風土47
今月の旅・見出し
 
 
群馬県■都市にひそむ歴史と粉食グルメの街・高崎


今が旬の人気の微笑庵の「ちごもち」

春は桜で華やぐ高崎城址の乾櫓と石垣

悲話を伝える大信寺の徳川忠長の墓

トラットリア風のボンジョルノ本店

人気の「ハーブ豚のカッチャジョーネ」

菓子に腕を奮う微笑庵店主の宮澤啓さん
 高崎といえば白衣大観音、少林山達磨寺など思い浮かぶ観光名所は多くない。けれど中山道、三国街道など古くからの交通の要衝、また井伊直政が高崎城を築いて以来、城下町、宿場町、問屋町として栄えた地である。

 そんな歴史の面影も戦災で多くが失われ、上越・北陸新幹線、鉄道、自動車道など人や物資の交流による県内第一の商都の発展に埋もれて影が薄い。そこで先日思い立って、所用後の3時間ほど街をぶらりと歩いてみた。

 最初に立ち寄ったのは高崎城址。西を流れる烏川を天然の堀として三方を土塁と三重の堀で固めて築いたのは関ヶ原の戦いで功を挙げ、のちに彦根藩を興した徳川四天王の一人の井伊直政だ。城主はめまぐるしく代わったが、三ノ丸堀と土塁、入母屋造り2階建の乾櫓、東門が往時の面影を今もわずかながら伝える。

 城跡は桜の名所の城址公園となり、高層の高崎市役所がそびえ立つ。最上階から展望していると、思い出したのが3代将軍で兄の徳川家光に高崎城に幽閉され、自刃に追い込まれた弟・忠長(2代将軍秀忠の第3子)のこと。

 才気は家光に勝るといわれた忠長は若くして甲斐、信濃、駿河、遠江55万石を領する大名(駿河大納言)となったが、父・秀忠の死後、家光から乱行をあげつらわれ、時の城主・安藤氏の助命嘆願にもかかわらず、38歳の短い一生を閉じた。

 自刃したと伝わる部屋があるのが長松寺。五輪塔の忠長の墓があるのは駅近くの大信寺。時代の底にひそかに押し込められた史実を思い描くと、高崎の街が歴史の中でうっすら色を帯びて浮かんでくるようだった。

 旧中山道の雰囲気を探して歩いた後、“パスタの街・高崎”の謳い文句にひかれ、地元の人に連れて行かれたボンジョルノ本店(027・362・7722)で、“キングオブパスタ2009”の大会でグランプリに輝いた「ハーブ豚のカッチャロジョーネ」を賞味。驚くほどの大盛りで、とろとろの豚肉と濃いトマトベースのソースがほどよい歯応えのパスタにからんだパンチの利いた美味だった。普通のパスタの1.5倍以上はありそうたが、高崎では当たり前のボリュームだそうだ。

 高崎はまた“スイーツの街”。横山製菓の「栗甘納糖・初霜風情」や七冨久の「鉢の木」、全国人気のガトーフェスタハラダのラスク「グーテ・デ・ロワ」など数多くある。なかで行列ができ、売り切れご免の「ちごもち」が評判という御菓子司・微笑庵(027・343・3026)に足をのばした。

 苺の紅色が薄い羽二重餅からほの見えるいちご大福だが、繊細で軟らかな餅皮の中からほとばしる苺のみずみずしい甘さと香りはうっとりする美味しさ。人気振りが納得できた。群馬県指定品種の「やよいひめ」の大粒高糖度の極上品だけを使用していて、「基準以上の苺が手に入らない時は製造しません」と心意気を語る店主の宮澤啓さん。5月までの期間限定発売である。

 そういえば群馬は全国4位の小麦生産県で、古くからうどん、おっきりこみ、饅頭、パンなど粉食文化の地。パスタもお菓子もそんな風土から生まれたのである。

〈交通〉
・JR上越新幹線・高崎線高崎駅下車
〈問合せ〉
・高崎観光協会☎027・330・5333
・高崎市役所☎027・321・1111
 
三重県■芭蕉と忍者のふるさとの城下町・伊賀上野


上野市駅前に立つ旅姿の松尾芭蕉の像

仕掛けに感心する茅葺屋根の忍者屋敷

芭蕉の旅姿をモチーフにした俳聖殿

復興して80年になる上野城の天守閣

天神祭など市民に親しまれる上野天満宮

紅梅屋の風雅な干菓子の「さまざま桜」
 関西本線伊賀上野駅から伊賀鉄道の派手なラッピング電車で上野に向かった。天守閣が見えるとほどなく上野市駅。駅前広場に旅姿の芭蕉の銅像が立っていた。

 ここ上野は俳聖・松尾芭蕉の生まれ故郷。藤堂藩の城下町、伊賀流忍者のふるさとでもおなじみで、この3つの“町の顔”が集まるのが駅北側の小高い台地の上野公園。坂道を上った右手には直筆や拓本など資料を展示する高床式の芭蕉翁記念館。坂の正面には伊賀流忍者博物館。下忍の居宅を移した茅葺の忍者屋敷や忍術体験館では実演もあって人気の観光スポットになっていた。

 左手に丸屋根の奇妙な形の建物が見えるのは、笠と蓑の芭蕉の旅姿をかたどったという俳聖殿で、中には芭蕉翁が祭られ、10月12日の命日には芭蕉祭が催される。

 ここから木立の道を2~3分で抜けると市街を見下ろす高台に白亜の上野城天守閣がある。江戸時代初期、築城の名手・藤堂高虎が大改修した5層の天守閣だが、完成寸前の暴風雨で壮大な石垣と堀を残して倒壊。その幻の名城を昭和10年に地元の代議士が私財を投げ打ち、木造にこだわり復興したのが今見る天守閣である。

 駅前に戻ってレンタサイクルで町巡り。「ふるさとや臍(ほぞ)の緒に泣く年の暮」の句碑の立つ格子造りの町家の芭蕉翁生家に立ち寄り、土間を抜けた裏庭に建つ書斎「釣月軒」に芭蕉の青年時代をしのんだ。

 生家近くの愛染院では遺髪を納めた芭蕉翁故郷塚で旅に生き、旅に死んで、遺言で大津・義仲寺に眠る芭蕉の人生に思いを馳せた。

 広小路駅界隈には伊賀牛料理のすき焼金谷(0595・21・0105)などの食事処や菓子舗、西には絢爛豪華な山車でおなじみの天神祭の上野天満宮(菅原神社)がある。その門前にある大きな構えの菓子店・紅梅屋(0595・21・0028)の女将さんに勧められたのは、「さまざまなこと思い出す桜かな」の芭蕉の句に因む俳風銘菓「さまざま桜」。香ばしい焼き寒梅粉に山芋と砂糖を加えた上品で可憐な干菓子である。

 白土塀の続く寺町を抜け、茅町駅の西にある芭蕉お気に入りの服部土芳の庵の蓑虫庵に立ち寄る。軒の低い町家や蔵のある中之立町や西之立町通りをさまよいながら、趣ある町家にしばしば足を止めた。城下町の町割りや町名が今もひっそり残る懐かしさを感じさせる町である。

〈交通〉
・JR関西本線伊賀上野駅から伊賀鉄道で7分、上野市駅下車、または近鉄伊賀神戸駅からは約25分
〈問合せ〉
・伊賀市役所観光戦略課☎0595・22・9670
・伊賀上野観光インフォメーションセンター☎0595・26・7788
(伊賀上野観光協会)
 
銘菓通TVチャンピオンの絶品!旅の手みやげ|第2回☆チョコレート菓子
 

 2月14日はバレンタインデー。日本では女性から男性へ愛を告白する日として、40年ほど前から製菓会社や菓子店の喧伝によってチョコレートを贈る風習が始まったという。今ではその日が近づくと、ケーキ店やデパートなどで日本や世界各国のチョコレートがこんなにもあるのかと思うほど並び、若い女性を中心に高価なものをはじめ大小さまざまなチョコレートを、群がって買い込む姿が見られる。

 当日渡すのが筋なので今年は日曜日に当たり、勤め先や仕事先の上司や同僚への“義理チョコ”は減るだろう。店では“本命チョコ”は高級化し、女性同士の“友チョコ”、贈るあてない人の“自己チョコ”も増えているので心配はないという。

 「心あてのバレンタインはこともなく」。罪つくりな日でもある。

 チョコレート好きは圧倒的に女性。モテる男はうれしさも半ば、モテあますのが実情。他の女性に上げるのもイヤみだし、妻帯者なら妻や娘への“流しチョコ”になる。

 そこで男性としては丸ごとチョコよりチョコを使ったケーキやクッキーが実はうれしい。そんな思いにぴったりの取り寄せしたい菓子がある。


雪やこんこ
六花亭☎0120・012・666



厚さ4ミリのココアバターの芳醇なホワイトチョコをブラックココア入りビスケットでサンド。サクッとした歯応えとチョコの風味が絶品。8枚入り690円。
シャルロット・オ・ショコラ
パティスリーイチリュウ☎092・562・8686

カカオ純度の高いクーベルチュールに生クリームだけを混ぜたチョコをチョコスポンジ生地で巻いて焼き上げたもの。甘 さと香りにうっとり。1棹M1296円。
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。