風土47
今月の旅・見出し
 
 
岩手県■牧歌と高原情緒の岩手山麓の小岩井・網張温泉


絶景の岩手山麓の観光拠点の休暇村周辺

芝生と森の緑の牧歌が響く小岩井農場

園内カフェでおいしく食べたチーズケーキ

農場内をガイド付きで巡るトラクターバス

白黒まだらの乳牛ものんびり草を食む

展望とゆとりを誇る休暇村岩手網張温泉

眺めと泉質のよさを誇る休暇村・大釈の湯

季節と郷土の味を盛り合わせた休暇村の会席
 岩手県中西部、雫石(しずくいし)は周囲を山々に囲まれたのどかな“山と牧場といで湯の町”。山は北にそびえる秀麗な南部富士・岩手山、牧場は南北13キロ・東西5キロの広大な敷地の小岩井農場(019・692・4321/800円)。

 小岩井は明治24年、小野義眞(日本鉄道会社副社長)と岩崎彌之助(三菱2代目社長)、鉄道庁長官の井上勝(鉄道庁長官)の3氏が、荒れ地を豊かな牧野に変える夢を苗字の頭文字の名称に込めて始めた大規模な民間農場である。しかし8年後は岩崎氏一人が経営に当たり、125年の歴史を刻んで今日に至る。

 観光施設の中心のまきば園にはトロ馬車、乗馬、ひつじショー、アーチェリー、天体ドーム、木工教室などのほか、レストランでのジンギスカンなどやミルク、ソフトクリームなどを食べたり買ったり大人から子どもからまで楽しみがたくさんある。農場内をのんびり歩いたり、ベンチでぼんやり過ごしても心が安らぐ。心身をそっと放つにもいい“人間牧場”でもある。

 他に生産現場や歴史ある建物、農場などガイド付きのトラクターバスで巡る小岩井農場めぐりバスツアー(4月15日~11月上旬/70分・1000円)や農場自然散策や上丸牛舎の歴史散策(各500円)などの場内ツアーもある。

 雫石の魅力の3つ目が泉質さまざま、趣いろいろ、10ヶ所を数える個性的な温泉だ。なかで川沿いに20軒の旅館・民宿が並んで唯一温泉街をなすのは450年前開湯の鶯宿(おうしゅく)温泉。他は宿が1~3軒のつつましやかな温泉ばかりだが、そんな中で評判の高いのが雫石盆地を見下ろす標高760メートルの高所に、1300年の歴史を誇る網張(あみはり)温泉である。

 その拠点である「休暇村岩手網張温泉」(1泊2食10080円~)は、鉄筋3階、和室44、洋室31の展望がよく、ゆったりとした部屋と湯量豊富な温泉に癒される快適な宿泊施設だ。

 ここには休暇村が管理する“網張五湯”(湯めぐり券1000円)と称する多様な風呂がある。その1つが本館の広々した内湯と雲上気分の露天風呂からなる“大釈の湯”と熱めの湯と木肌のぬくもりが心地よい“白泉の湯”。本館から足で5分足らず、吊り橋を渡って行く内風呂も露天風呂も快適な日帰り湯“網張温泉館薬師の湯”(外来600円・宿泊者無料)や山道を7分ほど歩いた所に野趣あふれる混浴野天風呂“仙女の湯”もあり、風呂のハシゴが楽しめた。

 休暇村周辺の夏は特に花と緑と清涼な空気の中でキャンプやゴルフ、トレッキングなどアクティビティが多種多様。3基のリフトを乗り継ぐ網張展望リフトの空中散歩も快適だ。特に夏から秋にかけて透き通った高原情緒が際立つ。

〈交通〉
・JR東北新幹線盛岡駅前から網張温泉行き、または小岩井農場まきば園行きバスで小岩井農場まで約30分、網張温泉まで約50分。なお秋田新幹線雫石駅や小岩井駅からの公共交通はない。
〈問合せ〉
・雫石町観光商工課☎019・692・6407
・しずくいし観光協会☎019・692・5138
・休暇村岩手網張温泉☎019・693・2211
 ※写真提供:休暇村岩手網張温泉
 
長崎県■遣唐使船やキリシタンの祈り秘める上五島の島


世界遺産に登録の中通島の顔の頭ヶ島天主堂

青い入江見下ろす赤レンガの青砂ヶ浦天主堂

日本うどんの発祥の美味な五島手延べうどん

堅い皮まま焼く絶品名物・箱ふぐの味噌焼き

リアス式の海岸には大小の漁港があちこちに

中通島と若松島に掛かる5島で唯一の若松大橋

工場や家内作業などうどんは多種多様にある

名品の誉れ高い純白で角のない五島の海塩
 長崎県の西、南北80キロにわたり東シナ海に浮かぶ五島列島は『古事記』にも登場する古くから知られた島。日本と大陸の間にあることから遣唐使船の寄港や倭寇の足場、捕鯨基地としてにぎわい、キリシタンの島としても語り継がれてきた。

 列島は中通、若松、奈留、久賀、福江の5つの島を中心に140ほどからなり、北側の中通島などを上五島と呼び、南側の福江島などを下五島と呼ぶ。行政上も新上五島と五島市に分かれている。橋の架かる若松島と中通島以外は、島々の往来は船のみ。

 そんな島の1つ、中通島に初めて行ったのは今年の7月。長崎港からの高速船で着く鯛ノ浦港に出迎えてくれた町役場の車が最初に向かったのが石造りの頭ヶ島天主堂だ。案内役の中多育郎さん曰く。「長崎の教会群とキリスト教関連遺産の世界遺産候補など島で一番の注目ポイントですから」。信徒たち自ら石を切り出し、積み上げ、9年を要して完成した建物で、国の重要文化財にもなっている。

 南北に長く、リアス式海岸に縁取られた中通島には良港がいくつかあり、それぞれの集落では教会が目に付く。訪ねたのは青い入江を見下ろす美しい赤レンガの青砂ヶ浦天主堂や八角ドームの赤レンガの大曽教会堂だが、車中から見た桐教会や高井旅教会、中ノ浦教会なども忘れ難いたたずまいだった。

 これらの教会の多くは迫害をのがれて長崎・外海(そとめ)など本土からの移住者が心の拠り所として自ら汗を流し、地元の教会堂建築の名工・鉄川与助の腕と信徒らの手によって建てられたものだと聞いた。

 島での食事はヒラマサ、アラカブ、アオリイカなど魚介をはじめ美味がいろいろ。昼に食べた五島手延べうどんの“地獄炊き”は喉越しつるつる、もちもちで、アゴ(トビウオ)だしに旨みが一段と深かった。地元ではすきやきのように溶き卵につける食べ方もあるが、これは本場ならではの新しい発見だった。

 夕食では新鮮な刺身を堪能したが、とりわけ四角っぽい箱ふぐの腹を開けて堅い甲羅(皮)を鍋にして味噌を詰めて焼いた“箱ふぐの味噌焼”(地元でかっとっぽ)は、焼けてホクホクの身と味噌、ネギなどをほぐし混ぜ合わせて食べる絶品だった。

 みやげには五島手延べうどんの他に、海水を濃縮し、煮詰めて作る古来の製法を復活した直焚きの“五島の海塩”は雪のように白く、舌に柔らかい。知る人ぞ知るの逸品だそうだ。島特産の椿製品、サツマイモと餅を混ぜた“かんころ餅”も勧められて、今度の旅はいつになく土産でカバンがパンパンに膨らんだ。

 絶景の海岸や入江も訪ねたいし、他の島へも足をのばしたい。再び三度訪れたい、遠かったけれど近くになった五島列島の旅だった。

〈交通〉
・長崎から鯛ノ浦(中通島)まで五島産業汽船高速船で1時間40分
・長崎から有川(中通島)まで九州商船高速船で1時間40分
・佐世保から有川まで九州商船フェリーで2時間35分、五島産業汽船フェリーで2時間30分
〈問合せ〉
・新上五島町観光商工課☎0959・42・3851
・新上五島町観光物産協会☎0959・42・0964
 
銘菓通TVチャンピオンの絶品!旅の手みやげ|第8回☆涼菓(寒天・葛)

 夏盛りの8月は食欲が低下気味。食べ物、飲み物も喉越しひんやり、冷たい物が好まれる。スイカ、メロンなど果物やかき氷、アイスクリーム、ところてんなどがよく売れるが、お菓子も水羊羹、フルーツゼリー、みつ豆、錦玉羹などが主役である。

 香り、色、舌触り、味、響きの五感が命のお菓子が、とりわけ夏に大切にするのが涼感だが、この涼菓作りに欠かせない素材の脇役が、寒天と葛である。

 ご存じのように寒天の素材は海藻のテングサを凝固、凍結乾燥したもので、かつて昼の日照りと夜の寒気の差が大きな内陸盆地の長野・諏訪地方が主産地。見た目の透明感、ひんやり、ふるふるの食感、なめらかさは寒天のなせるわざである。

 もう1つの涼菓の陰の主役の葛はマメ科多年草の葛の根から得られる澱粉で、主産地は奈良・吉野。生産が希少になって“吉野葛”が高級ブランドとしてつとに名高い。

 葛切り、葛饅頭など夏ならではお菓子、高級和菓子にもよく使われる。水都と呼ばれる岐阜・大垣名物の「水まんじゅう」も葛粉とこし餡、わらび粉の透明感と食感が涼気を体の中に運んでくれる。


夏柑糖
老松☎075・463・3050

夏みかんの上部の皮を切り、中味をくりぬき、搾った果汁と寒天、砂糖を合わせて再び皮の中に戻して固める。ふるふる、ひやりの食感とともに甘酸っぱさが涼感(この夏の注文は終了)。
茂木びわゼリー
茂木一○香本家☎0120・49・1052

長崎特産の茂木びわを丸ごと、透き通ったゼリーの真ん中に収めたお菓子。スプーンで口に運ぶと、ぷるぷる、ひやりの後に砕けるびわの果肉と香りが清々しい。
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。