風土47
今月の旅・見出し
 
 
群馬県■里山の暮らし息づく水と緑の田園の村・川場


池を前に広がる道の駅「川場田園プラザ」

多数の種類が作られるパン工房の店内

「刺身とフライのギンヒカリ御膳」

歴史民俗資料館には江口きちの展示も

村内には心ひかれる田園風景がそこここに

5月は九輪草やカキツバタが咲く吉祥寺
 群馬県北東部、武尊(ほたか)山の南麓に沼田市に取り巻かれたような緑豊かな農山村がある。平成の大合併を避けて自存の道を選んだ人口3500の川場村である。

 村内に湧き出す伏流水、4本の一級河川などの水や8割以上を占める山林に恵まれて、米や高原野菜、果樹など農産物の豊かな地でも知られている。

 道端には草花が咲き、川には魚が走り、春はカエルが鳴き、秋はトンボが飛ぶなど昔に変らず生き物が息づく。その村里の中心が県道64号(平川横塚線)と利根沼田望郷ラインの交わる地に25年前にオープンした道の駅「川場田園プラザ」だ。

 澄んだ水を湛えた池を囲んで点在するそば処やビールレストラン、パン、ミート、ピザの工房、地場産の米や野菜、果物を販売するファーマーズマーケットなどどこにも人が絶えない。村役場に聞くと、年間入込客が180万人を数え、売り上げ16億円を超えるという。全国屈指の優良な道の駅である。。

 レストランで刺身とフライのギンヒカリ御膳を食べ、ヨーグルトを呑んでお腹ごなしに園内を回った。ブランド米の雪ほたか、アップルパイ、のむヨーグルト、ソフトクリームなど買いたくなる商品がいろいろあった。遊具や原っぱなどもあって子供連れで半日は過ごせそうである。平日はともかく休日の駐車場は満車状態になることが多いという。

 村内にはゆっくり楽しめる場所もけっこうある。その1つが川遊びの楽しい清流公園と乗車体験できる川場のシンボルのSL(D51)だ。近くの明治建築の校舎を活用した歴史民俗資料館では村の歴史や文化を学んだ。老いた父、病弱な兄を抱えた苦難の暮らしの中で唯一の生き甲斐の短歌を詠みながら兄を道連れに26歳で自死した川場村生まれの江口きちの展示に心ひかれた。

 “女啄木”と称される薄幸の歌人・きちの墓碑がある桂昌寺や南北朝時代に創建された草花や庭園がみごとな吉祥寺も心に残る古刹であった。

〈交通〉
・関越自動車道沼田I.C.から車で10分
・上越線沼田駅からバスで約30分
〈問合せ〉
・川場村むらづくり振興課☏0278・52・2111
・川場村観光協会☏0278・52・3412
和歌山県■再建天守閣60年余、紀州藩の城下町・和歌山


虎伏山山上に白亜の天守閣を見せる和歌山城

内堀を採り込んだ水と緑の紅葉渓庭園

紀伊徳川家から出て将軍で活躍した吉宗の像

マイルドな酢でしめた名物駅弁の「小鯛雀寿司」

藩祖に従い移転した総本家駿河屋の「本煉羊羹」

かつて繁華だった商店街の「ぶらくり丁」
 太平洋に突き出す紀伊半島の北西岸、紀ノ川河口の左岸にひらけた和歌山市は、江戸時代、徳川家康の10男・頼宣が55万5000石で入城以来、徳川御三家の1つ紀州徳川家の城下町として栄えた街である。

 和歌山駅前からバスで7~8分、公園前で降りて最初にシンボルの和歌山城に足を向けた。大手門から10分ほど、なだらかな石段を上って行くと、虎伏山上に和歌山城天守閣が立っていた。

 この城は姫路城や松山城と並ぶ日本3大連立式平山城で、徳川御三家ならではの規模の大きさ。幟に“再建60年記念”とあるようにコンクリートの復元ながら美しく古城の風格が漂う。

 3階の展望台に立つと、紀伊水道や淡路島、紀ノ川、高野山など紀伊の山並みが四方にひらけ、1~2階の紀州家ゆかりの品や展示には藩祖・頼宣の孫にあたる5代頼方が、抜擢されて享保の改革など幕府中興の英主と讃えられた8代将軍・吉宗であることが書かれていた。紀州家の血筋が14代将軍まで続く。

 天守閣から裏坂を下った二の丸庭園や紅葉渓庭園(西の丸庭園)の緑と花と水明境に心洗われる。野面積みの石垣や復元の御橋廊下も見ものだった。

 城跡の西南角には馬上の徳川吉宗像があり、斬新な建築の県立近代美術館と県立博物館が隣接していて、和歌山の文化ゾーンである。

 繁華街は城の北方の市堀川の京橋界隈。アーケードのぶらくり丁はかつての賑わいの中心地。“ぶらくる”はぶらつくではなく、和歌山弁で“ぶら下げる”の意味。当時は衣料品店が多く、商品をぶら下げて売っていたことからの呼称という。

 周辺には飲食店も多く、クセはあるが塩漬けの鯖にご飯を抱かせて発酵させた“なれ寿司”や小鯛を三枚におろして握った“小鯛雀寿司”、とんこつ醤油の“和歌山ラーメン”など名物の店が集まっている。

 手土産には日本で最初の煉り羊羹といわれる総本家駿河屋の“本煉羊羹”がお薦めだ。これは徳川頼宣に知遇を得ていた京・伏見の駿河屋5代目が、藩祖として和歌山に入る頼宣に誘われ和歌山に移り住んだ由緒ある名品である。江戸時代は国替えによって食べ物や御菓子も移転したのである。

〈交通〉
・JR阪和線・紀勢本線和歌山駅または南海本線和歌山市駅下車
〈問合せ〉
・和歌山市観光課☏073・435・1234
・和歌山市観光協会☏073・433・8118
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。