風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
茨城県■稲荷と陶芸、栗の美味しい「日本遺産」の町


通年参拝客が絶えない日本3大稲荷の笠間稲荷神社

笠間焼の発祥を伝える久野陶園

いなり寿司や栗菓子の店が連なる門前通り

舞茸入りなど変わり種の多い「いなり寿司」

グリュイエールの「笠間地栗のモンブラン」

巨大な花瓶が目印の有力窯元・製陶ふくだ

広い丘の上に立つ茨城県陶芸美術館
 関東平野の北東部、白河から筑波山にかけて南北に峰を連ねる八溝(やみぞ)山地。その南部の東と西に位置する笠間市と益子町は、焼き物の里で知られている。

 江戸時代、信楽の陶工の指導を受けた久野半右衛門によって始まる笠間焼。ここで焼き物を学んだ大塚啓三郎が山を越えた益子で80年後に始めたのが益子焼である。

 この伝統工芸を「かさましこ~兄弟産地が紡ぐ焼き物語~」とする“日本遺産”に共同申請したのが2020年6月に認定された。地名をつなげた「かさましこ」の呼称が広く知られたが、2つはかつて宇都宮氏が中世、500年間治めた同じ領地の歴史をもつ。

 ちなみに“日本遺産”とは日本各地で歴史・風土に根差して受け継がれてきた固有の伝統、風習、文化を日本の魅力的な物語として国が認定。全国に104ヶ所を数える。

 先日、気運が高まる笠間を訪ね、シンボル的存在の「笠間稲荷神社」に参拝。651年の創建と伝わる古社で、現存の御本殿は江戸末期の総欅の権現造。精緻な彫刻を施した国指定の重要文化財である。日本遺産構成文化財の1つで、年間300万余の参詣客をかぞえる。

 門前通りには特産の笠間栗や名物の稲荷ずしの店が軒を連ねて門前町に賑わいを添える。行列人気の「庭カフェKULA」でランチを、「きむらや」でいなり寿司を土産にゲット。通りの先にある明治中期の木造3階の旅館を活用した「かさま歴史交流館井筒屋」でひと休みした。裏庭では菊まつり(11月23日まで)が催されていた。

 日本遺産の重要な構成文化財である笠間焼発祥の「久野陶園」は、江戸時代中期、「農業の他に安定的な産業を」と名主だった久野半右衛門が信楽焼を始めた由緒ある窯元。笠間藩主が督励して盛んになった。

 建物はかなり傷んでいるが、久野陶園は14代目が引き継いでいる。14房の登り窯やベルト式動力轆轤(ろくろ)など貴重な設備や道具に目を見張る。「遺産を残そう」のクラウドファンディングによるリノベーションに間もなく着手するという。

 笠間焼の歴史は250年余り、製造販売に関わるのは250軒余り。立ち寄りたい窯元の1つが創業200余年、仕法窯(藩御用窯)の「製陶ふくだ」。巨大花瓶や日本遺産の黒釉捏鉢(こねばち)も見ものである。

 笠間駅東方の見晴らしのいい丘陵には笠間芸術の森公園や茨城県陶芸美術館、茨城県立笠間陶芸大学校など焼き物の学びから作り、遊びが集結している。

 晩秋の笠間は「菊まつり」や全国一の「笠間栗」、年が明ければ初詣客が80万人を数えるという「笠間稲荷神社」へ。年末年始が気になる町である。


〈交通〉
・JR水戸線笠間駅下車、又は常磐線友部駅北口からかさま観光周遊バス
〈問合せ〉
・笠間観光協会☏0296・72・9222
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)