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日本で一人暮らしだった私は、冬が間近に感じられるこの時期になるといつもホームシック気味になり、韓国でお母さんが夕食の支度をするキッチンからの音をとても懐かしく思い出したものです。
そんな時はよく神田にある小さな居酒屋に行きました。お酒をほとんど飲めない私がそのお店に行った理由は、私にとって世界で一番おいしいカキフライを味わえることと、まるで田舍のおばあさんの家に遊びに来ているようなお店の雰囲気と暖かい人々が私を迎えてくれたからです。
私が行く開店間近の時間になると、おばさんはお店の前で水をまいており、ガラガラと戸をを開けてお店に入ると、仕込みの準備で忙しいにもかかわらずマスターはいつも口をぱっと大きく開けて笑いながら元気かい?と声をかけてくれたものでした。 韓国に帰国してから 2年が過ぎた今、この時期になるとその店の暖かな灯り、料理の準備をするいかにもおいしそうな音とカキフライの味があまりにも懐かしくて日本へ戻りたくなります。
そんなわけで、今回は韓国のカキ料理を取り上げました。

◆お店の前の広々とした駐車場。車を降りてすぐ入ることができます。
周辺にはこのようなお店が集まってひとつの村を形成しています。
取材にうかがったのは、町から離れていて車がないと不便なところにあるにもかかわらず、遠くから訪ねて来るお客さんも多い、グガネトンヨングルバプというカキ炊き込みご飯の専門店です。

◆店内は広くて小ぎれいな感じです。個室もあるので、
こども連れでも気を使わず食事を楽しむことができます。
今回、母と一緒に行ったら、経営者の女性がオンドルがある部屋に案内してくれたので、母はとても喜びました。なぜなら、韓国のおばさん達は、寒い時はヒーターよりもオンドルの暖かさのほうを好むからです。

◆カキ炊きこみご飯定食とカキクッパ。おかずもいろいろ
ついてきますが、中央の大皿は定食にだけつきます。
私たち家族が頼むメニューはいつも決まっていて、カキ炊きこみご飯定食とカキクッパという組み合わせです。カキ炊きこみご飯定食を頼むと色々なカキ料理が一緒に楽しめますので、この店でも一番の人気メニューとのこと。

◆生ガキ。唐辛子とニンニクのスライスがのせられています。
最初に生ガキをいただきます。このお店では、生ガキに唐辛子とニンニクのスライスがのせられて出てきます。生ガキだけだと何となく物足りなさを感じる韓国人の味覚には、コチュジャンソースとともにぴったりな気がします。最初はカキの香りが口の中いっぱいに広がりますが、最後に舌に残るのは唐辛子のぴりっとした辛さとほのかなニンニクの香りです。

◆定食につく大皿。生ガキ、カキチヂミ、生ガキの和えものが並びます(写真は2人前)。
次に生ガキの和えものを食べます。生ガキにセリとワカメ、キュウリ、タマネギの千切りを加え、唐辛子、コチュジャン、ゴマ油、酢などで味付けしてあります。甘酸っぱさと辛さが生ガキの香りと調和して爽やかな味で、それにゴマ油の香ばしさが加わります。
次がカキチヂミ。食べやすい一口サイズです。生ガキに小麦粉をつけた後、タマネギとニラを刻んで混ぜた卵を加えて油で焼きます。これは醤油をつけて食べます。

◆熱々のカキクッパです。

◆こちらはカキ炊き込みご飯です。
最後に、カキクッパかカキ炊きこみご飯をカキの塩辛とともにいただきます。カキクッパは特製のスープにご飯とカキなどの海鮮素材が入った雑炊で、カキ炊きこみご飯は石鍋にお米と豆もやしとカキを入れて炊き上げた後、海苔をかけます。どちらもニラがたくさん入った醤油で味付けをしてよく混ぜてから食べますが、生とはまた違う深くて豊かなカキの味がします。カキ炊きこみご飯は、石鍋にお焦げがつくのでスープを入れてふやかしてから飲みます。

◆経営者が手に持っているのは、靴を整理する時に使うはさみの形をした道具です。
手で扱うと衛生的ではないということで、最近これを使うお店が増えています。
このおいしさの秘訣をお店の経営者に聞いてみました。
「秘訣なんて特にないです。ただカキに野菜を入れて味をつけただけですが、材料は新鮮で良いものを使っています」と、あまりにも正直で淡々とした言葉に初めはちょっと「あれ?」と思いましたが、良い素材を使った料理は変に味を飾らなくてもそれだけでも十分美味しいのですね。これこそがおいしさの秘訣なのでしょう。
このお店の食べ物の味も経営者の人柄のように正直ですし、お腹いっぱいになるまで食べてもメイン料理からおかずまでヘルシーな海のものと新鮮な野菜ばかりなので、逆に体の中がきれいになったような気がします。
カキ炊き込みご飯定食は11,000ウォン、カキクッパとカキ炊き込みご飯の単品は各6,000ウォンで、こちらには大皿の料理はつきません(いずれも1人前の値段)。
それでは来月をお楽しみに!
◎ハングル一口メモ
今回ご紹介した料理は「굴밥정식(グルバプジョンシク)」。「굴(グル)」はカキのことで、「밥(バプ)」はご飯、「정식(ジョンシク)」は定食。つまりこれで「カキ炊き込みご飯定食」ということになります。
取材したお店の名前は「구가네통영굴밥(グガネトンヨングルバプ)」。「구가네(グガネ)」がお店の名前で、「통영(トンヨン)」は統営という慶尙南道にあるカキの名産地。「굴밥(グルバプ)」はカキ炊き込みご飯のこと。日本語なら「クガネ統営産カキ炊き込みご飯専門店」とでもなるのでしょうか。
- 金昭英(キム・ソヨン)1979年江原道江陵市生まれ
東京の語学スクールで日本語を学び、現在は水原市で日本語通訳として働いている。