
先日、全羅北道全州に行って来ました。百済の最後の首都で朝鮮王朝の発祥の地でもある全州は千年以上の歴史を持つ古い都市です。

それと、歴史が古いだけに料理も進んでおり、食物がおいしい地域で全国最高と呼ばれています。全州に行くと言うと口をそろえておいしいものをたくさん食べられて良いねと羨ましがられます。全州ではどの店に入っても失敗がないと言われるほどですから。
全州ビビンパと呼ばれるように全州で一押しの名物はビビンパです。しかし、通の人から知られ始め最近は多くの人々から愛されるようになった全州マッコリも欠かせません。

サムチョンドンにあるマッコリタウン/運転手さんお勧めのヨンジンジブ
全州市内には4ヶ所のマッコリタウンが形成されていて、お店の数だけでも200を越えるといわれます。それぞれのマッコリタウンによっておつまみの特徴も違うそうです。その中でもサムチョンドンにあるマッコリタウンが元祖で20店あまりのマッコリのお店が集まっています。韓国ではどの地域でもタクシーの運転手さんがおいしいお店に一番詳しいと言います。それで、タクシーの運転手さんに勧められたサムチョンドンのヨンジンジブに行くことにしました。帰りの列車を7時に予約しておいたので、お酒を飲むには少し早い4時頃にお店に到着、やはり私たちが最初の客のようでした。

開店直後の店内/お酒の種類しか書かれていないメニュー
ヨンジンジブの店内は、一般家庭を改装してお店にしたようで少し寂しい感じでした。
おもしろいことに、メニューはお酒の種類だけで、おつまみのことは一切書かれていません。メニューにあったマッコリ、上澄み、焼酒、ビールの中から店のおばあさんが二日酔いにならないと言う上澄みをたのんでみました。すると、15種類以上のおつまみが次から次へと出てきました。これが全州式マッコリの飲み方で、17000ウォンのマッコリを頼むとおつまみがこれだけ付いて来ます。

この日に出たおつまみで珍しかったものは、野菜と飛び魚卵をノリで巻いてコチュジャンにつけて食べるのと、甘いサツマイモと大根をミックスしたような味がする白菜根、長芋に塩を入れたゴマ油をつける食べ方が珍しくて新鮮でおいしく頂きました。しかし、醗酵させたエイのチゲはどうしても挑戦できませんでしたが、隣のテーブルのおじさんたちは感心しながらとてもおいしそうに食べていました。おつまみの大半は本当においしいと言うより家庭の食卓にもよくありそうな手軽に作れるものでした。それで、最初はどうしてマッコリタウンがこんなに有名なのか分かりませんでしたが、やかんの残りが半分ほどになった時やっと気づきました。

ゲジャン/かいこさなぎの醤油煮付け/豆腐とキムチの炒め

醗酵させたエイのチゲ/のりと野菜と飛び魚卵/白菜根

グァメギ(干しさんまの煮付け)/生がき/長芋

スユック(肉料理の一種)/キムチチヂミ
昔はキムチだけで何本も空けたというくらい、マッコリは庶民の代表的なお酒です。こんな素朴なおつまみこそ、マッコリの味がもっとも生きるのかも知れません。それに全州は水がおいしので、マッコリの味も韓国では三本指の中に入り、さっぱりしてとても飲みやすいです。なので、あえて個性があって特別においしいおつまみは要らないのでしょう。いくらおいしい食べ物でも毎日食べれば飽きますが、このような情のあふれる、まるで母が作ってくれたようなものなら、毎日のように食べても飽きることはないに違いないと思います。ようやく常連のお客さんが多いといううわさがなるほどと分かりました。

5時にはもう満席の店内
私たちが入ってから30分ほど経ったころ、一人のおじさんが何やら文句を言いながら入って来ました。「この前少し遅く来たら席がなくて1時間も待った」ということのようです。ちょうどそのころからお客さんが一人二人と入って来て、5時になるともう満席になり本当に驚きました。
壁にはここのお客さんが書いたらしい詩が飾ってありました。お酒とおつまみの味や店のおばさんとお客さんとの話などといった内容で暖かくてウィットもあって自然に微笑んでしまいました。入った時は少し不安もありましたが、たったの2時間でお店の印象ががらりと変わりました。
次はどういおつまみで迎えてくれるのかとても楽しみです。今度は大勢で来てマッコリを3回追加したいと思います。
◎ハングル単語メモ
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막걸리:マッコリ
안주(アンジュ):おつまみ
시(シ):詩
택시(テッシ):タクシー
만석(マンソック):満席
- 金昭英(キム・ソヨン)1979年江原道江陵市生まれ
東京の語学スクールで日本語を学び、現在は水原市で日本語通訳として働いている。