風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
千葉県■菜の花と青い海が早い春を謳う南房の町


スペイン調のしゃれた建物の館山駅西口

ヤシ並木と建物が南欧ムードの夕映え通り

“渚の駅”たてやまの観光スポットの夕日桟橋

「海の花」で味わった海鮮料理のランチ

土産に買った房洋堂の「花菜っ娘」

歴史や民俗資料を展示する城山公園の館山城

海の景観や温泉、もてなしに心身が和む休暇村館山
 黒潮寄せる太平洋に臨む房総半島南部の館山は、海洋性の温暖な気候、南国的な風光に恵まれた観光都市である。1~2月には菜の花が黄色い花の海を広げる。

 町にはヤシ並木が続き、駅の界隈にはオレンジ瓦の屋根と白壁のスペイン風の街並みが青空に映える。

 どうしてこんな日本離れした町並みが生まれたのだろうか? 30年ほど前から街並み景観形成計画で、温暖な気候、青い海、緑の山野に合わせてスペインをイメージした町づくりを進めた成果である。館山駅舎や海へ向かう夕映え通りのヤシ並木と建ち並ぶ民家はふっと南スペインのアンダルシア地方を思わせる。

 道が行き当たる内房なぎさラインの北条海岸から新井海岸にかけては、温泉旅館・ホテルが点綴する海のリゾート。その一角に2012年にオープンした観光交流拠点施設の「“渚の駅”たてやま」が、新しい観光スポットになっている。

 海洋民俗をテーマにした渚博物館やふるさと大使のさかなクンギャラリーをはじめ、客船ターミナル、夕日桟橋、海中観光船、産直の海のマルシェ、海鮮料理のなぎさ食堂など観光施設が一堂に揃う。

 海の向こうに富士の秀峰がそっくり浮かび、展望デッキからは館山湾や館山市街、館山城が眺められる。富士山がシルエットで浮かぶ夕映えも素晴らしい。

 間近の小高い城山に立つ3層4階の「館山城」は、中世の里見氏の居館の地。市立博物館分館の「南総里見八犬伝」や里見家ゆかりの展示が見られ、閣上からの眺望も実に広大で胸がすく。周辺は1年中、花に彩られる城山公園である。

 中世、里見氏が治めた館山は、古代、国府が置かれたように古くから人が住み、近世には稲葉氏1万石の城下町など長く安房の中心都市。それが今に続いている。

 市の北部の船形山中腹にはえぐったような崖に納まる崖ノ観音と呼ばれる「大福寺」、那古山中腹には武将の崇敬を集めたみごとな「那古寺」(名古観音)が、ともに1300年の歴史を刻む。

 昼食はスペインムードの西口駅前の「海の花」で海鮮料理を、旅土産には東口の館山銀座通りの「房洋堂」でホイル焼乳菓の「花菜っ娘」を買った。

 泊りは市街地の西方の「休暇村館山」。全室オーシャンビューで、天然温泉の快適なリゾートホテルで、夜は星空が美しい。

 花畑では今がポピーやストック、菜の花、金魚草の花盛り。それが梅、椿、桜と続き、イチゴとともに館山は甘い花の春を謳っている。

〈交通〉
・東京から館山までJR総武本線・内房線経由君津乗り継ぎ約2時間30分
・東京駅八重洲南口から館山駅前まで東京湾アクアライン経由高速バス「房総なのはな号」で約2時間
〈問合せ〉
・館山市商工観光課☏0470・22・2544
・館山市観光協会☏0470・22・2000
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)