風土47
今月の旅・見出し
 
 
福島県■少年隊士の悲話と智恵子の故郷・二本松市


桜の季節の霞ヶ城。登城口に悲話の少年隊士の像

二本松少年隊士像とほんとの空の智恵子像

酒屋の名残伝える杉玉の下がる智恵子の生家

霞ヶ城の入口の戒石茶屋のもりそば800円

宿場の面影を残す本町の上本陣通り

発祥といわれる玉嶋屋の「玉羊羹」

皮と餡が絶妙な日夏の最中の「洗心亭」
 福島県のほぼ中央に位置する二本松は江戸時代、丹羽氏10万石の霞ヶ城(二本松城)の城下町。駅前に立つ二本松少年隊士像と高村智恵子像が語るように、戊辰戦争で散った少年隊の悲話と『智恵子抄』の智恵子のふるさとでも知られている。

 ふらりと降り立ったのは桜の季節。運よく駅前から智恵子の生家や霞ヶ城、大隣寺などを1時間ごとに循環する「二本松春さがし号」バスの運行期間(今年は4月9日~5月8日・10時~15時の6便・500円)だった。

 最初に下車したのが旧奥州街道の智恵子の生家(☎0243・22・6151)。清酒「花霞」で知られた造り酒屋で、帳場や居間、台所、2階の智恵子の部屋など見て回る。酒蔵をイメージして裏に建てられた智恵子記念館に入ると、明治19年(1886)の生まれに始まり、福島高等女学校、東京・日本女子大学校卒業など生い立ちと作品を展示。油絵にひかれて洋画家の道を歩み26歳の時、平塚らいてう主宰の女性誌『青鞜』創刊の表紙絵を描く。彫刻家・詩人の高村光太郎との結婚で幸せな日々を過ごすも40代半ば過ぎ精神の失調をきたす。紙絵制作に打ち込むが、肺病で53歳の生涯を閉じた。

 2人が手を取り合ってよく散歩した背後の鞍石山は愛の小径や彫刻の丘、詩碑の丘、ほんとの空広場を整備した智恵子の杜公園になっていた。

 「あれが阿多多羅山、あの光るのが阿武隈川」
 「東京に空が無いといふ。ほんとの空が見たいといふ」

 霞ヶ城公園には戊辰戦争の大義のために戦った隊長と12~17歳の少年隊士の像、わが子の出陣服に肩印を縫いつける母の像がある。見上げればみごとな石垣の上に再建の箕輪門や二階櫓、多聞櫓が桜の花に包まれて立っている。城跡近くの戒石茶屋(☎0243・23・1055)のそばで腹ごしらえしたあと、立ち寄った城主・丹羽氏の菩提寺の大隣寺では枝垂れ桜がみごとだった。

 駅近くの本町は商家や和菓子店、寺など城下町や宿場町の面影残す古い町並み。藩御用達の本煉羊羹の玉嶋屋(☎0243・23・2121)で、楊枝でぷちっと弾けるゴム包みに流し込んだ「玉羊羹」のみずみずしい甘みを賞味。白壁土蔵の御菓子処日夏(☎0243・22・0063)ではパリッとした皮と小豆餡がおいしい「洗心亭」に満足した。

 二本松は自然の美しさや歴史が大らかに生き続ける町である。

〈交通〉
・JR東北本線二本松駅下車
〈問合せ〉
・二本松観光協会(市観光課)☎0243・55・5122
 
滋賀県■石田三成ゆかりの地の長浜・彦根めぐり


長浜駅前に立つ秀吉と三成の出逢いの像

三成の誕生地の碑もある石田屋敷跡

木ノ本の町並みをガイドする三成タクシー

城主を務めた佐和山城跡の本丸あたり

己高庵の人気メニュー「三成御膳」(1740円)

三成が隠れ潜んだと伝わるオトチの岩窟

関ヶ原合戦で笹尾山に置かれた三成陣跡
 天下分け目の関ヶ原の戦いから415年が過ぎた。東軍の大将・徳川家康と戦った西軍を率いた石田三成は敗軍の将ゆえ、長く続いた徳川幕府の江戸時代以降、冷酷、非情、傲慢などマイナーなイメージで語り継がれた。

 しかし豊臣秀吉との出逢いの「三献の茶」の逸話が伝えるように才気を買われて秀吉に仕え、中国出兵や山崎、賤ヶ岳の戦いなどで功を立て、36歳で佐和山城主、39歳で五奉行の1人に任じられた名将である。太閤検地、刀狩りなど果たした役割の大きさなど生誕地の長浜市石田では「三成公」「三成さん」と敬愛されてきた。

 戦後、小説やドラマ、歴史家などによって再評価され、近年は「戦国basara」「戦国無双」などのゲームを通して認知度や好感度が高まり、「終生、豊臣家に尽くした義の人」として人気が上がっている。“判官びいき”の心にも響く。折しも今年のNHK大河ドラマ『真田丸』では三成が好意的に描かれるという。

 そんな時代の空気に滋賀県では「石田三成」をテーマにゆかりの地を巡る歴史の旅を提案。彦根、米原、長浜の3会場で『石田三成に逢える近江路・MEET三成展』(5月14日~11月30日)を開催する。

 近江タクシーでは昨年から彦根、米原、長浜、木ノ本の4駅を基点に佐和山城跡周辺や出石田屋敷跡、大原観音寺など三成ゆかりの地を巡る「三成タクシー」(2時間・普通車8840円・近江タクシー・要予約)を運行して人気を呼んでいる。ガイドするのは三成検定に合格した北近江の歴史に詳しいドライバーばかり。

 石田三成と盟友・大谷吉継と「三成に過ぎたるもの」とうたわれた重臣・嶋左近の3人のイラストをラッピングした専用車で、治部少輔出生地の碑や三成座像などのある石田屋敷跡の石田会館(長浜市石田町)や“三献の茶”の逸話の場と伝える大原観音寺(米原市朝日)、城主になった佐和山城跡(彦根市古沢町)、その山麓にある三成の遺墨「残紅葉」を有する龍潭寺や嶋左近の屋敷地と伝わる清涼寺などを案内。

 関ヶ原合戦に敗れて逃げ隠れた古橋(長浜市木ノ本町)のオトチ(大蛇)の岩窟に足を延ばす(往復2時間10分)ファンも少なくないという。その古橋地区にある宿泊・食事処の己高庵(☎0749・82・6020)で三献の茶そばや三成がお腹を壊した時食べたニラ粥をセットした「三成御膳」を賞味した。

 折角なので米原駅から東海道線で20分の関ヶ原に足をのばし、歴史民俗資料館に立ち寄り、“大一大万大吉”の幟はためく笹尾山に敷いた石田三成陣跡に立って古戦場跡を見渡す。目を閉じれば本やテレビ・映画などでいろいろに描かれた合戦の場面が自分なりの映像でおぼろげながら思い浮かんでくるのだった。

〈交通〉
・JR東街道本線米原駅、彦根駅、JR北陸本線長浜駅、木ノ本駅下車
〈問合せ先〉
・びわ湖ビジターズビューロー☎077・511・1530
・長浜市観光振興課☎0749・62・4111
・米原市商工観光課☎0749・58・2227
・彦根市観光振興課☎0749・30・6120
・関ヶ原観光協会☎0584・43・1600
・近江タクシー彦根営業所☎0749・22・0106
 
銘菓通TVチャンピオンの絶品!旅の手みやげ|第4回☆ラングドシャ

 フランスはスイーツ王国。日本の洋菓子もフランスから数多く入り、モンブラン、ミルフィーユ、マカロン、フィナンシェなどたくさん作られている。それらに比べて名称のなじみは薄いが、小麦粉に卵白、バター、砂糖を入れて焼いたクッキーでチョコレートをはさんだ「ラングドシャ」も代表的な一品だ。

 フランス語で「langue (舌)de (の)chat(猫)」の通り、クッキーの形が猫の舌のように細長く丸みがあることからの名付けといわれる。表面のざらっとした舌触りが猫の舌に似ているからとの説もある。

 代表的なのは昭和51年(1976)に発売の北海道・石屋製菓の「白い恋人」。たちまち評判をとり、今も全国屈指の売り上げを誇る大ヒット商品。これに倣った四角形のラングドシャが各地でいろいろ作られた。なかで評判がいいのは長野県・マツザワの「白い針葉樹」。

 また近年、トーストに小豆餡を塗って食べる食習慣のある名古屋に登場したのが、小倉餡を練り込んだプレートチョコをクッキーでサンドした「小倉トーストグランドシャ」で、名古屋の人気土産にランクイン。ラングドシャはちょっと冷たくして食べるとパリッとしておいしい。だって猫の舌だもの。


白い恋人
石屋製菓☎011・666・1481

全国トップクラスの人気みやげ。縁が焼色の香ばしいクッキーと口どけのよい芳醇なホワイトチョコの風味が絶妙。北海道限定販売。12枚入り761円。
小倉トーストラングドシャ
東海寿☎052・451・1357

新しい名古屋の名物菓子。小豆餡入りのプレートチョコとクッキーとの和洋ミックスの味がなじみやすくやさしい甘さで歯応えサクサク。10枚入り699円。
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。