
日本に留学していた時、好きになった日本の食べもののひとつが「焼き鳥」でした。銀座の隅っこにあった焼き鳥屋さんがお気に入りで、しばしば足を運んだものです。
この日本の「焼き鳥」にあたるのが、韓国で「チキン(통닭:トンタッ)」と呼ばれる食べものだと思います。
韓国の「チキン」は鶏を揚げた料理ですが、日本の「唐揚げ」や「フライドチキン」とは異なりすべての部位を使います。日本の「焼き鳥」も同じですね。それと、専門店が全国至るところにあるという点でも「焼き鳥」と「チキン」は共通点があります。
私が、「チキン」を「唐揚げ」とではなく「焼き鳥」と比較するのはそんな理由からなのです。
水原市内には、何と!「チキン通り」という名所があります。文字通り「チキン」専門店が密集する地域なのですが、 こんなところにお店が集まっているのかと疑ってしまうほど狭くて薄暗い路地を通り抜けると、いきなり賑やかな十字街に出ます。
ここがそのチキン通りの中心なのですが、この十字路から見渡せるお店全てが「チキン」専門店と言っても過言ではありません。
今回は、その中でも最も人気が高い「ジンミ・トンタッ(진미통닭)」というお店をご紹介しましょう。

一番人気の「ジンミ・トンタッ」。店頭でチキンを揚げています
ジンミ・トンタッはご覧の通り、しもた屋風のぱっとしない外観ですが、このお店には3回も驚かされました。
まず、店頭にあふれるお客さんに驚きました。遠くから見た時には火事でもあったのかしらと勘違いしたほどで、待つことが苦手な韓国人がこんなに並んでいるなんて信じられない光景です。おいしい食べものの力ってすごいなと改めて感じました。
5か所の大鍋で鶏肉を揚げているというのに押し寄せる人々に対応しきれないようで、30分も待たされてようやく店内に入ることができました。

満員の店内(左)とメニュー
民家を改造したという店内のオンドルに座り、壁に掲げられたメニューを眺めてみます。
メニューはチキンとビールのみで、頭と足、内臓を除いた一羽丸ごとに衣をつけて揚げた「トンタッ(통닭)」と、食べやすい大きさに切って揚げた「フライド(후라이드)」がいずれも12,000ウォン、フライドに味付けをした「ヤンニョム・トンタッ(양념통닭)」と、フライドとヤンニョムの「ハーフ・アンド・ハーフ」がいずれも13,000ウォンといったところです。

大根の酢漬け(左)とマカロニ
友人とふたりで「ハーフ・アンド・ハーフ」を頼んでみました。出来上がりまで、酢漬けの大根(キムチが欠かせない韓国人も、チキンを食べる時はこの大根を食べます)とマカロニ(居酒屋などでサービスとして出るお菓子で、甘みがほとんどなく軽くてさっぱりした味です)をつまんでひたすら待ちます。

テイクアウトを待つ人々
テイクアウトの人も沢山いて、長〜く待たされるのでだんだんと退屈な気分になって来ますが、チキンのお皿が目の前に置かれた瞬間、驚きで開いた口がなかなか元に戻りませんでした。
値段は安いですが、他のお店の倍はあろうかという量で、大人3、4人で食べるにしても充分です。
ここまで待ちくたびれていた気分が一気に飛んでしまいました。

フライド(左)とヤンニョム・チキン
高温で揚げているからでしょうか、衣はパリパリ、一口かじると軟らかくておいしいお肉が楽しめます。しかも、すべてのピースにお肉がしっかりと付いているのでありがたい気分になります。
一緒に盛られている揚げた砂肝もおいしく、食べる方が忙しい状態になって、ときおり「おいしい!」という言葉を発するだけで会話も忘れて堪能してしまいました。
最近のお上品な味ではなく、昔の市場で味わえた庶民の味ここにあり、という感じでした。

スパイスが入った塩(左)とテーブルに置かれたマスタードソースとヤンニョムソース
フライドは塩またはマスタードソースを付けて食べます。私はフライドから食べ始め、次にヤンニョム・チキンを食べました。味付けは唐辛子粉と水飴を使っているので甘辛く、ビールがどんどん進んでしまいました。
常連のお客さんたちは、テーブルにヤンニョムソースが置かれているのでフライドを頼んでそれにヤンニョムソースをかけながら食べていました。サクサク感を味わうためにはこのほうが良いのだということでした。

ハーフ・アンド・ハーフ。これで13,000ウォンなんです
ふたりで思う存分食べても食べきれず、残りは家に持って帰ったのですが、冷めてもその味は一級品でした。
あまりの忙しさということもあり、お店のおばさんたちに良いサービスを期待することは難しいですが、おいしい!安い!量が多い!という三拍子に思っていた以上の満足感を覚え、そういう細かなところは大したことではないと思いました。
こんなおいしいお店の近くに住んでいるということがとても幸せです。知り合いが水原に来たら一緒に楽しめるお店がまたひとつ増えたことを嬉しく思います。
- 金昭英(キム・ソヨン)1979年江原道江陵市生まれ
東京の語学スクールで日本語を学び、現在は水原市で日本語通訳として働いている。