風土47
今月の旅・見出し
 
 
宮城県■武家屋敷、蔵造り、洋風建築が残る歴史香る登米


シンボルの洋風建築の旧登米高等尋常小学校

漆喰壁の塀が長く連なる前小路の武家屋敷街

休憩や喫茶処として公開の武家屋敷「春蘭亭」

しゃれた旧登米警察署。右後ろは玄昌石の館

遠山之里で食べておいしかった「油麩料理」

登米では滋養に富む昔ながらの「太白飴」

白壁土蔵の町並みが美しい蔵づくり商店街
 県北東部にある登米(とよま)町は平成の大合併で登米(とめ)市の一部になったが、室町時代は葛西氏、江戸時代は伊達支藩2万1千石の城下町。明治時代初期は登米県・水沢県の県庁が置かれ、米の集散など北上川の舟運で栄えた町だ。

 それらの歴史が武家屋敷や白壁土蔵の商家、明治の洋風建築など形となって残っていて、“みやぎの明治村”と呼ばれている。その歴史の町並みを何度か訪ねたが、今回は東日本大震災から6年後。

 最初に立ち寄ったのがとよま観光物産センター・遠山之里(0220・52・5566)で、次いで隣接の町のシンボルの旧登米高等尋常小学校に入った。バルコニーやポーチをもつコの字型の明治21年築の洋風建築で国の重要文化財。以前に変わらず、教育資料館、歴史資料館(0220・52・2496)として活用、保存されている。

 赤レンガの校門の前を東西に抜ける大手通りの北側が高台にある寺池城跡、南側が前小路、後小路の武家屋敷街。通りには漆喰壁の塀、長屋門、四脚門を構えた武家屋敷がいくつか残り、城下町の面影がしのばれた。

 なかでも立派な門構えの400年になる茅葺の旧鈴木家住宅は「春蘭亭」の看板をかけた無料休憩所として開放。囲炉裏を囲む喫茶コーナーで一服した。

 明治初期、岩手県南部と宮城県北部を合わせた水沢県の歴史を伝える県庁記念館や中町通りの白ペンキ壁にバルコニーのしゃれた旧登米警察署なども見学。登米警察署は高等尋常小学校の翌年、同じく技師・山添喜三郎が設計した洋風建築で、当時の登米の発展ぶりや先進性がうかがえる。警察資料館(0220・52・2595)として公開し、白バイ、制服、手錠、銃器を展示していた。

 この裏手に立つとんがり帽子状の建物はかつて登米の特産品だった高級な屋根材(スレート瓦)を紹介する玄昌石(げんしょうせき)の館。その前の道が蔵づくり商店街で、九日町、三日町には味噌や醤油、砂糖、呉服、雑貨を商う土蔵造りや格子の商家などが繁栄の時代をしのばせる。

 そんな中に小麦のグルテンを練って熟成させ棒状にして大豆や菜種油で揚げた「油麩」(あぶらふ)やもち米と麦を原料に練って甘みを出す滋養の「太白飴」の店もある。そこで昼食はとよま観光物産センター・遠山之里で名物の「油麩料理」を食べた。口の中にじゅわっとだし汁の旨みが広がる。「油麩丼」はカツ丼のように半熟たまごでとじてご飯に乗せたもので、これまたおいしい。物産コーナーで「太白飴」も買った。

 登米はかつて県北の中心都市らしく歴史や文化が豊か。小麦粉を使った郷土料理の「はっと」など独自の食もあり、見て歩いて味わってよしの町である。


〈交通〉
・JR気仙沼線柳津駅からバスで10分
〈問合せ〉
・とよま観光物産センター☏0220・52・5566
・登米市商工観光課☏0220・34・2734
 
奈良県■暮らしと祈りが息づく町家が連なる趣深い奈良町


上街道に面した老舗の菊岡漢方薬局

2年前公開の100年の町家のにぎわいの家

さるぼぼなど暮らしを伝える奈良町資料館

復元で歴史をしのばせるならまち格子の家

もちいどの通りの萬々堂通則の唐菓子「ぶと饅頭」

やまと庵の「とろとろやまと豚の釜めし」

奈良町を北に抜けると興福寺五重塔が目に
 桜、レンギョウ、雪柳、石楠花、藤、牡丹……春から夏にかけて、大和路の古寺社には仏様や神様に供えるかのように花々が咲き続く。東大寺、興福寺、春日大社などがある奈良公園は観光客や参拝者、修学旅行生などであふれている。

 そんな季節、賑わいから離れて訪ねたいのが猿沢の池の南側一帯、元興寺の旧境内に当たる旧市街「奈良町」。地名にはないが暮らしが匂う昔からの町である。

 そこへは猿沢の池からまっすぐ南へ延びる上(かみ)街道(上つ道)が入口の1つ。最初に南都七大寺の世界遺産の元興寺極楽坊に参拝して、ならまち大通りに面して立つ奈良町情報館を起点に歩き始める。

 千本格子や虫籠窓、白壁土蔵などの町家が連なる上街道は古代官道の1つ。さっそく道沿いに近年公開の奈良町にぎわいの家(0742・20・1917)に入った。大正6年に建築の商家で、通り庭に沿って、それぞれ趣異なる床の間のある3つの座敷や小さな茶室、離れ座敷、江戸時代の蔵、庭園などと襖や障子、格子、柱、庭木、石など趣味のよさがしっとり伝わる。

 筋向いには源平争乱の時代から続く和漢胃腸薬「陀羅尼助丸」が評判の菊岡漢方薬局や角を曲がれば明治40年創業の蚊帳(かや)の製造所が一部を開放した奈良町資料館(0742・22・5509)があった。

 軒先で目に付くのが何匹も吊るした赤い猿のぬいぐるみの“さるぼぼ”。両手を頭に置き、まるで「ごめんね」しているように身をかがめ、愛らしくも可哀想な姿。庚申さんのお使いをかたどったお守りで、家の中に災難が入ってこないようにと願う魔除けだという。

 桓武天皇が建立という御霊神社に手を合わせ、生薬類から蝋燭、鬢付(びんつけ)油など商った江戸時代後期の豪商・藤岡家住宅(非公開)の外観を見て、土間の明かり採りや収納の箱階段など江戸末期の町家を再現した奈良市ならまち格子の家(0742・23・4820)見学。間口が狭く奥行が長い、“うなぎの寝床”だが、中庭や茶室などの構成や広壮さに目を見張った。

 帰り道はアーケード街のもちいどの(餅飯殿)通りで、江戸後期創業の萬々堂通則の米の粉油で揚げた和風ドーナツの「ぶと饅頭」を買い、餅の中谷堂でつきたての柔らかい餅を頬張り、人気の高いやまと庵の「釜飯」を食べた。

 路地、小路、丁字路など迷いそうになるが、木造りの町家、祈りの思い、暮らしの匂いが漂う奈良町は懐かしく親しみやすく心地よい時間に浸れる町であった。


〈交通〉
・JR奈良線奈良駅から徒歩20分、近鉄奈良駅から徒歩13分
〈問合せ〉
・奈良市総合観光案内所☏0742・27・2223
・奈良市観光協会☏0742・27・8866
・奈良町情報館☏0742・26・8610
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。