
韓国では、5月を「家庭の月」と呼びます。子供の日や先生の日、両親の日、灌仏会(お釈迦様の誕生日)など記念日が多く、贈り物などで1年中で最も出費が多い月ですが、慌ただしくも楽しい一ヶ月であります。
旧暦4月8日(今年は5月10日)の灌仏会には、仏教徒がお釈迦様の誕生を祝うさまざまな行事を行います。その中の一つに、提灯に自分や家族の名前を書いた紙を付けてぶら下げる燃燈行事があります。灌仏会前日の夜に火を灯すのですが、闇の中で提灯が明るく輝くさまを見ると、人々の願いが難しさの中でも叶えられるように思うのです。私自身は仏教徒ではありませんが、5月にお寺へ行くと普段と違う風景が見られるので良く行きます。

1395年に創建されたという曹渓寺。燃燈行事の提灯が空を覆う
というわけで、今回は韓国の精進料理を紹介しましょう。
ソウル中心部の鐘路にある曹渓寺という歴史の古いお寺に近い「バルゴンヤン」という精進料理の専門店です。他の店と比べると少し現代的な感じですが、静かで気楽な室内の雰囲気は都心の中にいる事を忘れさせます。仏教徒ではなくても気軽に入れそうです。

曹溪宗団が運営する本格的な精進料理レストラン「バルゴンヤン」
韓国でも精進料理は基本的に肉と化学調味料はもちろん、長ネギ、ニンニク、ニラなど香りの強い素材も用いません。新鮮な旬の材料を使うので季節によってメニューも変わります。こちらはすべてがコースになっており、10種(25,000ウォン)、12種(36,000ウォン)、15種(53,000ウォン、すべて税別)の中から10種コースを注文しました。

緑豆おかゆ / ツルニンジン(キキョウ)のサラダ
初めに緑豆おかゆが出てきました。歯ごたえのある適当な大きさの緑豆がお米より多く、緑豆の味がしっかりとしていました。
次のサラダは、ツルニンジン(キキョウ)の芳しい香りと松の実のドレッシングが合っていて良いお味ですが、さらに長芋が入っているのでサクサク感もあってとても美味しかったです。

彩りの良いお膳 / 三色チジミ
三色チヂミは、文字通り色も味もそれぞれ違った一口大の可愛いチヂミでした。せりチヂミ、緑豆チヂミ、野菜ミックスにコチュジャンを入れたコチュジャンチヂミ、どれも春の香りをいっぱいに感じさせました。

サムバブと豆腐、餃子のセット / サムバブの中身、メタカラコウの緑が鮮やか
その次には、ご飯を山菜のメタカラコウで巻いたサムバブと豆腐、餃子のセットが出ました。サムパブには、玄米とみそソース、黒ゴマが入っており、メタカラコウの苦味を抑えてとても美味しかったです。自家製豆腐の上にはお寺で1年間熟成させた漬物が載せられており、餃子は韓国の春雨、椎茸、ニンジン、タマネギなどの野菜がたっぷりと入っていました。どれも普段味わうことができないだけに新鮮な経験でした。

餃子の中身 / 色よい自家製豆腐
カラッと揚げたシイタケをコチュジャンソースで甘辛く和えた料理は、まるで肉を食べたような満足感を与えてくれましたし、松茸とお焦げのスープは、松茸の香りが絶品でこれまた初めての味わいでした。

揚げ生椎茸のコチュジャンソース和え / 松茸とお焦げのスープ
一番楽しみにしていたハスの葉おこわは、もち米にギンナン、ナツメ、クリ、黒ゴマを加えて有機栽培のハスの葉で巻き、二度蒸したもので、ハスの葉の香りがおこわに移り、おかずなしでも十分に美味しく食べられそうでしたが、ワカメのスープとキムチ、たらんぼのナムル、アカザの和えもの、きのこ煮つけなど7種のおかずが付きました。中でも、豆腐とお寺で作った古いみそを半々に混ぜて作った豆腐みそはハスの葉おこわにとても良く合いました。

ハスの葉おこわのお膳 / ハスの葉おこわの中身
最後にデザートで甘酒(韓国の甘酒は日本より甘くなく、冷やして飲むので夏の飲み物です)と、リンゴやミカン、蓮根、ワカメ、ジャガイモ、サツマイモなどをスライスして、乾燥したり揚げたりしたものをいただきましたが、最後まで感動の連続でした。

デザート。ヘルシーそのもの
味はもちろん、見た目も美しいこのお店の料理で、一番感心したのは絞りたてのように香ばしいゴマ油と醤油、みその深い味、そして竹塩などの味付けに使う素材でした。長い時間をかけ、心を込めて作ったものはやはり違うということと食べ物は正直であることを強く思い知らされました。そんなことが、精進料理を食べると心まで安らぐ理由でしょうか。
肉を使わなくてもこれだけ多様な味を楽しんで、栄養のバランスまで取れる精進料理が、最近は韓国だけでなくアメリカのベジタリアンたちにも注目されているそうです。皆さんも韓国に来られた時に試してみたらいかがでしょうか(注:3日前までに予約が必要です)。
◎ハングル単語メモ
- 사찰 요리(サチャル ヨリ):精進料理
- 가정(ガジョン):家庭
- 어린이(オリンイ):子供
- 부처님(ブチョンニム):お釈迦様
- 연잎(ヨンニプ):ハスの葉
- 연등행사(ヨンドゥン ヘンサ):燃燈行事
- 金昭英(キム・ソヨン)1979年江原道江陵市生まれ
東京の語学スクールで日本語を学び、現在は水原市で日本語通訳として働いている。