風土47
今月の旅・見出し
 
 
秋田県■栄華極めた商都の証しの内蔵の町・増田


観光案内所で公開内蔵でもある「蔵の駅」

増田で最古の蔵といわれる佐藤又六家

蔵は目につかないが趣ある中七日町通り

山吉肥料の蔵を案内する夫人の弘子さん

保存・公開する佐藤養助商店漆蔵資料館

佐藤養助商店で食べた「稲庭うどん」

餡と種皮が別々の最中の「たらいこぎ」
 秋田県東南部、成瀬川と皆瀬川の合流点に「増田」という町がある。江戸時代から昭和にかけて養蚕や葉タバコなどの物資の集散や吉乃鉱山の銅などの産出で大いに栄えた商都である。

 富を得た商人たちは増田銀行(現北都銀行)や水力発電所を興し、店や住まいに財を注いだ。その証しが中七日町通りに今なお40余棟も残る豪奢な蔵で、ここ10余年前から「蔵の町」として知られるようになった。だが川越や倉敷のような蔵の町並みは見当たらない。案内所のある観光物産センター「蔵の駅」で聞くと、「この建物(旧石平金物店)もそうですが」と通り土間の奥に誘い、店、居間、客間、台所を見せながら、奥に豪華な座敷蔵を構えたのが増田の特徴と説明。これらが豪雪に備えて全体を上屋ですっぽり覆われているので外からは見えない。夜になると奥の蔵に灯りが点るので、近郷近在の人たちからは「蛍町」と呼ばれたという。

 蔵は生活の場なので長く非公開だったが、その価値が注目されて見せてくれる家が徐々に増える中、平成25年12月に重要伝統的建造物群保存地区に選定された。

 代表するのが江戸時代からの旧家でかつて味噌・醤油醸造を営んだ文庫、味噌、米蔵が連なる佐藤又六家や太い梁や柱、床の間など居住性の高い蔵をもつ佐藤三十郎家。長大な旧勇駒酒造や日の丸醸造などの蔵も国登録の有形登録文化財である。

 昭和8年の建築だが、その分、建築技術がいっそう発揮されたのが、塩販売や生糸などで財をなした山吉肥料店の内蔵。当主夫人の山中弘子さんの案内で100m余り通り土間に並ぶ住まいを見学。5段蛇腹の土扉、黒漆喰の重厚な内蔵。窓扉や壁の保護、装飾のために取り付けられた漆塗りの鞘(さや)飾りはなんとも美しい。

 稲庭うどんの名店・佐藤養助商店が所有する旧小泉五兵衛家は漆蔵資料館として公開。食事処・養心庵(0182・45・5430)で名物の稲庭うどんを食べた。細くてのど越し滑らかでコシのある美味を楽しんだあと、戦前まで醸造業、戦後は医院だった木造3階の旧石田理吉家や佐藤こんぶ店などを見学した。

 蔵の駅で手作り最中の「たいらこぎ」をみやげに買う。4月のさくらまつりに開催される沼に浮かべたたらいを漕いで速さを競う伝統行事にちなんだお菓子だ。

 外にひけらかさない内蔵とともに暮らしぶりにも好ましさが感じられる町だった。

〈交通〉
・JR奥羽本線十文字駅からバスで10分
〈問合せ〉
・増田観光物産センター「蔵の駅」
 ☎0182・45・5311
 
佐賀県■小城羊羹と鯉料理が名物の佐賀の小京都・小城


羊羹店の看板が目に付く小城駅前通り

石段上の須賀神社から見下ろす小城市街

砂糖蔵を使った村岡羊羹本舗羊羹資料館

伝統の味を伝える村岡の「特製切り羊羹」

清水の滝入口に軒を連ねる名物の鯉料理店

名水でキリッと締まった深松屋の「鯉のあらい」
 江戸時代、長崎から小倉まで砂糖を運んでシュガーロードと呼ばれる長崎街道の取材で羊羹の町・小城を訪ねた。中世は千葉氏、近世は鍋島支藩7万3千石の所領で栄えた城下町。市街には藩主鍋島氏の庭園だった桜の名所の小城公園、街を抜けた北の小高い丘には鎌倉時代に治めた千葉氏の居城跡の千葉公園やその千葉氏が勧請した“祇園さん”と呼ばれる須賀神社がある。眼下には小城の町並みが広がり、裾を流れる祇園川は初夏には蛍が舞い飛ぶ。

 駅前通りの左右には風雅な構えの“小城羊羹”の店が目に付く。20軒ほどが共存共栄する全国でも稀な「羊羹の町」である。

 その初祖の村岡羊羹本舗(0952・72・2131)では羊羹資料館を無料開設。原材料から製造工程、製品などを分かりやすく展示。4代目社長の村岡安廣さんは「長崎港に入った砂糖は嬉野、小城、佐賀、飯塚、小倉を経て江戸まで運ばれた。沿道ではマルボーロなどいろいろな菓子が生まれ、今も残っています。森永製菓やグリコの創業者も佐賀の人なんです」と熱く語る。

 副社長の村岡由隆さんの案内で工場を見学。時が経つと外側が糖化してシャリシャリ、中は軟らかな舌触りの絶妙な旨さの特製切り羊羹が竹皮に包まれる工程に見入った。小城には「昔ようかん」(八頭司伝吉本舗)、「昔風手造り小城羊羹」(増田羊羹本舗)、「断ち羊羹」(天山本舗)など味を競い合い、それぞれにファンがついている。

 天山に源を発した清冽な水が高さ75mを一気に落ちる清水の滝も見どころで、入口の松尾には8軒の鯉料理店が軒を連ねる。村岡さんに連れられて入った深松屋(0952・72・3220)で、鯉のあらいと鯉コク、漬物、ご飯を賞味。名水でさらした鯉は全く臭みがなくて歯応えコリっと締まって美味だった。このあたりは新緑も紅葉もよく、夏は涼しく“小城の奥座敷”だという。

 豊かな自然や歴史、文化、寺社に恵まれた小城には“佐賀の小京都”の名もある。

〈交通〉
・JR唐津線小城駅下車
〈問合せ〉
・小城市商工観光課☎0952・37・6129
・小城市観光協会☎0952・72・7423
 
銘菓通TVチャンピオンの絶品!旅の手みやげ|第3回☆おはぎ・ぼたもち

 「暑さ寒さも彼岸まで」といわれるが、今月17日は春の彼岸入り。仏前におはぎ・ぼたもちを供え、食する風習が昔からある。

 そのおはぎとぼたもちの違いは繰り返し論じられてきたが、春は牡丹の季節から「ぼたもち」、秋は萩の花から「おはぎ」が1つの定説になっている。

 また、つぶあんとこしあん、米の半搗き(半殺し)と餅、大ぶりと小ぶり、自家製と店製などいろいろな角度から諸説が展開。しかし全国の菓子店ではほとんどが上品な響きのせいか「おはぎ」の名で販売している。

 おはぎ・ぼたもちは容易に作れるので、家族の多かった時代は家庭で作るのが当たり前だったが、今日では和菓子店やスーパーマーケット、デパートなどで売っている。

 その日に売り切り、その日に食べてもらいたいので朝早く起きて取りかかる。餅菓子やだんごと同様“朝生”(あさなま)と呼ばれている。

 おはぎ・ぼたもちはペッタン、ペッタンと臼と杵で搗(つ)く餅と違って音がしないので近所に配る気遣いもいらない。いつ着(搗)いたか分からない白河夜船の故事から「夜船」とか、月(搗き)を知らないことから「北窓」の風雅な呼称もある。

 「ぼたもち」にはおふくろの味とともに懐かしい響きがあるのではないだろうか。。


秋保のおはぎ
主婦の店さいち☎022・398・2101

仙台市郊外の秋保温泉街のスーパーで販売。地元、観光客に大人気でしばしば午前中で売り切れも。中ぶりで甘さも抑え目。2個はぺろりとイケる。ゴマ、きな粉もある。3個324円。
ぎおんのおはぎ
小多福☎075・561・6502

京都・祇園の安井金比羅宮近くの路地。小ぶりなおはぎは彩り可愛く、味も多彩でおいしい。小豆、きな粉、青のり、黒ゴマ、白小豆など8種類。店内でも食べられる。1個170円。白小豆200円。
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。