風土47
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釜山チャガルチ市場(부산 자갈치 시장)

 昨年の9月号に韓国の一般的な刺身(フェ)について書きましたが、今回はそれとはちょっと違う刺身をご紹介しましょう。

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チャガルチ市場で食べた刺身

 韓国最大の水産物市場である釜山(プサン)のチャガルチ市場に行ってみました。

 韓国戦争(朝鮮戦争)が終わった後の生活戦線に飛び込んだ女性たちがチャガルチ市場に集まって商売を始めたのがきっかけで、今のような大きな市場ができることになりました。

 日本に大阪おばさんがいるように、韓国にはチャガルチおばさんがいます。強いアクセントの釜山弁で、愉快ながらも懐かしいおばさんたちの呼び込みを聞きながら新鮮な魚介類を見るのがここの最大の魅力といえるでしょう。そのためか、地元の人だけでなく、観光客で常に賑わっています。

 海に沿って長く形成された市場には、海産物や乾物、焼き魚など様々な専門店が建ち並びます。その中でもひときわ目立つ7階建ての建物の中には、ここが室内か屋外かよく区別ができないほど巨大なもう一つの市場があります。

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チャガルチ市場の中。こんなお店が延々と続きます

 中に入るとすぐに通路の両側から呼び込む人たちの掛け声と、その日取れた生きている魚に圧倒されます。楽しくて、見て歩いているうちにいつの間にか時間が過ぎてしまいます。

 買いたいと思う海産物と予算を伝えると、それに合わせてお店の人がバスケットに入れて見せてくれます。お店によって値段も量も違うので、値切りするのも楽しみの一つです。

 今回は、韓国では一般的ですが、日本では少し珍しい素材も選んでみました。

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これはナガアシダコ / 手前右がアワビ
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手前右はナマコ、左がホヤ / 手前がユムシ

 ナガアシダコ、ナマコ、ホヤ、アワビ、ユムシをひとつのバスケットに入れて30,000ウォン! ソウルでは考えられない安さです。持ち帰る場合はアイスボックスに氷を入れて鮮度を保つようにしてくれます。

 私と友人はここで食べることにして、買った海産物を持って2階に上がりました。

 2階には多くの食堂があり、この中からお店を選んで刺身の捌きを頼みます。
 料金は一人当たり3,000ウォンですが、別料金でアワビ粥や海鮮料理なども注文でき、飲み物なども販売しています。

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これが今回の刺身の素材 / 2階のお店。ここで捌きをお願いしました

 一般的な刺身専門屋ならば20種類に近いつきだしが出てきますが、ここではそれがありません。むしろ、その分安い価格で活きの良い刺身を食べることができるというのが、ここの最大のメリットと言えるでしよう。

 最近では多くの水産物市場が魚を売るだけではなく、食べることもできるような設備を備えています。

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刺身が運ばれてきました

 食べ方としては、酢コチュジャン、わさび醤油、塩入りのごま油、ニンニクと青唐辛子入りの味噌の中から、お好みで刺身につけて食べたり、エゴマの葉やサンチュに包んで食べます。

 普通のタコとは違うナガアシダコのシコシコとした歯ごたえには、ついついはまってしまいます。刺身にしても動いて皿から逃げていくので、食べ終わるまで注意が必要です。

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ナガアシダコが皿から逃げようとしてます / 刺身のたれ4種

 ホヤは身の中に海水が残っており、そのまま食べるとホヤ特有の香りが口の中一杯に広がります。子供の頃初めてホヤを食べた時、その香りの独特さに感動した覚えがあります。

 アワビはそれほど大きなサイズではありませんが、身が締まって味もしっかりしています。

 ナマコとユムシは私の大好物です。その見た目のため韓国人の中にも敬遠する人がいますが、外見と違ってとてもおいしいのですけれどね。

 ナマコの噛み始めはやや硬いですが、噛めば噛むほど湧き出てくる海の塩味とナマコ本来の香りが本当に魅力的です。

 ユムシは塩入りのごま油につけて食べるのをお勧めします。味はほとんどありませんが、最初のやわらかい食感と違って噛めば噛むほどシコシコ感があり、その特異な食感は一度味わった人なら再び食べたくなります。高血圧や貧血に非常に良いそうです。

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窓外に広がる釜山の街並み

 食事を終え、窓の外に目をやると、対岸に釜山市街の美しい景色が見えます。
 新鮮な食べ物で体力を回復し、市場の活気で寒さにすぼみ始めた気持ちがリセットされる、とても良い一日でした。


  ◎ハングル単語メモ

  • 산낙지(サンナクチ):ナガアシダコ
  • 해삼(ヘサム):ナマコ
  • 멍게(モンゲ):ホヤ
  • 전복(ジョンボク):アワビ
  • 개불(ゲブル):ユムシ
  • 金昭英(キム・ソヨン)1979年江原道江陵市生まれ
    東京の語学スクールで日本語を学び、現在は水原市で日本語通訳として働いている。