
私の実家がある江原道の江陵市では、毎年旧暦5月5日(今年は6月6日)に「江陵端午祭」が開かれます。村の平安と農業の繁栄、家の安泰を祈るお祭りで、少なくとも400年前から続いているといわれ、韓国でもっとも歴史の古い祭りです。
※編集部注:「江陵端午祭」は、2005年度のユネスコ無形文化遺産としてリストに掲載された。

「クッ」の合間に行われるタルチュム(仮面戯)の一場面
約一週間続く祭りの期間、江陵市の中央を流れる南大川を中心に、村を守る山神への祭祀とクッ(巫女が供物を供え、歌舞を演じて神に祈り願う儀式)が朝から夕方まで執り行われます。

南大川の両側が会場となる / 「クッ」が執り行われているステージ
また、ブランコ乗りやシルム(相撲)、菖蒲を入れたお湯で髪を洗うなど、その昔端午祭りで行われた伝統的な風習をそのまま再現するほか、うちわ作りや仮面の絵付けなど、観光客が直接参加できる体験イベントも盛りだくさんです。
さらに、全国から商人たちがやって来て大きい市が立つので、楽しさいっぱいです。静かな田舎が一年中でもっとも賑わう江陵端午祭は、子供のころから待ちきれないほどの楽しみでしたが、今でも同じようにわくわくします。
今年はソウルに住む友人たちと一緒に行きましたが、彼らも思った以上の興味をみせてくれました。

伝統的なブランコ台 / 多彩な出し物が並ぶ
初夏らしくない強い日差しの中で結構な距離を歩いたので、さすがにくたびれてきました。頭の中は、お祭りよりマックッスのことで段々といっぱいになってきました。
江原道は山地が多くソバの栽培が盛んなことから、ソバを素材にした料理が発達しています。
その中のひとつが「マックッス」です。マックッスとは、水キムチのツユ、あるいは牛骨、イワシ、昆布などで取ったスープを冷し、そこにそば粉から作った麺を入れ、唐辛子粉やタマネギ、ニンニク、ゴマ、ゴマ油、水あめ、砂糖を混ぜたヤン二ョムをのせた冷麺です。

永同マックッス専門店の外観と店内
江陵市に数多くあるマックッス専門店の中でもっとも有名な店は、前現代会長故鄭周永会長が江陵へ来ると必ず食べに行ったことで知られる海辺マックッス専門店です。こちらは観光客でいつも混み合っているので、私はそのすぐ裏にある地元の人に人気がある永同マックッス専門店によく行きます。味には大きな違いがなく、どちらもおいしいです。

麺を作る奥さん / ご主人が麺を茹で / 手際よく盛り付けて行く
民家を改造した永同マックッス専門店は、素朴な家庭の雰囲気を持っており、とても気持ちの良いご夫婦二人でやっています。今回の取材ではキッチンまで拝見させていただきました。
注文が入って来ると奥さんが製麺機で麺を作り、ご主人がその麺を茹でて冷たい水で洗ったあと、器に盛って冷たいスープを注ぎます。そしてヤン二ョムとトッピングとして大根酢漬け、キュウリ、ゆで卵をのせ、仕上げにノリとゴマを振り掛けます。キッチンはそとよりずっと暑くて忙しいのに明るい表情で説明してくださるご夫婦の姿がとても印象的でした。

メミルパジョン / ネギとキムチが重ねられている
さて、肝心のお味の方です。マックッスの前に、メミルパジョン(そばとネギのチヂミ)とドンドンジュ(マッコリの上澄み)を頼みました。いつものようにネギを惜しみなくたっぷりと入れてくれました。ネギの下に酸っぱくなったキムチが敷かれていて、ネギの甘みとキムチの酸っぱさがそばの香りとよく合ってドンドンジュが進んでしまいます。これが、このお店を訪れるもう一つの理由でもあります。

江原道名物のマックッス
次はお目当てのマックッスの番です。
マックッスが初めての人は、水冷麺の中にビビン冷麺を混ぜ合わせたような見かけに驚きます。一般的に、水冷麺にはヤン二ョムを入れないからです。一見不釣り合いなように見えますが、、淡白なスープに甘酸っぱいヤン二ョムが加わり、豊かな味となって食欲をそそります。

テーブルに並ぶ調味料 / ビビンマックッス
これにノリとゴマの香ばしさが加わり多彩な味がしますが、バラバラではなくひとつによくまとまっていてとてもおいしいです。お好みでテーブルに置かれている砂糖やマスタードソースを入れます。私は甘いものが好きではありませんが、マックッスだけは砂糖を少し入れて食べます。
麺はそば粉で作られているのにシコシコ感があり、そばの味もしっかりして喉ごしがとてもやわらかです。メニューにはスープなしでヤン二ョムを多めに入れたビビンマックッスもあります。
量はソウルの2倍もあるのですが、お値段はなんと5,000ウォンです。お腹を空かしていかないと食べきるのは難しいです。
マックッス一杯で疲れもいつのまにか忘れてしまい、結局、端午祭の夜の風景を見に行くことにしました。
◎ハングル単語メモ
- 단오제(ダノゼ):端午祭
- 메밀(メミル):そば
- 해변(ヘビョン):海辺
- 강(ガン):川
- 참가(チャムガ):参加
- 시골(シゴル):田舎
- 흥미(フンミ):興味
- 金昭英(キム・ソヨン)1979年江原道江陵市生まれ
東京の語学スクールで日本語を学び、現在は水原市で日本語通訳として働いている。