風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
山梨県■信玄の館と柳沢の城の歴史を刻む山峡の国の主都・甲府


多くの県民に愛される名将・武田信玄公像

見張り所や武器庫に使われた甲府城の稲荷櫓

復元された潜戸付渡櫓門の鉄(くろがね)門

山梨ゆかりの人物を紹介する山梨近代人物館

えんどう豆と黒糖の甘さの絶品銘菓「くろ玉」

カリッの後に果汁がプチューの果実菓「月の雫」

「ほうとう」などグルメの店が並ぶ平和通り
 周囲を高い山々に囲まれた山峡(やまかい)の国・山梨。その中央部に位置する甲府は戦国時代からの甲斐の府。江戸時代には5代将軍徳川綱吉の信頼絶大な信頼を得た柳沢吉保の甲府城(舞鶴城)の城下町として発展し、近代以降も県の行政、経済、交通、文化等の中心地として発展してきた。

 駅前にどっかと坐す武将の座像は、言わずと知れた甲斐国統一を果たした武田氏2代目の武田信玄公。今も県民から崇敬を集めている戦国の名将だ。その拠点は市街地北方の武田3代の居館のつつじガ崎館で、跡地に1991年に信玄公を祭る甲斐国総鎮守社の武田神社が建っている。

 「風林火山」に象徴される強い軍団をつくり上げ、治水や新田開発など民政にも力を尽くした信玄公一色の山梨だが、今に残る甲府の骨格は綱吉の側用人として重用された柳沢吉保・吉里2代によって整えられた。

 その居城跡の甲府城は駅のすぐ東南。往時の石垣をはじめ、山手御門、稲荷櫓、山梨稲荷曲輪門、鉄門などが復元、整備されている。天守台に立つと、甲府市街や甲府盆地がひらけ、天気のよい日は富士山も望める。春は桜の名所で賑わう。

 城跡の周辺には山梨に貢献した人やゆかりの人物を展示する山梨近代人物館(県庁)や、全国一を誇る宝飾品の展示や職人の実演なども見られる山梨ジュエリーミュージアム、400年余の伝統の皮工芸品「甲州印伝」を展示する印傳博物館など立ち寄りたい見どころがある。

 グルメやショッピングエリアは城跡の南側の紅梅通りや城東通り、銀座通り界隈。目をひくのが城東通りに面した風雅な店構えの澤田屋本店。青えんどう豆の餡玉を黒糖入りの真っ黒な羊羹でくるんだ「くろ玉」は評判通りに美味しい。他に甲州ぶどうを1粒ずつ白い砂糖衣でくるんだ松林軒豊島屋の「月の雫」も地元でしか買えない季節限定(9月~3月)。ぶどう王国の山梨ならではの名菓だろう。

 食事なら相変わらずだが、晩秋の今は、生の太麺を味噌仕立ての汁でカボチャなど野菜と煮込んだ「ほうとう」が格別においしい季節。駅前の平和通りには「ほうとう」の名物の小作や市民ソウルフードの「鳥もつ煮」の奥藤本店もある。

 駅からバスで15分足らずの、太宰治や松本清張も好んだ1200年の古湯の湯村温泉郷も温まる。

 市の西端、旧甲州街道沿いには「種をまく人」「落ち穂拾い」などミレーの名画70点を収蔵する山梨県立美術館と樋口一葉、飯田蛇笏、太宰治、深沢七郎など山梨ゆかりの文学者の原稿、書画、愛用品などを収集する山梨県立文学館が見応えがある。

〈交通〉
・JR中央本線、JR身延線甲府駅下車
〈問合せ〉
・甲府市観光課☏055・237・5702
・甲府市観光協会☏055・226・6550
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)