風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都  こんな古都  京都物語」
・・・ちょっと涼しくなる不思議なお話・・・~京都に残る伝説~(2013年8月1日)

 毎日、お暑うございます。京都も盆地ゆえ特有の蒸し暑さ、身体に堪えます。ただ例年に比べると、まだマシ…と過ごしやすい日もあります。とは言え、先日5日間、京都滞在した私は明らかに盆地焼け。早くも夏休みを終えた子供のように健康的な肌色をしております。京都には涼を求め山間部や川辺に行かずとも、ある意味で「涼しさ」を感じるスポットが中心部に幾つもございます。京都の場合、心霊スポットとは言わず、魔界スポット、不思議な伝承・伝説スポットとなります。私は幸いなことに霊感がなく“怖い”と言われる場所に行っても、“感じた”ことはございません。ある場所を除いては…(そこだけは言えません)…ということで、今回はお話で「涼」を感じて頂くスポットを幾つかご紹介します。

お嫁にいけなくなってシマッタ…「班女石」

写真:繁昌神社 商売繁盛のご利益ゆえ、算盤の珠が付いた根付お守りが授与

写真:班女石 少し茶色のキューブ型の石

 「京都のオフィス街「四条烏丸」から近く、ビルとビルの間に商売繁盛・良縁成就のご利益のある「繁昌神社」があります。その小さな社の裏手(旧鎮座地)に両手を広げた程度の大きさの「班女石」と呼ばれる石があります。駐車場の片隅、しめ縄が貼られ、綺麗に手入れされ、その存在感に「何かあるな…」と。

 近づいてみると案内板がフムフム。昔、この地に姉妹が住んでおり、姉は嫁いだが妹は独身のまま若くして病死。遺体を棺に入れ運び出しが、墓地へ着くと棺が何故か軽い。中を開けると空っぽ。そして家に戻ると遺体が臥していた。再び運んでも、また遺体は家へ戻ってしまう。家を恋しがる娘の気持ちを汲み、家の下に埋葬すると、いつしか盛り上がり塚になったという話。更に調べてみると、この伝説と中国前漢の時代に帝の寵愛を失った女官・班婕妤(はんしょうよ)の悲しい逸話が合わさり、「班女」は幸薄い、愛を失った女性の代名詞となって、和歌や源氏物語にも取り上げられるようになったという。それゆえ、この石を独身女性が訪れると破談になる、結婚できないと言われるように。「え…ああ…遅い」この写真を撮りに行ってしまった私は生涯独身?後悔先に立たず…後知恵…。シマッタ…

この水を飲ませれば、あの人との縁が切れる?!「鉄輪の井」

写真:鉄輪井への入口 家と家の間の私有地を進むので、お静かに

写真:鉄輪の井 水は涸れているが、訪れる人は多い様子

 こうなった以上、もう一つ、幸薄い女性の話を。先ほどの「班女石」からも徒歩範囲。人が一人通れる程度の家と家の間、「こんな所、私有地?だよね、いいのかな?」と進むと「鉄輪井」と「命婦稲荷社」が並んで鎮座しています。親切なことに伝説の解説コピーが側に置いてあり、訪れた人が自由に持ち帰れるようになっています。こうした親切、地元愛を持つ京都の人々はスゴイと思いますね。それによると、下京に住むある女が自分を捨てて後妻をめとった元夫を恨み、貴船神社に丑の刻詣をしたところ、鉄輪を頭にのせて鬼になれるとお告げが。元夫は、それ以来、悪夢に苦しみ、安倍晴明に占ってもらうと、今宵、呪い殺されると忠告される。そこで調伏の祈祷を受けると鬼女が登場。元夫は命が助かったものの、鬼になった女は、この辺りで息絶えたと。そこで、鉄輪と共に女の霊を弔って塚を作って供養したというお話。そして、ここにあった井戸は縁切り井戸として有名になったそうだ。残念ながら?現在、水は涸れていますが…でも未だにペットボトルに水を入れきて、ここに供えて祈り、持ち帰る人もいるらしい。縁を切りたい相手に、そっと飲ませるのでしょうね…怖い。

大戻りたい?!戻れない?!戻ってくるな?!「戻り橋」

写真:堀川に架かる「一条戻橋」 平安時代から、この位置は変わらぬそうだ 

写真:晴明神社境内にある旧・戻橋の欄干と式神の石像

 先ほどの男を助けた安倍晴明、平安時代の陰陽師として知られる人物です。彼を祀る晴明神社の近くには、晴明にもゆかりの深い「一条戻橋」があります。晴明には陰陽師の仕事を手伝う式神という部下がおり、彼らをこの一条戻橋の下に閉じ込めて待機させ、用事のあるときに呼び出していたと言われています。
一条戻橋のほど近くには晴明を祀る晴明神社があり、境内には先代の橋の欄干が移築され、その傍らにはデフォルメされた式神の石像があります。ちなみに式神は人間の眼には見えず、顔は大人で背丈は童とされています。

 この一条戻橋には沢山の伝説があります。その一つを紹介しましょう。平安時代の文章博士・三善清行がある日、亡くなります。父親の死に目に間に合わなかった息子・浄蔵は修験道の修行から急いで帰京。父の葬列に、この堀川に架かる橋で追いつきます。浄蔵は棺に向かって一心に読経すると、何と父があの世から戻り、息を吹き返し、二人は抱き合って喜んだと言われる伝説が残ります。この伝承から出兵する兵士が無事に帰還でき戻れるようにと、この橋を渡って戦場へ向かい、また今でも婚礼や葬儀ではこの橋を避ける習わしが残っています。私は何度も京都に戻ってきたいので、わざわざ渡ってみたりします。

百鬼夜行の怪異伝説 妖怪ストリートとして町おこし

写真:大将軍商店街にある「百鬼夜行資料館」見学は無料

写真:商店街の店先には手作りの妖怪人形がお出迎え

 その戻橋が架かる一条通は東西の道。実は「百鬼夜行」の通り道とも言われています。「百鬼夜行」とは、平安時代、都で捨てられた鍋や釜などの古道具が付喪神という妖怪に姿を変えて夜中に行進するという怪異伝説。行進日は夜行日とされ、陰陽師に該当日を聞いて、貴族たちは、この夜に出歩かなかったとされています。一条通にある大将軍商店街では2005年から、妖怪に扮して仮装行列が商店街を練り歩き、店先には手作りの妖怪人形を置いて「妖怪ストリート」として町おこしをしています。近くを走る京福電鉄では「妖怪列車」を毎年8月に運行。車内を暗くし、地元の大学生が妖怪に扮して電車に乗り込んで、乗客を驚かせ、盛りあげています。

 「妖怪ストリート」と言えば、全国的に有名な境港市にある「水木しげるロード」。境港ご出身の水木しげるさんの作品「ゲゲゲの鬼太郎」に登場するキャラクターのブロンズ像が、駅から記念館までの道中に点々とあって、とっても面白いですよね。米子から走るJR境線の妖怪電車にも乗ったことがあります。鬼太郎の世界へ迷い込んだような錯覚が楽しめます。また、東京調布市も水木さんが市民であることのご縁で、天神通り商店街に妖怪モニュメントがあります。10月27日には境港市と調布市が試験会場となって「妖怪検定」が実施されますので、ご興味のある方は是非ご受検ください。 水木さんの「ゲゲゲの鬼太郎」の世界観に規模は到底、及びませんが、大将軍商店街の手作り感が満載の妖怪ストリートへ、この夏、是非お出かけください。最後に念を押しますが、私は京都で「怖い」思いを体感したことはありません、ある場所を除いては…。

アクセス

  • 班女石・繁昌神社
    地下鉄烏丸線「四条」または阪急電車「烏丸」下車、徒歩7~8分
  • 鉄輪の井
    地下鉄烏丸線「四条」または阪急電車「烏丸」下車、徒歩7~8分
  • 一条戻橋・晴明神社
    市バス「一条戻り橋・晴明神社前」下車すぐ
  • 大将軍商店街
    市バス「大将軍」または京福電鉄「北野白梅町」下車、徒歩3~5分
  • 境港市観光協会HP http://www.sakaiminato.net/
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。