風土47
トックッ


 韓国では12月末と2月中ごろになると市場や大型スーパーにあるガレトッの売場が混みあっている風景をよく見かけます。

 ガレトッと言うのは韓国のお餅の一種ですが、日本のお餅とは違い、うるち米が原料です。作り方も大きく違い、お米を4時間以上水に漬けてからすり潰し、塩と水をいれて良く練り、20分ほど蒸します。そして、暖かいうちに機械に入れて細長い棒状にします。そのまま、塩かハチミツを付けて食べてもおいしいですし、一日ほど干して硬くなったものを薄切りにして色々な料理にも使います。

 ところで、12月と2月にガレトッがたくさん売れるのはどうしてなのでしょうか? 実は、韓国ではお正月が2回あるからなのです。1月1日の正月(ソルラル)と2月の旧正月(グジョン)はどちらも祝日でお休みなのですが、正月は1日だけお休みなのに対し、旧正月は3日間お休みになります。旧暦に基づくため旧正月は一定しませんが、今年は2月13日が大晦日で、15日までが休日となります。

 そのどちらにも欠かせない料理がトックッという韓国風のお雑煮です。トックッは、餅(トッ)のスープ(クッ)という意味で、ガレトッを斜め薄切りにしたものを用います。

ガレトッ
上がガレトッを短く切ったもの。左はガレトッの斜め薄切り。右はジョレンイトッ(後述)

 日本のお雑煮と同じく、地域によっても家庭によっても違いがありますが、私の実家での作り方をご紹介しましょう。

 まず、斜めに薄く切ったガレトッを水に30分くらい漬けて柔らかくします。だしは牛肉で取ります。トックッにのせる具の方は、油の少ない牛肉を刻んで、醤油、ニンニク、ごま油、塩を入れて炒めます。塩を加えて薄く焼いた玉子焼と長ネギ、ノリをそれぞれ細く切りっておきます。

具材
トックッにのせる具材。炒めた牛肉、薄焼玉子、長ネギ、ノリの4種類

 だしに塩、ニンニクを少々とガレトッを入れ、煮たってきたら、手作りのマントウ(餃子)と食べやすい大きさに切った豆腐ときのこを入れます。火が通ったら器に盛り、具をのせていただきます。お好みでコショウをかけます。

お鍋で煮ます
お鍋で煮込みます

 色とりどりの具が入ることで一層おいしく見えますし、栄養のバランスも取れます。また、味に深みと豊かさを与えます。トッは柔らかくてもちもちしていますが、味はほとんどついてないので、しっかりとした味のスープと一緒に食べるのがおいしいです。食べたあと時間がたつとお腹がいっぱいになるので、食べ過ぎないように気をつけなくてはなりません。

我が家のトックッ
これが我が家流のトックッです

 地方のトックッの作り方も少しご紹介しましょう。

 開城地方ではガレトッを干さないでゴマ油をつけながら転がして細くし、2、3センチに切ってその真ん中を木の刀で転がしながら押します。そうすると、まるで小さい雪だるまのような形になります。これをジョレンイトッと言います。手間のかかる作業なので最近は買うことの方が多いです。これで作るトックッは開城地方の郷土料理として知られています。味はそれほど変わりませんが、ジョレンイトッの形がかわいいのと口の中でころころ転がってなんだか楽しいので、子供たちが喜びます。

 慶尚道地方では牛肉の代りに、小イワシの煮干しでだしをとって生牡蠣を入れるのが特徴で、さっぱりした感じのトックッです。タンパク質とカルシウムなどのミネラルが豊富で、妊婦や発育期の子供にとても良い栄養満点の料理です。

ジョレンイトックッ
開城地方の郷土料理「ジョレンイトックッ」。雪だるまのようなかわいらしいクッ

 昔、お米が貴重だったころはトックッを食べる機会は多くはありませんでした。しかし、今は4,000〜5,000ウォン程度の手ごろな値段でいつでもお店で気軽にいただくことができます。

 最近、環境汚染や地球温暖化などで韓国の冬も昔と比べるとそれほど寒くないと言います。しかし、今年の冬は何十年ぶりにマイナス20度まで下がる寒い日が続きました。池と川がかちかちに凍って子供たちがそりですべる風景を久しぶりに見られました。そんな光景を見ると、体は寒いですが心だけは他の年より暖かく感じます。

 貴重だったトックッを今やいくらでも食べられる豊かな世の中になりましたが、お正月のトックッを心待ちにしていた人情あふれる昔にタイムトリップして温かいトックッを味わってみたいものです。

テーブル一杯の手作り料理
母の姉妹は皆料理が得意で、これらの料理はすべて伯母さんが作ったものです

 今年の1月1日は、ソウルの伯母のところに母親の兄弟が集まって楽しい時間を過ごしました。韓国では「テーブルの脚が折れる」ほどたくさんの料理を並べてもてなすのがしきたりになっています。それにしても随分作りましたね…

料理その1
左上から時計回りに、ケジャン、蒸しタコ、クラゲ冷菜、ドングリ・ムック

 海の幸、山の幸とバリエーション豊かですが、韓国料理は野菜を使ったものが多く並ぶのが特徴です。

料理その2
左上から時計回りに、白キムチ、キムチ、ユッケザン、ゴボウの煮付け

金昭英独白:「君のコラムは最近文章が長すぎる」と風土47編集部に怒られたので(笑)、今月から再び「庶民のたべもの」に絞ってお届けします…

◎きまぐれハングル一口メモ

 ガレトッ(가래떡):韓国のお餅の一種。うるち米で作る棒状の餅。

 トックッ(떡국) :トッ(餅)+クッ(スープ)=韓国風のお雑煮のこと。

 ジョレンイトックッ(조랭이떡국):開城(ケソン、現在は北朝鮮領)の郷土料理。

 ソルラル(설날):正月

 グジョン(구정):旧正月

  • 金昭英(キム・ソヨン)1979年江原道江陵市生まれ
    東京の語学スクールで日本語を学び、現在は水原市で日本語通訳として働いている。