風土47
今月の旅・見出し
 
 
静岡県■日本一の大吊橋で沸く湧水と歴史の町・三島


開通まもない三島大吊橋と富士山の眺め

昔から三島の名所で知られる三嶋大社

境内の茶店で食べた名物餅の「福太郎」

清冽で豊富な水が街中を流れる源兵衛川

行列絶えない人気店の桜家のウナギ料理
 初夢に見ると縁起がよいとされる「一富士二鷹三茄子」は江戸時代に生まれた故事で、徳川家康の好んだ駿河(静岡県)の風物など諸説があるが、筆頭の富士山は静岡、山梨はもちろん古来日本の宝物。世界遺産に登録前からも外国人に人気絶大の日本のランドマークである。

 その富士山を歩きつつ見られる「三島大吊橋」(通称三島スカイウオーク)が三島駅の北東に12月14日にオープンした。歩行者専用吊り橋としては日本一長い400メートル。片道5分ほどかかる。晴れれば富士山も駿河湾も望める雄大な景観がウリである。地元企業フジコーが地域の活性化にと3年半、約40億円をかけて造った。

 渡ってみると、格別な仕掛けはなく、渡橋料1000円はちょっと高いが、天気と季節を選べば絶景は間違いなし。オープン間もないとはいえ平日なのに人出の多さにびっくりした。たもとに展望台、カフェ、地元の名産・特産品の販売所など楽しみもあるので、三島の新名所になるだろう。

 名所といえば三島は鎌倉時代以来、伊豆国一宮の三嶋大社の門前町。市街に戻って樹木茂る広い境内に総ケヤキの堂々たる権現造りの社殿に参拝。以前気付かなかったが軒まわりに施したみごとな彫刻に目を奪われた。境内の茶店で食べた小豆餡で半分くるんだ福太郎本舗(055・981・2900)のヨモギ餅「福太郎」は1皿2個、お茶付き200円。安さと美味しさがうれしかった。

 ご存じのように三島は江戸時代は東海道の宿場町。その歴史をしのばせるのは樋口本陣の正門を移築した圓明寺山門や本陣跡の石碑くらいだが、市街を南北に流れる清冽な源兵衛川、御殿川、蓮沼川、桜川や白滝公園、楽寿園(小浜池)など富士山の伏流水が街中にあふれて、心地よい町歩きが楽しめた。

 その伏流水でさらすことで生臭さや泥臭さ、余分な脂肪分が取れることから三島はウナギの町として名高く、10軒余の専門店がしのぎを削っている。なかでも開店前から行列ができる人気店の広小路の桜家(055・975・4520)で1時間ほど待ってありついた備長炭で丹念に焼き上げた焦げ目も食欲をそそる蒲焼は、さらりとしながらコクのある家伝のタレがからんで納得の美味だった。

 ほかに三島は箱根西麓の肥沃な土と気候に恵まれ、ダイコン、ジャガイモ、サツマイモなど根もの野菜など三島野菜で知られる土地。「箱根たくあん漬け」やジャガイモを使った「みしまコロッケ」も名物だと聞いた。

 三島は歩けば歴史や景勝、美味や湧水に魅せられる町である。

〈交通〉
・東海道新幹線、東海道本線三島駅下車
〈問合せ〉
・三島市観光協会☎055・971・5000
・三島市商工観光課☎055・983・2656
 
山口県■清流錦川にかかる錦帯橋が誇りの旧城下町・岩国


堅固で美的感覚に優れた岩国の宝・錦帯橋

城下町の名残を宿す旧香川家の長屋門

手で持つこともできる縁起のいいシロヘビ

岩国国際観光ホテルの岩国寿司料理

酒井酒造の代表銘柄の本醸造酒「五橋」

宇野千代顕彰碑。生家は錦川沿いにある
 県の最東端、広島県に接する岩国はかつて吉川(きっかわ)氏6万石の城下町。その歴史にも増して名高いのが岩国駅西方を流れる錦川にかかる弓なりの曲線を描く5連の木橋、錦帯橋(きんたいきょう)だ。

 昨年11月岩国駅に降り立って、迷わず目指したのが日本三名橋のこの橋で、歴史、文化、風物も周辺に集まっている。料金所(往復300円)で貰ったパンフレットによると、1673年(延宝元年)、3代藩主吉川広嘉公が増水で流されない橋を願って、中国・杭州西湖の橋などをヒントに築城技術と組木工法を結集して完成させた。その時の橋は8ヶ月後の洪水で流失するが、新たな工夫を加えた2代目は昭和25年の台風被害に遭うまでの276年間、風雨に耐え抜いて文化財としての価値も備えた。

 現存の橋は平成16年に伝来の工法・技法による架け替えで美しく堅牢によみがえったものだが、以前通り、中央部の3連の太鼓橋には下から支える橋柱が1本もなく、たくさんの人が歩いても重力により強度が増すという構造力学にかなった優れモノ。

 上り下りはわりあい急で、視点の高低によって行き交う人や風景が異なる感覚を味わう。そして昔の大工さんの英知の深さに敬服する。錦帯橋は小説『おはん』の作者で岩国生まれの宇野千代が「日本一」と誇った橋である。

 標高200メートルの山上には一国一城令で取り壊された岩国城を再建した天守閣がそびえ立つ。霞の上に現われる姿は今はやりの“天空の城”と注目されている。

 橋を渡ると藩主の居館と上級・中級武士の屋敷があった場所で、藩祖吉川広嘉公像をはじめ芝生、花壇、噴水、木立からなる吉香公園になっていた。重臣・香川家長屋門や中級武士・目加田家住宅などに城下町の面影がしのばれた。岩国だけに生息する天然記念物の白蛇観覧所は改装中だが仮設の場所で見学、手でも触れられた。

 引き返して、藩主吉川公に献上して喜ばれたことから「殿様寿司」とも呼ばれる名物「岩国寿司」を昼食にとった。ご飯が3升から1斗くらい入る大きな木枠に寿司飯とサワラ、アジなどのほぐし身やレンコン、タケノコ、シイタケなど季節の具材をサンドイッチのように何層も重ねた豪快な押し寿司で、350年ほど続く郷土料理だ。

 1人前を切り分け、具材たっぷりの汁椀の大平(おおひら)をすすりながら食べたのは錦帯橋のそばの岩国国際観光ホテル(0827・43・1111)。市内の旅館・ホテルや飲食店でもたいてい食べられるが、それぞれ味わいに微妙な特徴があるという。

 超軟水といわれる清流錦川周辺の水を使った酒井酒造(0827・21・2177)の「五橋」などの地酒も独特のまろやかな口当たりの美酒だった。

〈交通〉
・山陽本線岩国駅下車、または山陽新幹線新岩国駅下車
〈問合せ〉
・岩国市観光振興課☎0827・29・5116
・岩国市観光協会☎0827・41・2037
 
銘菓通TVチャンピオンの絶品!旅の手みやげ
 

 湯煙白く、湯の熱さひときわ恋しい冬の旅は温泉に限る。それも5~6軒の宿が集まる温泉場には温泉饅頭がある。温泉で蒸すわけでも、温泉水を生地に練り込むわけでもないのに包みや皮の♨マークを見ると、なんだかほかほか、美味しく思えるから不思議だ。実際、味に大きなハズレはない。

 通常、饅頭の皮は白と祝い用に薄紅の2種類だが、温泉饅頭はなぜか茶色。その色になった発祥地といわれるのが群馬県の伊香保温泉。名物に鉄分の多い茶褐色の湯の色に似せた黒糖を入れた饅頭を「湯乃花饅頭」の名で発売した。

 旨さもあったが、昭和9年群馬での陸軍特別大演習にお成りの昭和天皇が大量に買い上げ兵隊に配ったことから、この色の饅頭が大きく広まったという。

 発祥地の伊香保温泉には明治43年に創製店の勝月堂など9店が「湯の花饅頭」の名で共存共栄。群馬の名湯の草津温泉も元祖を謳う大正3年創業の満充軒さいふ屋ほか7店ほどの温泉饅頭の激戦地だ。

 出来たてのアツアツはサイコーなので、1~2個バラ買いして店内や温泉街を歩きながら試食してから買うのがおすすめである。


湯乃花饅頭
勝月堂☎0279・72・2121

石段街上部。しっとりと甘いこしあんともちっとした皮とのからみ合う食感にうっとり。手づくり作業が外から見える。1個80円~。
元祖温泉まんじゅう
満充軒さいふ屋☎0279・88・2141

草津・湯畑近く。ふっくらした皮と心地よい舌触りのつぶあんとの味わいバツグン。昼前に売り切れが多い人気饅頭。1個80円~。
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。