風土47
今月の旅・見出し


3月中旬まで見ごろの梅の名所・偕楽園
 「弥生」は陰暦3月の異称だが、今日では「弥生3月」のように新暦3月に違和感なく使われている。弥生は「いやおい」と読み、「草木が弥々(いよいよ)生い茂る月」の意味で、それが季節の実感に重なるからだろう。

 終業式、修了式、卒業式などと、それらに伴う別れの季節で、惜別の思いに浸っているとやがて4月。新しいモノ、ヒト、コトの出会いが始まる月である。

 3月は雛祭り。各地の旧家など各家庭で仕舞われていた雛人形が店先や公共の施設などで展示され、観光客を呼ぶ仕掛けとなってもう20数年になるだろうか? 旧城下町をはじめ商家や旧家が残る町ではすでに春の風物詩として定着している。

 各地の庭園や公園、民家の庭に梅が咲き匂う。「梅一輪一輪ほどの暖かさ」 嵐雪

〈問合せ〉
・偕楽園公園センター☎029・244・5454

石川県■北陸新幹線開業で雅に華やぎ増す百万石の城下町・金沢


色調も雅な北陸新幹線新型車両E7系

金沢駅東口で迎えられるゲートの鼓門

四十萬谷本舗の「能登いか野菜づめ」と、通年販売の逸味潮屋の「鰤のたたき」

百万石の城下を治めた金沢城跡

四季に趣を変える名園の兼六園

人気の銘菓の中田屋の「きんつば」と、羊羹を落雁ではさんだ諸江屋の「加賀宝生」

中心街にある庶民の台所の近江町市場
 3月14日の北陸新幹線開業間近の金沢駅。試乗会で行ってみると、駅の複合商業施設の百番街では金沢の土産物店は準備万端。混雑しない開業前にという観光客で結構賑わっていた。乗車したのは東京発、上野、大宮、長野、富山、金沢停車となる速達タイプの「かがやき」である。

 車両はグランクラス1両とグリーン車1両に普通車10両の12両連結。長野~金沢間は約4割がトンネルだが、糸魚川から黒部、富山あたりは車窓に雪の立山連峰や紺碧の日本海が眺められた。最高時速は260キロで、東京から富山へは2時間8分、金沢へは2時間28分。これまでの上越新幹線・北陸本線経由(約4時間)に比べると、金沢はなんとも近くなる。

 ご存じのように金沢は約290年にわたり加賀、能登、越中3国を治めた前田藩百万石の城下町。犀川と浅野川にはさまれた小立野台地の一角に造られた日本三名園の1つの兼六園や金沢城跡をシンボルに、ビルの進出の中に城下町特有の路地や丁字路、袋小路が残り、本瓦葺、紅殻格子の商家、料亭や土塀をめぐらす武家屋敷や寺社などしっとりした町並みにそこここで出合う。とくに印象深いのは艶めきが今も漂う主計(かずえ)町、ひがし、にしの三茶屋街や土塀が連なる長町武家屋敷跡である。

 徳川幕府の牽制や雪国の厳しい自然に耐えながら育まれた加賀友禅や九谷焼、加賀金箔、加賀象嵌などのみごとな伝統工芸、茶の湯の発達とともに育まれた風雅な和菓子の数々。近江町市場に集まる甘エビや加能ガ二(ズワイガ二)などの海産物や加賀野菜、加賀麩など食材にも恵まれている。金沢の魅力は町並み、歴史、文化、工芸、味覚など多彩で多様、奥深さにある。

 おみやげにおすすめは四十萬谷本舗(0120・41・4173)の「金城かぶら寿し」「能登いか野菜づめ」、佃の佃煮(076・262・0003)の「ごり」や「くるみ煮」などの佃煮。逸味潮屋(076・240・7577)の「鰤のたたき」など。

 お菓子では中田屋(076・252・1048)の「きんつば」や坂尾甘露堂(076・262・4371)の最中「加賀さま」、落雁諸江屋(076・241・2854)の「加賀宝生」など枚挙に暇ない。

 市内観光の足に「城下まち金沢周遊バス」「兼六園シャトルバス」「金沢ふらっとバス」「まちバス」など(1回100円~200円・1日券500円など)が便利だ。

〈交通〉
・北陸本線金沢駅下車
〈問合せ〉
・金沢市観光交流課☎076・220・2194
・金沢市観光協会☎076・232・5555

長崎県■花と光の王国・ハウステンボスから海風の街・佐世保へ


最初に目につく風車とチューリップ

イルミネーションに彩られる「光の王国」

水中からも光を放つ中を船が行く運河

長崎のソウルフードの「トルコライス」

海を前に新旧の建物が混じる佐世保の街

防空壕を活用した食料品街のとんねる横丁

ログキット本店で食べた「佐世保バーガー」
 大村湾に臨んで中世オランダの街並みを再現した滞在型のテーマパークでおなじみの「ハウステンボス」(1DAYパスポート大人6200円・中・高校生5200円・4歳~小学生3900円・65歳~5700円。17時~入場の光の国パスポート大人4200円ほか)に久し振りに行ってきた。オープン当時はもちろん、その後2度訪れたが、ここ数年はご無沙汰続き。「ずいぶん変わりました」の声に誘われてつい先日、長崎空港からバスで直行した。

 ウェルカムゲートを入ると広大な敷地に、以前に変わらずレンガ造りの建物が立ち並び、シンボルの風車が回るフラワーロードは折しも色、形とりどり、700品種に及ぶチューリップの花の季節。4月13日まで「チューリップ祭」(4月13日まで)が開催中だった。

 同じ期間、1100万球を超えるイルミネーションによる「光の王国」も催され、アートガーデン、水中から光と噴水を放つ運河、3Dマッピングのスリラーシティ、長い華麗で光のパレードなど闇を欺く光の海に漂う感じだった。

 さまざまなイベントやアトラクション、ショー、グルメなどなど昼も夜もここは日常を忘れしまいそうな夢幻の国である。

 ハウステンボスから久し振りに佐世保の街へ足をのばした。米海軍や自衛隊の基地で知られるが、海景美の西海国立公園探勝の基地でもある。

 降りた佐世保駅は北緯135度43分、JR日本最西端の駅で、すぐ西側には佐世保港があり、クルージングすれば船上から海上自衛隊や米海軍の基地や停泊の護衛艦などが眺められ、造船の町が実感できる。

 繁華街には1キロ続く日本一の長さという四ヶ町アーケードが貫き、近くの市民の台所の戸尾商店街や防空壕跡を利用した飲食店街のとんねる横丁には庶民の暮らしと戦後日本の匂いがあった。市内には名物の佐世保バーガーの店が二十数軒以上。なかでも人気店の1つのログキット本店(0956・24・5034)で、ランチにビーフ100%のパティと肉厚ベーコン、レタス、トマトがたっぷりの「佐世保バーガー」を食べた。

 そういえばハウステンボスで前日食べたピラフにトンカツ、ナポリタンスパゲッティを一皿に盛り合わせた「トルコライス」も長崎名物だ。

 九十九島遊覧は駅からバスで25分ほどの九十九島パールシーリゾートから。海景を遠望するなら弓張岳展望台や長串山公園などから。生憎の小雨で諦めたが、晴れた日なら紺碧の波穏やかな海に200余が浮かぶ緑の島々の眺めは、日没とともに感動的な美しさという。またの訪れをそそられる町だった。

〈交通〉
・長崎空港からバス、または高速船で約50分
・長崎駅からJR大村線で約1時間30分、ハウステンボス駅下車、徒歩5分
〈問合せ〉
・ハウステンボス総合案内ナビダイヤル☎0570・064・110
・佐世保観光コンベンション協会☎0956・23・3369

*写真提供(佐世保の街、とんねる横丁)=佐世保観光コンベンション協会


中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。