風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
山梨県■岩峰と巨岩と清流が織りなす昇仙峡


11月上旬が見頃の紅葉の頃の覚円峰

パノラマ台から遠望できる富士山

昇仙峡探勝の拠点になる名勝の仙娥滝

体がポカポカの名物かぼちゃほうとう

のしかかるようにかぶさる豪快な石門

巨岩の間を縫って流れる渓流も見もの

青エンドウ豆を羊羹で包んだ銘菓「くろ玉」
 甲府市街の北方の昇仙峡は、巨岩、奇峰、清流、樹木が四季に織りなす渓谷美で知られる名勝。富士山・富士五湖に次ぐ全国区の知名度の観光地である。

 季節それぞれに魅力があるが、10月下旬から11月中旬にかけての紅葉時期は絶景を極める。その1ヶ月ほど前だが、ずいぶん久し振りに訪ねた。

 終点の滝上までは甲府駅南口からのバスで48分。バス停から5分ほど歩いた昇仙峡ロープウェイで、一気にパノラマ台に立った。山上の浮富士広場から雲上に浮かぶように見える富士山に歓声が上がる。

 神々しい霊峰を遠望できる晴れた幸運に誰もが笑顔を浮かべる。縁結びのご利益があるという八雲神社では若いカップルが神妙に手を合わせていた。

 ロープウェイを降りて、水晶やワイン、信玄餅などの店をのぞきながら、光とファンタジーの影絵の世界の藤城清治の「影絵の森美術館」でメルヘンに浸る。
 滝上の食堂で名物の“かぼちゃほうとう”でお腹を満たして遊歩道に向かう。

 長い階段を降りたあたりで、5~6人がスマホ向けているのが、昇仙峡の見どころの1つの落差30メートルの仙娥滝。絶え間なく落ちる白く帯をなす水が、躍動的で優美で、岩や樹木に映える。水しぶきや水音のすがすがしさにしばし立ち止まった。

 滝の前で遊歩道を下って行く人と上がってくる人が出会い、言葉を交わす。
 「上りはきついけれど、覚円峰などを仰ぎ見ながら仙娥滝にたどり着くのは感激的よ」と満足そうに話していた。

 下りのこちらは渓流にかかる昇仙橋を渡ってハイライトの覚円峰やよろい岩、めまい岩など岩峰を仰いだり、巨岩ゴロゴロの清流を眺めたりして小径を下る。

 頭上にのしかかるような巨大な花崗岩がトンネルをなす石門は小走りで抜けたくなるほどスリルを感じる。新緑もいいが紅葉はまた格別だろうなどと見応えを感じながら軽快に歩いた。

 昇仙峡は秩父多摩国立公園の西側、国師岳、金峰山から流れを発する荒川の浸食でできた花崗岩の渓谷。天神森から仙娥滝までのおよそ4キロを指すが、グリーンラインの昇仙峡バス停から滝上までは歩きでしか探勝できない。

 巨岩の間を左右にくねりながら落差を勢いよく下る渓流や、そそり立つ巨岩や奇峰を見上げながら20分ほどで、飲食店や宿が集まるグリーンライン昇仙峡バス停にたどり着いた。

 そういえば、かつて渓谷沿いをパカパカとのどかに行き交うトテ馬車が人気だったが、3年前に姿を消したという。

〈交通〉
・JR中央本線甲府駅下車、滝上までバス48分
〈問合せ〉
・昇仙峡観光協会☏055・287・2158
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)