風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
長野県◎須坂市|陣屋、交易、製糸で栄えた白壁土蔵のまち


普段は笠鉾会館に展示される笠鉾と祭屋台

蔵の町の趣を伝える東西に抜ける谷街道

大笹街道と谷街道の交差点近くに立つ呉服の綿幸

四季の彩り鮮やかな豪商・田中本家の日本庭園
 新幹線長野駅から長野電鉄特急で15分にある須坂は堀氏1万4000石の膝下にひらけた陣屋町。大笹街道と谷街道の交わることから商業の町としても栄えた。

 明治から昭和にかけて製糸業での発展を加えて、街道の交差点を中心に醸造や呉服、造り酒屋、料亭など白壁造りの商家や土蔵が連なり、それらが今も姿を留めている。商店や博物館、美術館などに活用されて“蔵の町”と呼ばれている。

 ギャラリーとして公開する呉服の綿幸や味噌醸造の塩屋、重厚な構えの元普請奉行屋敷の丸太医院、3階建ての繭蔵のふれあい館、須坂藩主の献上酒の遠藤酒造場を外から内から眺めながら町を歩いた。

 とりわけ目をひいたのは市街の南、大笹街道に面して約100m四方の敷地に20の土蔵が取り囲む江戸中期の豪商・田中本家である。穀物、菜種油、煙草、綿、酒造など手広い商いで須坂藩御用達商も務めた北信濃随一の大地主だ。

 江戸から昭和まで同家が使っていた衣装、陶磁器、漆器、書画、玩具、文具など文化財的価値のある生活用具を保存展示するため26年前に博物館として公開。四季の彩り豊かな日本庭園と併せて近世の豪商の優雅な暮らしぶりが見て取れた。

 須坂の心意気は土蔵造りの笠鉾会館ドリームホールにもある。展示されている笠鉾11基と祭屋台4台は、墨坂神社(芝宮)の祇園祭には白壁の蔵の町を優美に行列が練り歩き、街が華やぎに包まれる。今年もその祇園祭(7月21日~25日)がもうじきである。

藩主の名を冠した純米吟醸「直虎」の遠藤酒造場
栗とこしあんと皮が溶け合う盛進堂の「栗中華」
〈交通〉
・JR長野駅から長野電鉄特急で15分、須坂駅下車
〈問合せ〉
・須坂市観光協会☏026・215・2225
・須坂市商業観光課☏026・248・9005
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)