風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
島根県■国譲り神話の白砂と断崖と海青い日御碕


海面からは63.30mの高さになる日御碕燈台

奇岩・断崖と紺碧の海が映える燈台からの眺め

燈台への途中にあるノドグロなどの食事処の柿谷

柿谷で食べたぷりっとした歯応えの焼きイカ

冬場にウミネコが群棲する燈台近くの経島

朱塗りも鮮やかな古社の日御碕神社、下の宮

風になんとか翻って大きさを誇示する日章旗
 国譲り神話や縁結びで知られる出雲大社は、昨年3月、平成の大遷宮が完遂し、元号が「令和」に変わって名実ともに新しい時代を迎えている。

 昨年の初夏、思いも新たに人とのよき縁(えにし)に感謝を込めて、4つの鳥居をくぐり、心身を清め、二礼四拍手一礼をもって出雲大社に参拝した。

 日本一といわれる神楽殿の大注連縄や75畳分あるという日本一大きな日章旗を見上げてから、バスで足を延ばしたのが日本一高い灯台と海岸風景が美しい日御碕(ひのみさき)である。

 出雲大社連絡所からのバスでほどなく至る稲佐浜は、高天原から降臨した建御雷命(たけみかずちのみこと)が、浜辺に剣を立てて大国主命と国譲りの交渉をしたと伝える地。ふだん人影は少ないが、夏は白砂青松のビーチは海水浴で華やぐ。

 この海岸線をかすめて15分ほど走るとバス停日御碕燈台に着いた。飲食店や土産物が並ぶ通りを3~4分で抜けると、奇岩や断崖の上に白亜の灯台が青空をバックにスッキリとたたずむ姿が目に入った。

 43.65mの石積み燈台で、日本一の高さを誇る。明治36年(1963)の点燈で、夜の洋上40kmまで光が届く。今も船の守り神になっている。

 163段のらせん階段を踏みしめててっぺんに立った。帽子が飛ばされるほど風は強いが、日本海と奇岩・断崖の海岸線の島根半島、隠岐の島々、中国山地の山並みなど360度の胸も晴れ晴れとするワイドな展望に魅せられて、しばしたたずんだ。

 食事処で魚介が覆ったみさき丼や焼きイカなどの生きのいい海の幸を食べてゆったり足を休め、南へ断崖・奇岩伝いの遊歩道を青い海や奇岩、断崖を見ながらのんびり歩いた。眺めと潮風が心地よい時間だった。

 途中にあるウミネコの繁殖地で知られる経島(ふみしま)は国指定の天然記念物。毎年11月下旬から12月上旬に飛来して7月半ばまでここに棲息するという。

 燈台下から10分も歩くと、海岸近くの傾斜地に朱塗りも鮮やかな社殿の日御碕神社に着く。社殿が2つあり、上の宮には須佐之男命、下の宮には天照大神を祀られている。現存の社殿は3代将軍徳川家光公の命により10年を要して建立されたというから350年は経つ。本殿に施されたみごとな彫刻など江戸時代の貴重な建築物で、国指定の重要文化財になっている。

 出雲大社だけにとどまらず、日御碕まで足を延ばすと、奇岩や断崖と海がつくる景観や神話の世界にしみじみと浸れる。帰りがけに神門通りで出雲そばを食べ、名物の俵まんぢうを土産に買った。今度はご縁があっていつ参拝できるだろうか?

〈交通〉
・JR山陰本線出雲市駅下車。出雲大社連絡所までバス36分、日御碕へはバス20分
〈問合せ〉
・出雲市観光協会☏0853・53・2112
・日御碕観光案内所☏0853・54・5400
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)