風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
福井県■歴史や文化が運ばれた海陸交通の要衝


北陸新幹線にそなえて建設中の敦賀駅

朱塗りも鮮やかな気比神宮の大鳥居

港の一角に立つ北前船モニュメント

かつて大陸の鉄路に繋がった旧敦賀港駅舎

リニューアルした人道の港敦賀ムゼウム

隣接した市立博物館とつるが山車会館

北海道産昆布入りの紅屋の「求肥昆布」
 福井県南西部、入り込んだ敦賀湾に臨む敦賀は、古くから大陸との交流があった港町。中世から近世までは越前一宮の気比神宮の門前町、朝倉氏の領地、大谷吉継や京極氏、酒井氏らの城下町として栄えた。北前船の寄港でも大いに賑わった。

 昨年11月、北陸新幹線の延伸、開業に備えた工事が進む敦賀駅で下車。駅に隣接するオルパーク内の観光案内所で借りたレンタサイクルで市内を巡った。

 駅前商店街から本町商店街へ続くメインストリートにはモニュメントが点々と並ぶ。漫画家・松本零士の「銀河鉄道999」と「宇宙戦艦ヤマト」に登場するキャラクターの星野鉄郎とメーテル、旅立ち、サーシャなど多数ある。敦賀港開港100周年記念事業の一環として「鉄道の町」「港の町」敦賀のシンボルとして設置された。

 かつて敦賀はウラジオストックとの間に定期船が就航する国際港。シベリア鉄道に繋がり日本~欧州の最短ルートだった。明治時代には東京・敦賀間の直行列車の「欧亜国際連絡列車」が運行されていた。

 モニュメントを見ながらゆっくりペダルを踏むと、やがて右手に気比神宮の赤い大鳥居が見える。気比神宮は1320年前の建立の古社で、越前国一之宮。太平洋戦争の空襲の焼失から再建された朱塗りの社殿の神は食と航海安全の守り神として崇められている。大鳥居は戦火を逃れて国指定の重要文化財である。

 港方面に向かうと海を前に北前船モニュメント。その右手には「欧亜国際連絡列車」など鉄道資料を展示する旧敦賀港駅舎がある。目をやれば物販や飲食店、巨大ノスタルジオラマなどの入った敦賀赤レンガ倉庫が見える。観光客の出入りが多い赤レンガの建物は120年余前に外国人の設計で建てられた。当時の繁栄ぶりを物語る。

 金ヶ崎緑地の背後に3~4軒連なる洋風建築は、11月オープンしたばかりの人道の駅敦賀ムゼウム。館内にはロシア革命の時にシベリアで救出されたポーランド孤児や、ナチスドイツの手から逃れ、領事館館員の杉原千畝発給の「命のビザ」を握りしめて上陸したユダヤ人難民の受け入れなど、人道的役割を果たしてきた資料が展示されていた。

 港に沿って西へ進むと、古い倉庫群、昭和初期の洋風建築の市立博物館(旧大和田銀行)と隣接して山車を収蔵展示するみなとつるが山車会館があった。

 相生町では北前船の歴史を語り継ぐ、北海道昆布ともち米に砂糖、水飴、昆布粉末を混ぜ合わせた銘菓「求肥昆布」の店と名物ソースカツ丼の店に立ち寄った。

 芭蕉も「おくのほそ道」で立ち寄っている。北陸新幹線が延伸なれば、敦賀はまた交通の要としての存在感を増すだろう。

〈交通〉
・北陸本線・小浜線敦賀駅下車
〈問合せ〉
・敦賀観光協会☏0770・22・8167
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)