風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
秋田県■米、酒、きりたんぽ、しょっつるよしのグルメ・秋田


秋田のシンボルの久保田城御隅櫓

竿燈の知識などが分かるねぶり流し館

商都秋田の繁栄を伝える旧金子家住宅

明治の郷愁誘う壮麗な赤れんが郷土館

海や山、畑などの食材が集まる市民市場

(左)甘酸っぱさが人気の榮太楼の「さなづら」
(右)小ぶりで飽きない秋田名物饅頭の「金萬」

山菜豊富な世界遺産ゆかりの「白神浪漫」
 県の中西部、日本海に臨んでひらけた秋田は人口31万余の県庁所在地である。古くは国府が置かれ、北前船の寄港でにぎわい、江戸時代は常陸(茨城)から国替えで入封した佐竹氏を藩主にした城下町は明治維新まで270年間続いた。

 その歴史は駅近くの堀や土塁、表門、御隅櫓を残す久保田城跡にしのばれる。一帯は桜や紅葉など四季の彩り豊かな市民憩いの千秋公園になっている。堀端に立つ、藤田嗣治の大壁画「秋田の行事」で有名な秋田県立美術館も見ものである。

 町歩きに便利なのは駅西口から千秋公園入口、通町、ねぶり会館前、南大通り、秋田市民市場など中心街を巡る循環バス(1乗車100円・1日乗車券300円)の「くるる」。これを利用して、千秋公園入口の次に旭川を渡った通町で下車した。

 かまぼこの宮城屋、伝統銘菓りんごもち本舗の高砂屋、郷土菓子の勝月堂など趣ある老舗が集まる、電柱もないしゃれた界隈をぶらつく。目に付いたのは薄い緑色の壁の民俗芸能伝承館ねぶり流し館。竿燈まつりは映像だけでも迫力が伝わってきた。ねぶりとは眠りの意味で、夏の睡魔や穢れ、悪疫などを払う七夕行事。ルーツを同じくするのが秋田を象徴する竿燈まつりや青森のねぶたという。隣接の紺ののれんの広壮な明治建築の旧金子家住宅に商都の歴史も垣間見えた。

 「くるる」を交通公社前で降りて、赤れんが郷土館に立ち寄った。明治45年に建造された赤レンガ建築の旧秋田銀行本店で、外観は壮麗なルネッサンス様式、内部は白漆喰の繊細なバロック様式。古き良き時代の秋田の隆盛がしのばれる国の重要文化財である。

 駅に戻る前に立ち寄った秋田市民市場は朝5時~18時営業の鮮魚や塩干物、肉、野菜、山菜、果物などの店が80軒ほど集まる市民の台所。地酒や菓子、工芸品など旅土産なら広小路に面したアトリオン地下1階のあきた県産品プラザがお薦めだ。

 食事ならダンゼン、新米とキノコの季節の食材豊富な「きりたんぽ」。比内地鶏の味がバツグンだ。なめらかで細めながらコシの強い稲庭うどんも忘れられない。

 手土産なら酸っぱい山ぶどうをゼリー風に固めた「さなづら」や小豆粉を和三盆糖の干菓子「秋田諸越」が秋田ならでは。小ぶりで白餡がほっこりおいしい饅頭「金萬」も人気が高い。

 秋田は米、酒、魚よしの味どころ。特に10月は山も海も収穫期の盛り。秋こそ秋田に出かけたいものである。

〈交通〉
・JR秋田新幹線で東京から秋田まで約3時間50分
〈問合せ〉
・秋田市観光振興課☏018・888・5602
・秋田観光コンベンション協会☏018・824・8686
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)