風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
青森県■南部藩の風土息づく、屋台街と朝市で賑わう港町


南部氏が治めた居城跡の八戸城跡

歴史を伝える八戸城角御殿表門

屋台や小店がひしめく八戸横丁

安藤昌益資料館|三浦哲郎生誕の碑

らぷらざ亭の「八戸せんべい汁定食」

八戸銘菓の萬榮堂の「鶴子まんじゅう」

都会的な賑わい見せる国道340号線
 県の東南部、太平洋に臨む漁業・工業の町の八戸。その中心市街は東北新幹線八戸駅から八戸線で2つ目の本八戸駅が玄関口である。南側の丘陵地に役所やオフィスビル、商店、住宅が広がっている。

 人口は青森、弘前に次ぐ22万余。県東部の中心都市だが、街としての発展は江戸時代、南部氏が盛岡に本城を移すまでの260年間、2万石の城下町にある。

 本八戸駅から5分ほどの小高い地にその名残を伝える八戸城跡があり、初代藩主の南部直房公の銅像が立っている。弘前を居城にした10万石の津軽藩とは、同じ県ながら言葉、風習、気質など多くを異にする。歴史、風土は岩手県の方が近いという。

 城の本丸跡は三八城(みやぎ)公園として整備された市民の憩いの場。訪ねた日は例年に比べて半月も早い桜の満開で、散策や花見客で賑わっていた。

 公園の名は「三戸郡八戸の城」の意味。周辺にある藩主を祀る三八城神社や市内最古のおがみ神社、立派な八戸城角御殿表門などに歴史がしのばれる。

 表門のあたりから役所やオフィスなどの高層ビルが目に付き、5分ほどで街中を北東から南西に貫く国道340号に行き当たる。銀行やホテル、百貨店、商店が軒を連ねる繁華街である。

 その一角で足を止めたのが江戸中期の医師の安藤昌益(しょうえき)資料館。八戸で医業を開き、いかなる学派にも属さない独創的な思想を以って階級社会を痛罵した偉大な思想家だ。もう一人が大通りの呉服店に生まれ、名作『忍ぶ川』で芥川賞受賞の三浦哲郎の生誕の碑である。

 繁華な大通りに接して、狭い路地に映画や舞台のセットのような屋台村「みろく横丁」など8つの横丁が密集する八戸横丁街がある。昼は虚ろだが、夜はネオンや赤提灯の紅灯の巷と化してさんざめく。

 その一角の肴町の旬菜料理の「らぷらざ亭」で昼食を摂った。趣のある奥行き長い店内はカウンター席とテーブル席があってくつろげる。新鮮な鯖やイカをはじめ港町・八戸らしく新鮮な魚介が味わえる名物店の一つである。

 名物の「せんべい汁定食」は南部煎餅を砕いて煮立った鍋に入れて食べる。ツユがどろどろにならず、もちもちの食感で、外せない郷土名物である。

 郷土の味ではウニとアワビを煮込んだ贅沢な潮汁の「いちご煮」が代表格。乳白色の露に中のウニが朝もやの野いちごを思わせるからの名付けである。お土産には「鶴子まんじゅう」が人気。黒糖と小豆餡を皮に詰めて焼き、落雁粉をまぶした珍しい焼饅頭で、うずくまった鶴に似ているのが菓名の由来という。

〈交通〉
・JR八戸線本八戸駅下車
〈問合せ〉
・八戸観光コンベンション協会☏0178・41・1661
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)