風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
神奈川県■東京湾と房総・三浦半島を見渡す観音崎


樹木茂る小高い岬に立つ観音埼灯台

灯台のてっぺんから見渡す東京湾

燈台下には記念碑や句碑がある

ユニークな設計の横須賀美術館

館内レストランの「アクアマーレ」

快適な「走水観音崎ボードウォーク」

観音崎京急ホテル近くの美しい海景
 神奈川県南東部、東京湾と相模灘を分かつように突き出す三浦半島。その中央部を占める横須賀は、黒船来航、軍都、米軍基地、造船、ベッドタウンなどさまざまな顔をもつ人口約39万の都市である。

 中心市街はJR横須賀駅から京急横須賀中央駅にかけて。港を控えて官庁や銀行、証券、企業、商店などが蝟集。人や車の往来も頻繁で活気に満ちている。

 だが観光や行楽にお勧めなのは東京湾に突き出す観音崎。浦賀駅からバスで15分で着く「観音埼灯台」は、バス停から海沿いの道を10分ほど。急坂を上り詰めると、八角形の観音埼灯台が青空の下に白く眩しく立っている。

 1869年(明治2年)フランス人ヴェルニーの設計になる、高さ19㍍の日本で最初の洋式灯台である。地震で2度倒壊しているが、現存するのは3代目に当たる。

 らせん階段を昇って最上の踊り場に立つと東京湾、房総半島、相模灘など眺望は、360度。青い海原を大小さまざまな船が途切れなく行き交う光景は胸がすくような飽きない眺めである。

 燈台の足元には、昭和23年に訪れた高浜虚子の「霧いかに深くとも嵐強くとも」の碑がある。屹然と立つ燈台と守る職員の姿を称えて詠んでいる。

 燈台下の海岸沿いの「観音崎公園」から北に道をたどると、芝生に埋もれるようなユニークなデザインの、ガラスを多用した開放感あふれる建物がある。横須賀ゆかりある画家や三浦半島、海を題材にした絵画を展示する「横須賀美術館」である。大きなガラス窓を額縁に眺める海の風景がみごとな絵になっている。

 「週刊新潮」の表紙を長い間、飾った谷内六郎氏の美術館「谷内六郎館」を併設。ほのぼのとした絵柄に懐かしき良き時代を思う。

 館内にある一面ガラス張りのミュージアムレストラン「アクアマーレ」では、海を眺めながらイタリアン料理が堪能できる。ランチなどは並ぶほどの人気がある。

 美術館前の道路の下から、海岸沿いに造られた遊歩道の「走水観音崎ボードウォーク」が延びている。船が行き交う東京湾や白波が打ち砕ける岩場、南国的なヤシ並木など「観音崎京急ホテル」までの600㍍。潮風が心地よいプロムナードである。

 観音崎京急ホテルは、全室オーシャンビューと新鮮な魚介を生かした料理で評判だったが、今年9月30日に閉館。惜しまれるが、来夏、リニューアルオープンの予定。付近は日の出のビューポイントである。


〈交通〉
・京急本線浦賀駅または馬堀海岸駅下車、バス
〈問合せ〉
・横須賀市文化スポーツ観光部観光課☏046・822・8124
・横須賀市観光案内所☏046・822・8301
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)