風土47
今月の旅・見出し


松江の冬の風物詩・津田かぶの天日干し風景
 今年も余日わずかとなりました。師走色の町はお歳暮やクリスマス商戦の色と光と音に染まっています。

 北国では既に冬ですが、南国でも漬物用の大根や蕪の吊るし干し風景が冬の風物詩を謳っています。

 東京の全国各地のアンテナショップではふるさとの味の漬物や煉り物をはじめ年末年始向けの食べ物が郷愁を誘っています。

 喪中ハガキの受け取りと新年の年賀状書き……12月は人生の無情有情をことさら想わせられる月ではないでしょうか? 多忙の隙間に温泉旅もいいものです。

にっぽん・お菓子紀行~旅で出合った名菓・珍菓~八雲小倉/出雲三昧(島根県松江市)

風月堂の「八雲小倉」
桂月堂の「出雲三昧」
 宍道湖のほとり、黒い下見板張りの往時の天守閣を見せる松江は、松平氏18万6千石の城下町。なかでも中興の祖と呼ばれた7代藩主の治郷は不昧(ふまい)と名乗る茶人でした。その影響で松江は茶の湯が盛んで、多くの銘菓が生まれました。緑の寒梅粉をかけた求肥の「若草」やふんわりしっとりの落雁の「山川」は不昧公好みの茶菓ですが、松江大橋の周辺には数多くの老舗の和菓子店があります。

 なかでもおすすめは京橋川沿いの風月堂の「八雲小倉」。よく練った大納言小豆の小倉あんをカステラ生地ではさんだ棹(さお)物で甘さがしっとりで、うっとりするほどの美味しさです。少量生産で正午前の売り切れもしばしばです。 もう1つが天神町で創業200年の桂月堂「出雲三昧」です。落雁と求肥と小豆餡の3層重ねの食感から贅沢な風味が生まれてきます。

・風月堂☎0852・21・3576
・桂月堂本店☎0852・21・2622


北海道■異国情緒の町と北の港町のロマン高鳴る冬の函館


港風景を盛り立てる金森赤レンガ倉庫群

夢幻のような海上クリスマスツリー

朝市のきくよ食堂で人気の3色丼

コクがある函館名物の塩ラーメン

みやげにおすすめのよねやの「松前漬」
 エキゾチック、ロマンチック、ノスタルジック……函館はこんな片仮名のキャッチフレーズが似合う港町です。早くから海外に窓を開いていた港だけに欧米の文物や人が出入りし、教会や領事館、邸宅など多くの洋風建物が建てられ、今も残って異国情緒を漂わせます。

 また海産物や石炭、材木が積み下ろされた明治・大正・昭和の商都としての繁栄は、赤レンガ倉庫群にしのばれます。その一角では毎年12月、カナダから船で運ばれ電飾された巨大なモミの木のクリスマスツリーが海上に出現し、メルヘンチックなクリスマスファンタジー(今年は11月29日~12月25日)が催されています。

 すぐ近くの元町のハリストス正教会やカトリック元町教会、聖ヨハネ教会や洋風建物の旧函館区公会堂もライトアップして催しを盛り立てます。函館山からの夜景がひときわ美しく見えるのも町が雪化粧するこの季節です。

 おなかを満たすなら新鮮素材の海鮮鍋やイカ料理、鮨。とくに「イカソーメン」は半透明でコリコリの函館ならではの味わいです。澄んだスープでコクのある塩味と細めの麺の「函館塩ラーメン」もおすすめです。

 駅前の函館朝市ではウニ、カニ、イカ、イクラなどの海鮮丼。観光スポットを巡るならレトロな路面電車(乗降自由1日乗車券600円)が便利です。エキゾチックな元町界隈や津軽海峡が見える断崖の立待岬、土方歳三らが散った戊辰戦争最後の舞台の五稜郭、海辺の湯の川温泉など電停からはどこも徒歩10分内の距離です。

 五稜郭タワーに上れば。星型の城郭が眼下にくっきり。箱館奉行所は当時の姿に忠実にみごとな再建ぶりでした。

 おみやげなら、カニ、サケ、昆布などの海産物やイカと昆布、カズノコを漬け込んだ「松前漬」、修道院製の「トラピストバター」「トラピストクッキー」。歴史、文化、景観、自然に加えて食べる、買うに事欠かず、ロマンに満ちた函館。来年末の新青森から延伸の北海道新幹線の開業が待たれます。

<交通>
・函館本線函館駅下車
<問合せ>
・函館市観光コンベンション部☎0138・21・3323
・函館国際観光コンベンション協会☎0138・27・3535
・函館山ロープウェイ☎0138・23・3105
・函館朝市協同組合連合会☎0138・22・7981
・五稜郭タワー0138・51・4785

静岡県■城下町の面影と伝統の名産育む掛川と遠州横須賀


木造で復元した掛川城天守閣

深蒸しで知られる名産・掛川茶

掛川の名物料理の1つのとろろ汁

老舗が点在する横須賀の町並み

売り切れ人気の「愛宕下羊羹」
 東海道新幹線が停車する掛川は、江戸時代太田氏5万石の城下町、東海道五十三次の宿場町として栄えた所。安土桃山時代に豊臣秀吉の命で入封した山内一豊が10年の間に「東海の名城」と謳われた城を築き、城下町を整備。城郭は安政の東海大地震で損壊しましたが、市民の熱意と努力によって平成6年に当時のままに木造で再建。20年の歳月が城に風格を添えているようでした。閣上に立つと風景が四周にひらけ、幕末まで使われた掛川城御殿(国重要文化財)が足下に見えます。

 城の入口の逆川沿いの物産センター「こだわりっぱ」では、深蒸しと称する掛川茶をはじめ自然薯、葛布製品などを販売。掛川は全国屈指のお茶処ですが、なかでも代表するのが世界農業遺産指定の茶草場農法で収穫する「東山茶」です。

 合併で掛川市になった市南西端の遠州横須賀も戦国時代末期、徳川家康が家臣に命じて築かせた横須賀城の城下町です。「葵天下」の山中酒造、やなせ提灯店、栄醤油店、栗山製麩店など老舗が点々とする旧街道は趣深い古い町並みでした。

 特筆ものはしっかり練られて歯応え心地よくずしりと重い、コクの深い甘さの手作りの「愛宕下羊羹」(1本700円~)です。小豆、栗、抹茶、白、黒豆の5種があり、合成保存料等の添加物は一切使用していないので賞味期限は10日ほど。午前中に売り切れる人気商品です。他では販売していませんが、取り寄せは可能です。

<交通>
・東海道新幹線・東海道本線掛川駅下車。横須賀へは東海道本線袋井駅からバスで30分
<問合せ>
・掛川観光協会☎0537・21・1149
・掛川南部観光案内処(遠州横須賀倶楽部)☎0537・48・0190
・掛川城管理事務所☎0537・22・1146
・東山いっぷく処☎0537・27・2266
・栄醤油店☎0537・48・2114
・愛宕下羊羹店☎0537・48・2296

中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事