しく生まれ変わった平常展示館「平成知新館」
撮影:北嶋俊治
 今回は京都国立博物館のリニューアルオープンを祝って、その記念展「京へのいざない」、そして全国にある4つの国立博物館、年間パスポートのご紹介をします。
京都国立博物館リニューアルオープン記念展へ行こう!

重要文化財 宝誌和尚立像
(展示期間9月13日~12月23日)
所蔵元 西往寺 写真提供:京都国立博物館
 京博(=京都国立博物館)史上、国宝、重文含む名品を、これだけ出し惜しみなく展示したことは恐らくないというリニューアルオープン記念展「京へのいざない」。1期2期合わせ、総点数400!!13の展示室それぞれにテーマをもうけ、展示します。キャッチコピーの通り、まさしく「ズラリ国宝、ずらり重文。」です。 特別展示室では、9月13日~10月13日までの第1期「肖像画」、第2期の10月15日~11月16日は「桃山 秀吉とその周辺」です。私が特に楽しみにしているのは全期間展示している仏像「宝誌和尚立像」です。

重要文化財 豊臣秀吉像 玄圃霊三等賛
(展示期間10月15日~11月16日)
所蔵元 西教寺 写真提供:京都国立博物館
 この仏像は2006年の東京国立博物館で開催された「仏像展」で初見したとき、ビックリしました。とても衝撃的で、怖いと思ったことをハッキリと覚えています。仏様には大抵、慈悲や優しさ、救われる気持ちを抱きますが、この時は、恐ろしい、でも、その場を離れたくない、そんな印象。今回、再会を果たしご縁を結べることが非常に楽しみです。そして、現在、京博が建つ地は、秀吉が大仏を安置するために建てた方広寺の敷地の一部でした。(現在の方広寺は隣接)

 また平成知新館の地下講堂では、4K映像、VR(バーチャルリアリティ)映像のシアターがあり、その鑑賞も楽しみでなりません。こうした最新技術で名品に視覚で感じる迫力も、新しい博物館の醍醐味です。時間に余裕を持って、ゆっくりとじっくりと平成知新館を満喫したいと思っています。

各博物館にあるサービス「年間パスポート」のお薦め

東京国立博物館 平成館
写真提供:東京国立博物館
 ご紹介した京博を始め、全国に国立博物館は合わせて4館あります。どこも素晴らしい博物館です。九州博物館は、他の博物館よりも近年開館したので、私もまだ行っておりませんが、他3館には何度も足を運んでいます。

 今回「待ちに待った」理由の一つは、年間パスポートを有効に利用するために、リニューアルを待っていたという事情もあります。皆様は国立博物館の年間パスポートサービスをご存じでしょうか?(博物館によって名称、サービス内容が若干異なるので、詳細は各博物館HPにてご確認ください)このパスポートを利用すれば、4館の国立博物館の平常展示に年間何度も通え、沢山の文化財、芸術作品が楽しめる事、間違いなしです。

 皆さんはお近くの国立博物館に年間、1~2度は行かれますか?恐らく大半の方は何か興味のある「特別展」の観覧で足を運ぶことと思います。その特別展の観覧後、「その特別展チケットで平常展示もご覧いただけます」という有難いお言葉に導かれ、特別展観覧後に、平常展示も観覧しようと思いますよね。

 私も「折角だから」と立ち寄るのですが、まともに集中して平常展示をゆっくり堪能できた試しがありません。特別展で力尽き、さらに沢山の展示物を受け入れる体力と集中力に欠けてしまうのです。だらしないのですが、事実です。いつも「日を改めて、来よう…トホホ」となる有様です。お得な配慮があるのに、そんな(損な)ことで、どうする!と自分を毎回戒めるのですが、それだけ、特別展が毎回、素晴らしい充実した内容の裏返しでもあります。

 そこで「パスポート」。このコラムを毎月お読みいただいている皆様であれば、歴史や文化財にもご興味がおありですから、年間パスポートの元は取れるのではないかな?と。ちなみに「京博パスポート」は年会費3100円。京都・東京・奈良・九州の4館の平常展示は1年間何度でもOK、特別展覧会は各展覧会につき1回、合計6回まで無料です。(東博・九博については各館特別展覧会を1回ずつ、もしくはどちらかの館で2回まで無料)お得です。4館とも、同様のサービスが受けられるパスポートがあるので(内容は若干異なるのでご確認を)是非。

一番近くの博物館に気軽に出掛けよう
 博物館や図書館の近くに住んでいる方が羨ましいなと思う時があります。ネットが発達した現代、家や会社に居ても、大半のことは調べられ、写真で目的のモノを見ることは出来ます。時間効率、利便性なども考えれば、それで「済む」のです。でも、その手軽さが、感性を低下させ、感動の希薄さ、本物を目にする機会を極端に減らしているのではないかと懸念します。

 特にネットに依存してばかりだとバーチャルな世界で、行った気、見た気、知った気になっている、それで生涯、済んでしまう現実に空しさを感じます。こんな時代だからこそ、博物館へ行き、特に美術品、文化財などは実際、目の前で実物を見て欲しいなと思いますし、私自身も心掛けています。

 本物に息づく先人の魂、高度な技、その作品に託した意図や生まれた背景、時代を知る、または想像することこそ、時を越えた出会いがあります。「パソコンからでも、それは分かるよ」と言われそうですが違います。パソコンで芸術、美術、文化財を見て、感動したこと、少なくとも私はありません。本物の作品を目の前にした時の震えるような感動、「泣けるほど素晴らしい、儚く切なく美しい、強く逞しく、エネルギーを得る」、そう感じて、文化財の前で立ちすくんだ経験が何度もあります。

 その作品の伏線や誕生ドラマ、今まで長い月日を越えて、残され続けてきた経緯を知れば、なおさら、作品と時を越えて向き合える“奇跡”に感激します。沢山の展示から、たった一つでも、その奇跡の出会いがあるだけで、充分、足を運んだ甲斐がある、というものです。

 そして、何度も本物を見る経験を重ねるうちに、点で捕えていた知識が次第に、線で結べるようになってきます。「この作品は、あの作品の影響を受けているのだな」「あの作品と同時期だ、絵師はこの時期活躍した誰なのかな」とか、自分の中で歴史が動き始める、このことに、また心が躍り、嬉しくなるのです。同じ作品でも、自分の成長で見方も変わってきます。経験や歳を重ねることで、また感性、感度も変わるのでしょうか。

 なので、何度も行く、何回でも見る、それは、結果として私を豊かにしてくれています。先人の残した作品が私を感動させ、心を豊かにし、成長させてくれる。まさに文化財は「国民の宝」としか言いようがありません。なので、特に博物館のお近くの皆様、是非、日常生活の中に、お散歩に行くように「博物館に行ってくるね」という親しみを持って、「国民の宝」の恩恵を是非とも受けてください。

何処へ行く?旅の目的が「博物館」「美術館」、素敵です!
 以前、このコラムでお話ししましたが、私は47都道府県の旅を30代に制覇し、所によっては名所、旧跡ではなく、博物館や美術館、記念館を旅の目的としました。今は、京都に足繁く通っていますが、社寺仏閣とほぼ同等の確立で、博物館、美術館、記念館も行程に入れています。展示内容を把握し、計画を立て、また悪天候の時は博物館に切り替えるようにしています。また、今回のリニューアルや開館したばかりの施設がある場合は旅の最大の目的がそうした施設となります。

 特に京都旅行は「折角、京都に来たのだから、やはりお寺よね」と社寺が優先となるでしょう。でも、お寺の寺宝が博物館に寄託されているケースも多いので、文化財の所蔵元の寺を訪ねるとまた一味違います。お寺や神社と連動した見方が出来るのも京博の強み。博物館に立ち寄ることで、その旅が、より深まることは間違いないです。

 過去に京博で“京狩野”の特別展を見た後、泉涌寺に行くと、そこで、また狩野派の作品に出会い、さらに京狩野派の墓は泉涌寺が管理する山中にあることを知りました。(墓参りは不可)ならばと、ゆかりの大覚寺や妙心寺へ行こうと予定を変えたことがあります。作品の故郷や所蔵元、ゆかりの人物の足跡を追う「京狩野」の旅は、大変印象深いものになりました。そうした様々なテーマやキーワードを携えての旅が直ちに可能になるのが京都。盆地という狭い土地ゆえに距離もなく移動も短時間。とてもドラマチックで充実感もあります。

 博物館や美術館を旅とセットとして捉えることの素晴らしさを是非、旅人に試していただきたいなと思います。旅の目的が「博物館」素敵ですね。

4館の今秋の特別展と各博物館の基本詳細
 最後に各博物館の今秋の特別展示を博物館の基本情報と合わせて紹介します。芸術の秋に限らず、年間通して、博物館に親しんでみては、いかがでしょうか?

 それにしても、各博物館、今秋の特別展、4館とも凄いラインナップ!!

 そうそう、博物館の展示物だけでなく、博物館そのものの建築物としての歴史やデザイン性の素晴らしさ、庭の散策なども是非、お見逃しなきよう。

 ※年末年始の休館日は4館、それぞれ異なるので、HPなどでご確認ください。



京都国立博物館 撮影:北嶋俊治
写真提供:京都国立博物館
●京都国立博物館

今秋の特別展 修理完成記念「国宝 鳥獣戯画と高山寺」

期間:10月7日~11月24日 本館(明治古都館)特別展一般1500円

アクセス:京阪七条駅下車徒歩7分ほか、京都駅から市バスあり
平常展観覧料:一般520円(特別展は別料金)9:30~17:00(入館16:30)
休館日:毎週月曜日(休日の場合開館、翌日休館)
その他:パスポートなどの特典サービスなども有
問い合わせ:075-525-2473(テレホンサービス)
京都国立博物館ホームページ(http://www.kyohaku.go.jp/jp/)


東京国立博物館本館 写真提供:東京国立博物館
●東京国立博物館

今秋の特別展 「日本国宝展」

期間:10月15日~12月7日 平成館特別展示室 特別展一般1600円

アクセス:JR上野駅・鶯谷駅下車徒歩10分ほか
平常展観覧料:一般620円(特別展除く)9:30~17:00(入館16:30)
休館日:毎週月曜日(休日の場合開館、翌日休館)
その他:パスポートや友の会などの特典サービスなども有
問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
東京国立博物館ホームページ(http://www.tnm.jp/)


奈良国立博物館 写真提供:奈良国立博物館
(写真の「なら仏像館」は9月8日~平成28年3月まで(予定)改装工事のため、休館)
●奈良国立博物館

今秋の特別展 天皇皇后両陛下傘寿記念「第66回 正倉院展」

期間:10月24日~11月12日 東・西新館 特別展一般1100円

アクセス:近鉄奈良駅徒歩15分ほか
平常展観覧料:一般520円(特別展除く)9:30~17:00(入館16:30)
休館日:毎週月曜日(休日の場合開館、翌日休館)
その他:パスポートの特典サービスなども有
問い合わせ:050-5542-8600
奈良国立博物館ホームページ(http://www.narahaku.go.jp/)


九州国立博物館 写真提供:九州国立博物館
●九州国立博物館

今秋の特別展 「台北 國立故宮博物院―神品至宝―」

期間:10月7日~11月30日 特別展一般1600円

アクセス:西鉄太宰府線太宰府駅下車徒歩10分ほか
平常展観覧料:一般430円(特別展除く)9:30~17:00(入館16:30)
休館日:毎週月曜日(休日の場合開館、翌日休館)
その他:パスポートや友の会などの特典サービスなども有
問い合わせ:050-5542-8600(ハローダイヤル)
九州国立博物館ホームページ(http://www.kyuhaku.jp/)
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。「京都観光おもてなし大使」