風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
静岡県■花と美味が早い春を呼ぶ開国ドラマの港町・下田


清楚な白い野水仙と赤いアロエの花が咲く爪木崎

ヤシやシュロなど南国的な気配の伊豆急下田駅前

ロープウェイで約3分で着く360度展望の寝姿山

日米和親条約など開国の歴史をしのぶ了泉寺

ペリー提督に因んで名づけられたペリーロード

名物の伊勢エビと金目鯛
 伊豆半島の東南端、須崎半島と狼煙崎に抱かれた下田は、古くから天然の良港で、漁業や風待ち・潮待ちなど海の要衝として栄えた。江戸時代は江戸と上方を結ぶ航路の中継地、幕末はアメリカのペリー提督率いる黒船の来航で、鎖国日本が扉を開けた港町として日本史に名を刻んでいる。

 沖合を流れる黒潮のせいか冬でも温暖で、郊外の爪木崎では12月のうちに野水仙やアロエが花開き、いち早く春を運んでくる。

 伊豆急下田駅前からロープウェイで標高180メートルほどの寝姿山に立つと、眼下に下田港と下田市街、指呼のうちに須崎半島や伊豆七島などが遠望できる。

 山上の遊歩道には四季に花々が咲き、展望台の他に法隆寺の夢殿を模した縁結び愛染堂や下田生まれの幕末・明治の写真家(日本写真の父)の下岡蓮杖写真記念館などの見どころもある。

 稲生沢川右岸の市街地には、米国総領事ハリスの侍妾にさせられた悲劇の唐人お吉の墓所や遺品の記念館がある宝福寺、ペリーや唐人お吉などの資料展示の下田開国博物館、日米和親条約が結ばれた了泉寺など開国の歴史ドラマに触れられる。

 了仙寺から下田公園に向かう滑川沿いは、柳並木と石畳が整備されてペリーロードと名付けられた遊歩道。石造りや木造のしゃれたカフェやランチの店が点在する。

 稲生沢川河口には干物店がならぶひもの横丁、重厚ななまこ壁の家や蔵が見られる古町通りなど、買物やグルメをしながらぶらり歩きが楽しめる。

 数ある飲食店や温泉ホテル・旅館では1年中水揚げされる日本一の漁獲量の金目鯛の刺身や煮つけ、天ぷら、伊勢エビのお造りや殻焼き、味噌汁などいろいろな料理で堪能できる。伊勢エビの解禁は秋から春先まで。

 時間があれば、船上から市街や寝姿山を眺め、黒船を体感できる黒船サスケハナに乗船しよう。

 またバスで20分で行ける須崎半島先端の爪木崎では12月20日から「水仙まつり」。寒気に凛として甘い芳香と純白の花びらをひらく300万本の野水仙は、1月が盛りだが、暮れのうちに花の春を告げる。アロエの花との紅白の取り合わせの花畑は新春らしいめでたい絵柄である。

〈交通〉
・伊豆急行線伊豆急下田駅下車
〈問合せ〉
・下田市観光協会☏0558・22・1531
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)