


澪標は旧細江町章で、大阪市では今も市章に
(写真:奥浜名湖観光協会)

小堀遠州作という池泉観賞式の龍潭寺庭園

場所は多少移動したが往時を再現の気賀関所

気賀四つ角近くの人気の清水家の「うな重」。
やや甘めのタレが身にからんで美味。2,700円

味、香り、味も人気の「姫様スティック」。
洋風テイストのシャレた甘さ。10本入り1,400円

観光協会も同居の観光拠点の1つ気賀駅

姫街道が通り抜けた宿場町・気賀の中心街
ドラマ放映前から団体バスやマイカーが押し寄せていると、引佐細江を見下ろす国民宿舎「奥浜名湖」のスタッフから聞き、昨年秋に訪ねて人の多さに驚いた。
思えば奥浜名湖は50年前の学生時代、万葉集のレポート提出のために「遠江(とおとうみ)引佐細江の澪標(みおつくし)吾れを頼めて浅ましものを」の東歌の実地調査に出かけた地。“澪標”とは船に航行可能な水深を知らせる“水脈(みお)串”のことで、土砂などの堆積でしばしば浅くなる。それに例えて「頼りにするように私に信じさせておきながら、実は引佐細江の澪標のように貴方の心は浅かったのね」と不実をなじった歌である。
あの2日間、図書館長の斉藤千別さんにあちらこちらに案内され、何人かを紹介された。落合橋近くの宿では夕食も朝食も茶の間だったが、部屋代しか受け取らなかった。この町では誰もが親切で温かかった。
そんな記憶がよみがえる引佐細江に臨む気賀の町は、江戸時代、厳しい新居関所や今切の渡しを避けた東海道の脇往還が開かれ、関所や本陣、旅籠などが並ぶ宿場町として栄えた。女人の往来が多かったので“姫街道”とも呼ばれ、それに因む祭りの姫様道中が桜咲く4月初めに催されることもその時知った。
ただし無知か無関心かと思われたのか、あの時、井伊家発祥の地の話はなかった。後年、彦根取材で龍潭寺や井伊谷の地名で知ったが、男子の相次ぐ死で家督が途絶える危機の復興に直虎を名乗った女城主の奮闘があったことは知らなかった。
その井伊家40代の菩提寺の龍潭寺(りょうたんじ)へは気賀から車で10分。多い拝観者に混じって小堀遠州作のみごとな庭園や左甚五郎作の龍の彫刻などに見入ったあと、南北朝時代、南朝方で井伊氏とともに奮闘した宗長親王を祭る井伊谷神社や浜名湖を見下ろす高台に残る井伊氏居城の井伊谷城跡も見学した。
1月15日にオープンする大河ドラマ館の隣接地にある冠木門や本番所を復元した気賀関所に入って脇往還のことを学び、近くの天竜浜名湖線気賀駅や歴史民俗資料館で昔に思いを寄せた。浜名湖自転車道をたどれば河口に立つ澪標が見える。
昼食には炭焼きの清水家(053・522・0063)で名物「うなぎ重」を賞味。わりあい甘めで濃いタレがふっくらのウナギにとろりとしみておいしかった。
おみやげでは奥浜名湖だけでも10店余の菓子店が味を競う「みそまん」の他に、1度食べた人が所望するイチゴジャムをはさんだスポンジの上にスライスアーモンドなどのせた外山本店(053・522・0172)の「姫様スティック」を買った。シャレたおいしさのスイーツである。
大河ドラマをきっかけに地域魅力を掘り起こし、磨き上げ、江戸時代を通じて名家だった井伊家のように輝きを放ち続けてほしいと思った。
〈交通〉・JR東海道新幹線・東海道本線浜松駅から気賀駅前までバスで50分
・掛川駅から天竜浜名湖線で気賀駅まで約1時間30分、新所原駅から約45分
〈問合せ〉
・奥浜名湖観光協会☎053・522・4720
・国民宿舎奥浜名湖☎053・522・1115


九里浜からのフェリーが着く金谷の港と街

スケールとスリルの百尺観音と地獄のぞき

廃校活用の交流施設の道の駅・保田小学校

この時期はそこここでイチゴ狩りが人気

数年前売り出しの名物、休暇村館山で食べた
「館山炙り海鮮丼」。4店一律 1,800円

千倉の道の駅・海風王国そばの花狩り園

道の駅和田浦WA・O!の名物は刺身や竜田揚げ、
くじらカツなどの鯨料理。500円~
そんな花の春を求めて、九里浜港から東京湾フェリーで金谷港へ。着くと切り出した房州石のギザギザの岩肌が荒々しい鋸山を目指してロープウェーで一気に昇り、山頂展望台に立った。眼下にひらける金谷の集落や金谷港、東京湾、三浦半島、晴れれば天城連峰や富士山なども見える大パノラマに気分も晴ればれだった。
道を10分ほど下って関東最古の勅願所という日本寺に到着。境内では石切り跡に刻み込まれた大観音石像の百尺観音や山頂に突き出す岩盤の地獄のぞきに圧倒されて浜金谷駅に戻った。
この山の南側を意味する鋸南町で、ひと駅南の保田(ほた)は12月中旬から花をつけて甘やかな香りを放つ水仙郷。2月中旬からは保田川堤は濃いピンクの頼朝桜が素晴らしいという。ここでは3年前に廃校になった小学校校舎が、なんと物産直売所、ギャラリー、宿泊施設など多様な要素を抱えた交流拠点の道の駅・保田小学校(0470・29・5530)として生まれ変わっていた。
半島西南端の館山市は里見氏や稲葉氏の城下町など古くから安房の中心地。海洋性の温暖な気候の下で、花、魚介、野菜などに恵まれた風光に富んだ町である。この季節の見どころに花摘みができる100万本のポピーが咲き揺れる館山ファミリーパーク(0470・28・1110)や熱帯・亜熱帯の花や樹木、バナナやマンゴーなど熱帯果実が見られる貴重な施設のアロハガーデンたてやま(0470・28・1511)がある。
グルメなら休暇村館山(0470・29・0211)など市内4店が歩調を合わせて推進する炙り海鮮、刺身、海鮮丼を特製三段丼に盛り付けた「館山炙り海鮮丼」を満喫し、いちご狩りも楽しんだ。
南の富山、富浦、千倉、白浜、丸山、和田の6町と三芳の1村が合併して生まれた南房総市では各所でストック、ポピー、キンセンカなどの観賞や花狩り体験。市内9ヶ所の道の駅では海産・農産物の他に、和田浦WA・O!(0470・47・3100)の鯨など地元ならではの料理も味わえる。
花と美味の向こうに青い海となだらかな山。太陽も風も温かい1月の房総半島は陽春の言葉が似合う旅路である。
・東京駅から館山駅まで内房線特急(土・日曜運行)で2時間20分
・久里浜港から金谷港まで東京湾フェリーで40分
〈問合せ〉
・富津市観光協会☎0439・80・1291
・鋸南町観光協会(保田駅前観光案内所)☎0470・55・1683
・館山市観光協会☎0470・22・2000
・南房総市観光協会☎0470・28・5307
・東京湾フェリー九里浜☎046・835・8855