風土47
今月の旅・見出し
 
 
北海道■花と実りに彩られた田園風景の秋の富良野・美瑛へ


展望台から見下ろす『北の国から』の麓郷

純度の高さを誇る38種ある富良野ジャム

花咲く丘を代表する秋の美瑛・四季彩の丘

四季彩の丘で食べたおいしいスープカレー

ラベンダーのファーム富田の秋10月の花畑

神秘的な青さで人気上昇中の白金青い池

就実の丘から見下ろすアップダウンの直線道路
 北海道の中央部、十勝岳連峰を遠望する盆地の町・富良野と丘の町・美瑛は、実りの田畑、花咲く丘陵などドラマの舞台や写真、映像で紹介されてきた北海道でも人気の田園都市である。

 そこは北国の厳しい気候風土の開拓に入った農民たちが土を耕し、作物を育て、豊かな大地に生まれ変わらせた生活空間だ。

 その中心の富良野は“へそのまち”の中心標のある、北海道のど真ん中。CMやポスター、雑誌に取り上げられたラベンダー畑とテレビドラマ『北の国から』によって農村景観が観光地になった。

 合成香料の出現で衰退、細々と栽培を続けていた農家のラベンダーが写真で紹介されると、日本離れした風景に多くの人が押し寄せた。その核になったのが中富良野のファーム富田(0167・39・3939)だ。

 富良野では『北の国から』『優しい時間』『風のガーデン』の倉本聰氏のふらの三部作のロケ地巡りが人気の中心。中でも富良野ブームに火をつけた『北の国から』のロケ地の麓郷の森には黒板五郎の石の家や拾ってきた家などドラマを思い出させる場所がいっぱいある。その舞台を見下ろす麓郷展望台からは広やかな田園風景と色とりどりの花畑が楽しめた。

 富良野は玉ネギ、ブドウ、ワイン、チーズ、ジャム、ふらの牛など農産物や加工品など満足できる名産品の地でもある。

 美瑛は小麦や野菜、ビート、花などの畑が広がる“丘のまち”。アップダウンする道を車で走れば、木や花、田畑、草原など風景がその都度変わる。

 中でも外せないポイントの代表は美瑛駅南方のパノラマロードのエリアにある四季彩の丘(0166・95・2758)。10月中旬まではコスモス、ケイトウ、サルビア、マリーゴールドなどが咲き競う。2階レストランのスープカレーもおいしく、アルパカにも癒される。冬はスノーモービルなども楽しめる。美瑛の美しさを撮り続け、広めた風景写真家の故前田真三氏の拓真館(0166・92・3355)も近くにある。

 ケンとメリーの木、セブンスターの木など話題を呼んだパッチワークの路のエリアでは北西の丘展望公園に立ち寄って、雄大な大雪連峰やうねる丘陵に見入った。

 十勝岳展望台に向かう白樺街道の白金温泉の手前には神秘的な青さと立ち枯れの林の風景にうっとりする白金青い池も近年人気アップのスポットだ。

 旭川空港近くの就実の丘から見下ろすアップダウンの直線道路がいかに起伏の大きい土地かを実感させる。十勝岳連峰と大雪山系の山並みも圧巻だ。

〈交通〉
・JR富良野線富良野駅、中富良野駅、美瑛駅など下車
〈問合せ〉
・富良野・美瑛広域観光センター☏0167・23・3388
・ふらの観光協会☏0167・23・3388
・美瑛町観光協会☏0166・92・4378
長崎県■湯煙と湯の香漂う山と海の温泉、雲仙・小浜


温泉の恵みもたらす湯煙立ち昇る雲仙地獄

新湯そばの直径4mの円形湯船の足湯広場

甘さほんのり、パリッとした遠江屋の湯煎餅

ヤシ並木と湯煙が南国風情を醸す小浜温泉街

蒸し釜に入れると10分足らずで蒸し上がる

源泉温度105℃にちなみ105mの長い足湯

波打ち際の快適な露天風呂の波の湯「茜」
 長崎県東南部、有明海に突き出た島原半島の北西域を占める雲仙市は、雲仙普賢岳を東に背負い、橘湾を西に見晴らす農水産と温泉観光の町である。

 観光の目玉はご存知、湯煙もうもう、硫黄の匂い立ち昇る地獄の周辺に大小20軒余の宿が集まる雲仙温泉。神経痛やリューマチ、皮膚病に効く硫黄泉で知られ、明治には長崎居留や上海租界の欧米人が避暑に訪れ、垢ぬけした温泉リゾートとしてひらけた。そんな中に100円~200円で入れる庶民的な共同浴場が今も残る。

 温泉街には奈良時代に開湯した行基をまつる満明寺や温泉神社、温泉湧出の雲仙地獄、お山の情報館(0957・73・3636)、雲仙ビードロ美術館(0957・73・3133)などの見どころも多く、湯の町散歩も楽しめる。

 温泉で蒸し上げた温泉たまごや、甘さほのかでサクッと軽やかな雲仙土産の「湯煎餅」は歩きながら食べられる手軽な名物だ。遠江屋本舗(0957・73・2155)では湯せんぺい作り体験もできる。

 10月下旬に山頂から始まり11月半ばまで続く雲仙岳の紅葉は、燃えるような鮮やかな錦模様を見せる。

 雲仙温泉から峠を西へ越すと、“山の温泉”雲仙温泉と打って変わって橘湾を目の前にする“海の温泉”小浜温泉がある。80度~100度の高温の食塩泉で、あちらこちらで湯煙がもうもうと立ち昇る。

 豊富な高温の温泉熱を生かして、卵やタコ、サザエ、トウモロコシなどを自由に無料利用できる“蒸し釜”や、選んだ魚介や野菜の食材をたちまちのうちに釜で蒸し上げて食べさせる海鮮市場・蒸し釜や(0957・75・0077)という小浜ならでは食事処もある。メニューは点心セットや蒸し豚セットなどのほか、茹でると赤くなるので“夕やけガニ”と呼ぶ旨みの濃いガザミ(ワタリガニ)やトウモロコシ、ちまきなど好みを選んで蒸し釜に入れて地元の新鮮な山海の幸をおいしく味わった。海鮮料理など一般的な定食もある。

 裏路地を歩けば柔らかな湧水池や冷たい炭酸泉の泉など暮らしの一コマがのぞける。湯宿・蒸気家の黒たまごも頬張ってみよう。

 9月1日~10月31日の期間、夕やけガニ祭を開催している。

 105mの日本一長さを誇る足湯「ほっとふっと105」や絶景の海上露天風呂・波の湯「茜」は湯量豊富な小浜ならではの個性的な温泉施設だ。

 小浜はアララギ派の歌人斎藤茂吉に愛されたように橘湾に沈む夕日が素晴らしい。

〈交通〉
・JR長崎本線諫早駅前からバスで小浜温泉まで55分、雲仙温泉まで1時間21分
〈問合せ〉
・島原半島観光連盟☏0957・62・0655
・雲仙温泉観光協会☏0957・73・3434
・小浜温泉観光協会☏0957・74・2672
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。