風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都  こんな古都  京都物語」
「師走と言えば“赤穂魂”内蔵助の秘密の茶室」

 皆様、初めまして「塩原直美」です。新コラム「あんな古都、こんな古都 京都物語」では、京都で歩きながら見つけた、皆様の住む町や故郷にゆかりのある名所、人物などをご紹介します。王道外れたマニアックな場所、「へえ~」という小話を交えながらの自由気ままな旅、是非、お付き合いください。


「岩屋寺」の境内には内蔵助の遺髪塚や宅址がある ⓒそーぽん

 さて第一回目“師走”と言えば、年末のお約束「忠臣蔵」でしょうか?テレビの前に呑気に座っていられない忙しい時期だし、何度も見て、ストーリーが分かっているのに何故、何ゆえに「見てしまう」のか?これではテレビ局の思う壺ですね。しかし見ずにいられない歴史・時代劇ファンの私。いや私だけでなく、日本人の心を引き付けてやまない「赤穂義士」。やはり胸が熱くなります。
京都では大石内蔵助が「一力さんで遊んだ」という“仮名手本忠臣蔵”のイメージが先行しているかもしれませんが…実際遊んだ花街は伏見で、山科に住み暮らしていました。
山科の「岩屋寺」(いわやじ)の界隈が隠棲の地と言われています。でも“どうして、堂々と暮らし遊べたのか?”その理由の一つは東山区にある「泉涌寺(せんにゅうじ)別当・来迎院」(らいごういん)の住職と外戚関係にあり、寺請証文を受け、この寺の檀家になっていたこと。今で言う身分証明が得られたということになります。

密議・密会にふさわしい!!歴史ロマンに浸れる度100%

泉涌寺の山内、石橋を渡り「来迎院」の山門へ

名水が湧き出ていることを知った内蔵助は茶室「含翠軒」を建立

 「来迎院」には今も内蔵助ゆかりの茶室「含翠軒」(がんすいけん)や遺愛の茶釜などが残っています。この茶室で密議がなされたと言われ、確かに現在も見つけにくい隠れた地形にあります。木々に囲まれ、密議・密会にふさわしい!と行くと実感できます。紅葉の隠れた名所ですが、それ以外の季節はほとんど人がいません。静かに木々を揺らす風の音を聞きながら、一人、内蔵助の胸に秘めた忠義に心を重ね、歴史ロマンに思いを馳せ、我に返れなくなる私。

 この「来迎院」へはバス停・泉涌寺道より、だらぁ~だらぁ~と続く「泉涌寺」への参道を上っていきます。「泉涌寺」は皇室にゆかりが深く、ガイドブックに載っているものの、観光客は少ないです。私は泉涌寺へ至るこの参道を「明るい老後ロード」と名付け、元気な中高年の皆様にお薦めしています。この参道には“即、成仏”から「ぽっくり寺」と呼ばれる「即成院」(そくじょういん)、病気平癒を願う“身代わりのお釈迦様”がおられる「戒光寺」(かいこうじ)、“ボケ封じ観音”で知られる「今熊野観音寺」(いまくまのかんのんじ)と老後に向けての切なる願いを叶えてくださる仏様がズラリ。“病気をせず、ボケにならず、ポックリあの世へ行けたら”こんな幸せなことはありませんからね。“あの世へ至る願いを、どうかお聞きとどけくだされ…”とお願いしながら、「来迎院」へ至るという道中という訳です。

赤穂魂を語り伝える大石三都物語 京都・東京・赤穂

14日に行われる「義士まつり」で立ち寄る赤穂義士ゆかりの「瑞光院」

港区・泉岳寺には連判状を持つ「大石内蔵助良雄銅像」が建っている

赤穂城跡の麓にある「塩と義士の館 赤穂市立歴史博物館」 写真提供:赤穂市立歴史博物館

博物館では常時4つのテーマ展示のほか、企画展も開催 写真提供:赤穂市立歴史博物館

 話が逸れました…赤穂義士に戻しましょう。大石内蔵助は京都から江戸に何度か往復したものの、約1年4か月、京都で暮らしました。京都には「来迎院」の他に12月14日のみ公開の寺を含めると赤穂義士ゆかりの地が約10カ所。毎年14日には山科区役所が中心となって「義士まつり」が行われ、47士に扮し、討ち入りを再現した列がゆかりの社寺を巡ります。地元の人々が扮するので、沿道には知人・家族などが、その勇士を見よう!と集まり、アットホームな雰囲気で列を待ちます。赤穂義士の魂はさておき、なかなか温かなイベントです。

 さて東京にも浅野家菩提寺の「泉岳寺」、一部公園になっている「吉良邸跡」と偲ぶ場所も多いですね。討ち入り後の足跡を電車やバスを使わず一度歩いてみようかな。

 そして義士たちの故郷、命を懸けて守りたかった播州には赤穂城跡の麓に「塩と義士の館・赤穂市立歴史博物館」があり、歴史を今に伝えています。赤穂の城と城下町、赤穂義士、赤穂の塩などのテーマ別常設展のほか、期間で特別展も開催。

 今年14日はテレビ前を離れ、赤穂、京都、東京と「赤穂義士」の縁の場所に出掛け、どこかで“討ち入り蕎麦”でも食べて、赤穂魂に思いを馳せる、そんな年末も歴史・時代劇ファンの醍醐味かな。

アクセス・問い合わせ

  • 来迎院(東山区)8市バス「泉涌寺道」下車徒歩15分  電話:075-561-8813
  • 岩屋寺(山科区)8京阪バス「大石神社」下車徒歩8分 電話:075-581-4052
  • 「義士まつり」12月14日 山科区役所地域力推進室 電話:075-592-3088
  • 泉岳寺(東京都港区)都営浅草線泉岳寺下車徒歩3分 電話:03-3441-5560
  • 赤穂市立歴史博物館 JR播州赤穂駅下車徒歩15分 電話:0791-43-4600
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。