風土47
今月の旅・見出し
 
 
北海道■ビルの谷間に開拓使の面影がちらつく雪の札幌


世界最大級の冬のイベントのさっぽろ雪まつりは
2月6日~12日

ネオ・バロック様式の赤レンガの道庁旧本庁舎

ビルの谷間にたたずむシンボルのさっぽろ時計台

買ったり食べたりできる甘味のビッセスイーツ

美味しいクッキーのきのとやの「札幌農学校」

便利な環状線になった札幌市電と電停狸小路

中心街に隣接していて買物しやすい二条市場

外せない札幌名物の1つのスープカレー。奥行きの深い味わいがある。(イエローにて)
 久し振りに冬の札幌に降り立った。駅はデパート、ホテル、地下街が一体化したビッグな複合商業施設で、一大交通拠点。グルメやスイーツ、ファッションなど多種なショップが多数集積したアミューズメントタウンである。特に冬場は外歩きを避ける多数の人たちがコンコースを行き交う。

 そんな中で旅行者に頼りになるのが札幌駅西改札すぐ前の北海道さっぽろ「食と観光」情報館(011・213・5088)。札幌市や道内各地のパンフレットが揃う観光案内所で、隣接して各地の土産を販売のどさんこプラザやフリースペースのカフェもある。

 北口にはビジネスホテル街やポプラ並木で知られる北海道大学があり、南口からは市営地下鉄や歓楽街すすきのまで行ける地下歩行空間「チ・カ・ホ」が延びている。

 雪道に足を取られながら北海道旧本庁舎(011・204・5019)まで歩いた。ちらつく雪に赤レンガが映えて、開拓使時代の厳しさの中にも北国旅情が伝わってきた。

 西側に広がる原生林と植物が茂る緑のオアシスの北大植物園は、冬は温室のみの公開なので、10分ほど歩いて札幌の不変のシンボル、札幌市時計台(011・231・0838)へ足を向けた。クラーク博士の提言で建てられた札幌農学校(北大の前身)の演武場で、130年余の時を刻み続けてきた。展示室や講堂など内部見学ができる。

 中心街を南北に分けて東西1・5キロに一直線に延びる大通公園は芝生と花壇、噴水にベンチを備えた観光客や市民が一緒に憩うグリーンベルト。年中イベントが繰り広げられる野外ステージだが、毎年2月上旬は巨大な氷雪像が並ぶさっぽろ雪まつりの会場として国内外からの約200万人の観光客でにぎわう。

 東端にそびえる高さ147メートル余のさっぽろテレビ塔(011・241・1131)からは大通公園や碁盤目状の中心街が眼下に広がる。冬こそ必見のビューポイントだ。

 駅からすすきのにかけてのエリアは地上も地下もレストランやカフェに事欠かない一大グルメタウン。スイーツの町・札幌を名乗るように、駅前通りと大通りの交差点界隈の6菓子店が集まるビッセスイーツや「白い恋人」のISHIYA CAFÉ、サッポロスイーツカフェなどに若い女性が絶えない。

 腹ごしらえなら手軽なラーメンからカニ、ウニ、イクラの海鮮や寿司、ジンギスカン、道産牛など多種多様にあるが、20年ほど前から札幌グルメに躍り出たのがスープカレー。野菜など具がたっぷりのカレーのスープにスプーンにのせたご飯を浸して食べるピリッと辛いがコクのある旨みと栄養バランスもよいなかなか奥深い料理である。スープカリーイエローで味わいの深さに満足した。

 中心街での話題の1つは、平成27年12月に400メートル離れていた市電の線路が中間に電停狸小路を開業して悲願の環状線になったこと。“西4丁目行き”、“すすきの行き”の表示が“循環”に変わった。

 中心街に点在する開拓使時代の面影はビル建設や人口増加の都市化の波に埋もれそうだが、雪の季節はことさら北国旅情がいや増す。

 
〈交通〉
・JR函館本線札幌駅下車
 市内へは地下鉄、JRバスなど頻発
〈問合せ〉
・札幌観光協会☎011・211・3341
・札幌市観光コンベンション部☎011・211・2376
 
愛知県■城下町や宿場町の歴史を刻み、路面電車が走る豊橋


吉田城跡の一角で歴史を伝える復元の鉄櫓

国指定の重要文化財の豊橋ハリストス正教会

吉田宿本陣跡に建つ和風建築のうなぎの丸よ

東京庵で食べた名物のカレーうどん(950円)

井上靖に愛された若松園の「黄色いゼリー」

市内観光に便利な路面電車(乗車券150円)

旧東海道の面影が色濃い二川宿本陣資料館
 愛知県最東部、豊橋は人口約37万8000、県下第2の都市である。戦国時代は今橋城、江戸時代は吉田城の城下町で東海道34番目の宿場町、そのあと国道1号、東海道線、新幹線、飯田線、名鉄線などの交通の要衝としても栄えてきた。

 駅の南口から中心市街へ走る路面電車に乗って、最初に訪ねたのは吉田城址。市役所前の電停から歩くと、松の茂る広い豊橋公園があり、豊川を見下ろす地に62年前に復元された鉄(くろがね)櫓が建っていた。近世、池田輝政が整備・拡充した吉田城は明治の廃城令で石垣だけを残して取り壊された。

 公園のそばで目をひいたのは函館・元町を思わせる大正2年建築のビザンチン様式の白亜の豊橋ハリストス正教会(見学予約0532・54・0434)と、昭和6年に建てられたロマネスク様式のモダンな公会堂だ。

 豊橋は戦災によって城下町や宿場町の多くを失ったが、中心街の旧東海道沿いには鍛冶町、呉服町、札木町、上伝馬町など城下町時代の地名が残り、時代の空気を伝えるような古風な建物や蔵づくりの老舗が点々とたたずむ。

 その一つが吉田宿本陣跡に120年以上ののれんを下げるウナギの丸よ(0532・52・4987)。白焼きしたあと蒸してから秘伝のタレを付けて焼く関東流の店で、柔らかく、ほどよく脂が落ちた身と甘辛いタレが絶妙にマッチ。皮を上にして載せるのはこの店ならではという。鰻定食、鰻丼(松・約2500円~)などいろいろある。

 また文政年間(1810~1830)創業の菜めし田楽のきく宗(0532・52・5473)も名物店で、秘伝の味噌を塗った自家製豆腐と細かく刻んだ大根の葉を混ぜた菜めしのセットの「菜めし田楽」は取り合わせの妙の旨さがある。

 食事なら50を超える店が共存共栄する「豊橋カレーうどん」が新名物。カレーうどんの底にとろろがのったご飯が潜む2層構造が共通項目の1つだという。駅近くの東京庵ときわ店(0532・52・8282)で、ピリッとしてとろっとした味に満たされた。汁除けに紙エプロンが付く。

 旧東海道で足を止めたのは、作家・井上靖が自伝小説『しろばんば』で「言葉に表せない美味しさ」と絶賛した日向夏の生果汁入りの「黄色いゼリー」。その店が江戸時代創業の御菓子司若松園(0532・52・4641)で、柔らかいおこし種の中に緑の餡をはさんだ棹物の看板菓子「ゆたかおこし」も素朴でやさしい味わいだ。

 ここから旧道を東に向かうと、古い町並みが残る東海道33番目の二川宿(ふたがわじゅく)がある。復元の二川宿本陣資料館(0532・41・8580)で、その脇をひっきりなしに高速ですり抜ける新幹線に400年余の時の流れを思った。

〈交通〉
・東海道新幹線・東海道線豊橋駅下車
〈問合せ〉
・豊橋市観光振興課☎0532・51・2430
・豊橋観光コンベンション協会☎0532・54・1484
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。