風土47
今月の旅・見出し
 
 
宮城県■蔵王の風光と歴史、片倉小十郎の城下町・白石


22年前に木造で完全復元された白石城天守

最上階から見下ろす穏やかな白石市街の眺め

庭樹に包まれた茅葺の中級武家屋敷・小関家

白石駅前のなかじまで人気のゴマ・クルミ・醤油だれの「味三種うーめん」。税込み1,050円

長さ10センチほどの短い乾麺で、サラダやお吸い物など応用も広く、おみやげにもいい

催しなどで公開される豪商・渡辺家の壽丸屋敷

城下町らしく銘菓が多い。その1つたかじん製菓(0224・25・0141)の城主最中
 宮城県最南部の白石市は人口3万6000余のまちである。観光的には宮城蔵王の玄関口だが、江戸時代は伊達政宗の名参謀、片倉小十郎景鋼の城下町として栄えた。

 その名残は平成7年に復元された白石城御三階櫓(天守閣とは呼ばず大櫓)や碁盤目状の町割に点在する武家屋敷や商家、町家、寺社などにしのばれる。

 最初に向かったのは白石駅の西方約1キロの小高い岡に立つ白石城・歴史探訪ミュージアム(0224・24・3030)。築城は平安時代末期で、後に白石、伊達、蒲生氏らの城主のあと、伊達家の重臣・片倉氏が入封以来260年間、城下はにぎわいを見せた。

 幕府の一国一城令によって各藩の支城は破却されたが、加賀藩・小松城とともに特例で残ったのがこの白石城。戊辰戦争の際に薩長連合に対抗して奥羽越列藩同盟が結集したのがこの城で、明治7年の取り壊しまで大櫓がそびえていた。

 それが高層木造建築物で完全復元されたのは120年後。柱や梁に往時をしのびつつ最上階に立つと、白石市街が眼下にひらけ、蔵王連峰が間近に見えた。

 一帯は益岡公園として整備され、片倉家ゆかりの文物や復元過程の記録など歴史探訪ミュージアムを開設。4月10日頃に満開を迎える桜の名所としても名高い。

 城主・片倉小十郎景綱は政宗の幼少時代から傳役(もりやく)で生涯を捧げた重臣で、秀吉や家康から“国家の大器”と評された名将だったという。

 三の丸外堀にあたる、家臣の片倉家中武家屋敷の小関家(0224・24・3030)に立ち寄った。門や塀を構え、母屋は茅葺だが庭木や水流に包まれた清々しい住まいだ。

 歴史をひも解くと、2代片倉小十郎重長は大坂夏の陣で伊達隊の先陣として、信繁(幸村)の真田隊と激突するが、戦いのさなか、敵の幸村から子女・阿梅や阿菖蒲、大八の後事を託され、二の丸で密やかに養育し、その後自立へ導いたという。

 城主は城下の産業振興として温麺(うーめん)・和紙・葛(くず)の白い3名品、“白石三白”を奨励し、それが今に続いている。とりわけ温麺は400年余の歴史を誇る小麦粉と塩水だけで作る特産品で、製造販売所が7つ、食べ処が20ヶ所を数え、“うーめんの町”として繁栄している。

 その1軒、元祖を冠する白石駅前のなかじま(0224・25・6670)でゴマ、クルミ、醤油の3種のたれで温麺を堪能した。喉越しよく、食べやすく、美味だが、胃を病んで床に伏す父のために、旅の僧から教わって油を使わず作り出した孝行息子の伝説がひとつ味を増す。

 水質と原材料に恵まれた白石和紙も今に続く特産品で、東大寺二月堂の“お水取り”で修行僧が着る紙衣に使われている。

 知勇兼備の政策、敵将の子女養育、堅実な産業育成、孝行息子の温麺など町を洗う清流や連なる蔵王連峰も相まって白石市はどこか気高く、おっとりとして、やさしさを感じさせる町であった。


〈交 通〉
・JR東北本線白石駅、またはJR東北新幹線白石蔵王駅下車
〈問合せ〉
・白石市商工観光課☎0224・22・1321
・白石市観光案内所
 白石駅構内☎0224・26・2042
 白石蔵王駅構内☎0224・24・5915
 
愛知県■城下町や宿場町の歴史を刻み、路面電車が走る豊橋


湯煙上げゴボゴボ熱湯が湧く天神泉源

有馬温泉の中心は3つの川の合流点周辺

老舗の商店が趣ある通りをなす湯本坂

古くから人気の三津森本舗の炭酸煎餅

手焼きは若干高めだが風味はふっくら

土産に買いたい灰吹屋西田筆店の有馬筆

中心街にある日帰りの金の湯。650円
 神戸中心街の北東郊、裏六甲の山裾に六甲川、有馬川、滝川の3川が合流する起伏の地に湧出する有馬温泉は、神代の昔、大己貴命と少彦名命が見つけたと記述にある日本最古のいで湯である。

 日本書紀には舒明天皇、孝徳天皇、奈良時代には僧行基が復興、平安時代には白河法皇、後白河上皇、鎌倉時代には僧仁西が湯治客のために12の宿坊を開いた。有馬の宿の名に坊の字が付くのはその名残だが、最もにぎわいを呼んだのは太閤秀吉が千利休を引き連れて度々来湯し、茶会も開かれた頃。ねねも淀君も連れてきている。

 そんな由緒深い歴史を綴る温泉街の表玄関は神戸電鉄有馬線・有馬温泉駅。駅前の坂道のすぐ右に豊太閤像のある湯けむり広場があり、その先が土産物屋や観光案内所、銀行、バス停などが連なる中心街だ。

 見渡せば高台や谷筋にレトロやモダン、「坊」を名乗る宿も何軒か見える。そうした建物の間、木造・格子造りの炭酸煎餅や松茸昆布の老舗などが連なる湯本坂を皮きりに湯の町散歩。途中、目を引くのが足湯や飲泉所も備えた金の湯(078・904・0680)。大理石の重厚な浴槽に鉄分の多い赤茶色の湯がたっぷりの共同浴場で、有馬温泉を象徴するナトリウム-塩化物強高温泉。その色から“金泉”と呼ばれ、ラジウム泉と炭酸泉の透明でさらりとした肌ざわりの“銀泉”と対比して、2つの泉質は有馬の大きなウリになっている。

 その泉源が温泉街に6ヶ所あり、もうもうと湯煙が上がっている。中心街を見下ろす学問の神様・天神社境内に湧く天神泉源では、98度の熱湯がゴボゴボ。白い湯煙を絶えまなく上げて、湯の町気分を盛り立てる。

 湯本坂には筆を立てると筆軸に仕組まれた人形がひょこっと飛び出す西田筆店のカラクリ「有馬筆」や小麦生地を有馬の炭酸泉で薄く焼き上げたパリッと軽やかな歯触りの三津森本舗(078・904・0106)の「炭酸煎餅」などいろいろな店がある。

 中心街では温泉寺や極楽寺の辺りには共同浴場の「銀の湯」(078・904・0256)や秀吉ゆかりの太閤の湯殿館などもあり、湯の町散歩が十分楽しめた。

 1300有余年前から湯が絶えず、町がくたびれず、京阪神の奥座敷として栄え続けてきたのは、やはり泉質と自然、歴史の誇りのせいだろう。


〈交 通〉
・神戸電鉄有馬温泉駅下車
・JR山陽新幹線新神戸駅前からJRバス30分
〈問合せ〉
・有馬温泉観光総合案内所☎078・904・0708
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。