風土47
今月の旅・見出し


長野県市田柿発祥の里・高森町の
晩秋の風物詩の柿すだれ
 南北に長く、高低差のある地形の日本列島の11月は、場所によって季節は晩秋と初冬にくっきり分かれます。南国や平野部ではこれからが紅葉の盛り、北国や山岳地帯では木枯らしが吹いて雪に見舞われる頃です。

 だから陽射しを浴びて渋みを抜き、中から自然な甘みが浮き出す吊るし柿や架木、軒下などの大根干しの光景は秋と冬のはざまの風物詩。この季節の天日と寒風は果物や野菜、穀物の旨みを引き立てる名調理人といえそうです。

 出張先や旅先の服装に迷う11月ですが、紅葉、味覚、温泉など旅には豊かで美味しい季節ではないでしょうか。

にっぽん・お菓子紀行~旅で出合った名菓・珍菓~雪やこんこ/三方六(北海道帯広市)

サクッと香ばしい「雪やこんこ」
しっとりふっくらの「三方六」
 十勝平野の中心都市の帯広。その周辺の十勝平野は小麦、ジャガイモ、小豆、大豆、ビート(砂糖大根)などの名産地です。酪農も盛んで良質な牛乳、バター、チーズなど乳製品にも定評があります。これらを素材に帯広では洋風、和風の菓子が数多く作られています。

 その名を高からしめたのが、「ホワイトチョコレート」や「マルセイバターサンド」のヒット商品でおなじみの六花亭です。同店が8年ほど前に発売した、板状の黒いビスケットでホワイトチョコをサンドした「雪やこんこ」(8枚入り690円)もまた評判です。サクッとした歯切れのあとにカツっと歯に当たる芳醇な甘さのチョコが口中で美味しく溶け合います。ビスケットに開けた穴からのぞく白いチョコは夜空に舞う雪のようで、メルヘンチックです。

 柳月が46年前に発売したホワイトチョコを外側にかけたバウムクーヘンの「三方六」(さんぽうろく・1本571円)も北海道を代表する人気菓子で、卵、バターをたっぷり使ってしっとり焼き上げた小麦粉生地と、白樺の木肌そっくりにコーティングしたチョコとがフイットしてふくいくとした味わいで舌を満たしてくれます。

 ショートケーキが200円ほどで食べられる帯広はまさに「お菓子の町」なのです。

・六花亭本店☎0120・12・6666
・柳月スィートピアガーデン店☎0155・32・3366


滋賀県■大津で延暦寺、三井寺、西教寺の三総本山巡り


延暦寺の中心、根本中堂

「延暦寺会館」の精進料理

三井寺からの琵琶湖の眺め

弁慶に因む三井寺力餅(5本540円)

鉦の音絶えない西教寺本堂
 琵琶湖の南西畔を占める大津は古くからの交通の要衝。飛鳥から遷都した大津京や最澄が天台宗をひらいた比叡山、湖上交通の港町や東海道の宿場町など永く歴史に彩られた町です。

 折しも慈覚大師円仁千五百年遠忌で、円仁が建立した法華総持院東塔の特別拝観中のこともあって、久し振りに比叡山延暦寺を訪れました。

 アプローチは坂本から日本一長い坂本ケーブル(約2キロ・11分・片道860円)。上り始めてまもなく眼下にみるみる琵琶湖がひらけ、草木も色づきを増してケーブル延暦寺駅に到着。ひんやりした空気に標高差を体感しました。

 延暦寺は東塔、西塔、横川の3地区の峰や谷に堂塔伽藍が100余りからなる広大な聖地の総称で、1200余年前、最澄が開創した天台宗の総本山です。

 とともに法然(浄土宗)、栄西(臨済宗)、道元(曹洞宗)、親鸞(浄土真宗)、日蓮(日蓮宗)らそうそうたる開祖が学んだ誇るべき「日本仏教の母山」です。世界文化遺産にも登録され、世界宗教者会議の会場にもなりました。

 織田信長の焼き討ちで壊滅した一山は豊臣秀吉や徳川家康らによって復興したことはよく知られた話です。

 一山の中心は回廊をめぐらす入母屋造り、銅板葺きの大伽藍に本尊の薬師如来や諸仏を安置する根本中堂。ほの暗い中に1200年、「不滅の法灯」が揺らめいていました。

 公開中の法華経、般若心経等を納めた法華総持院東塔は胎蔵界の大日如来をはじめ五体の仏像、極彩色の壁画で飾られた明るい世界でした。

 泊まりは根本中堂近くの6階建ての快適な「延暦寺会館」。運よく琵琶湖畔の夜景も日の出も眺められました。朝夕はもちろん彩りよくヘルシーな精進料理でした。

 比叡山の麓には延暦寺から分かれた天台寺門宗三井寺(園城寺)と天台宗真盛宗西教寺の2つの総本山があります。延暦寺で学んだ円珍(智証大師)を宗祖とする三井寺は、総本山内部での対立で興した寺門派の拠点です。

 比叡山で修行した真盛上人が再興した西教寺も広大な寺域に多くの堂坊、文化財を有する寺で、全国に多くの末寺を有しております。

 滋賀県や大津市では“日本天台三総本山”と銘打ち、この秋、特別拝観を含めて三山めぐりを呼び掛けています。10月1日(水)~12月7日(日)の期間中、連絡バス(1日フリー乗車券・拝観料割引特典付き・500円)を運行した「びわ湖を望む三山めぐり」のスタンプラリーも展開中です。

 11月上旬~中旬は三総本山は目に染みるような鮮やかな紅葉に彩られます。

<交通>
・東海道本線大津駅下車、または京阪石山坂本線三井寺駅、坂本駅下車
<問合せ>
・びわこビジターズビューロー広報宣伝部☎077・511・1530
・びわ湖大津観光協会☎077・528・2772
・比叡山延暦寺☎077・578・0001
・三井寺☎077・522・2238
・西教寺☎077・578・0013

島根県■断崖に縁取られた絶景と美味と人情の島・隠岐


国重要文化財の水若酢神社

島後のローソク島の夕映え

海鮮いっぱいの島の宿の夕食

断崖と海の景勝・国賀海岸

壮絶な断層崖の知夫赤壁
 わたの原 八十島かけて漕ぎ出でぬと
 人には告げよ 海士のつり舟

 百人一首にもある平安時代の歌人・小野篁(たかむら)が配流の船の中でこう詠んだ隠岐は、島根半島の北約40キロの日本海に浮かぶ流人で知られる島です。

 隠岐とは本土に近い中ノ島、西ノ島、知夫里島の3島をくくった島前(どうぜん)とその北西の島後(どうご)の総称です。

 航路と空路がある島の玄関口・西郷に飛行機で着くと、知人が車でまず案内してくれたのが隠岐国総社の重厚な社殿を構える玉若酢神社とその社の宮司を代々務める億岐家住宅・宝物館。隠岐に流された後醍醐天皇の行在所跡といわれる隠岐国分寺に寄って、隠岐一宮の水若酢神社に参拝。隣接する洋風木造建築の郡役所庁舎を使った隠岐郷土館で考古や郷土芸能、古文書などで隠岐の歴史風土を学びました。

 陽が大きく傾く頃、知人はダジャレ混じりに「とっておきをお見せする」と、西海岸の福浦岸壁へと車を走らせます。港には「ローソク島遊覧コース」(約50分・2200円)の小さな船が待機、10数人の旅行者が屯していました。船着き場は大きく入り組んだ水青く波静かな入り江で、出航してまもなく外洋に出ると、揺れが大きくなって、船長は奇岩怪石、断崖の海岸風景をマイクで解説。陽が水平線に近づく頃、芯を突き出したローソクそっくりの立ち岩に近づきました。

 やがて岩がシルエットになると、船が近くを何度か往き来し、火を灯したように重なる夕陽を見せてくれました。(※ただしローソク島の遊覧船の運航は4月1日~10月31日。今年は終了)。

 翌日渡った西ノ島では奇岩、洞窟、断崖の国賀海岸、知夫里島では赤茶けた断崖と紺碧の海との対比が鮮やかな知夫の赤壁(せきへき)が目に焼き付き、舌にはイカ、サザエ、アワビなどの海の幸、海士町のサザエカレーが記憶に刻まれました。

 隠岐は世界ジオパークに認定された地殻と海の景勝地、郷土芸能と伝説の宝庫、魚介と隠岐牛のグルメ王国……流人哀話もおおらかで明るい、キャッチフレーズで自ら謳う「隠岐楽(おきらく)」な島なのです。

<交通>
・七類港から西郷港まで高速船で1時間10分、出雲空港から隠岐空港まで約30分
 各島へは高速船やフェリーが就航
<問合せ>
・隠岐観光協会☎08512・2・1577
・隠岐の島町観光協会☎08512・2・0787
・西ノ島町観光協会☎08514・7・8888
・海士町観光協会☎08514・2・0101
・知夫里島観光協会08514・8・2272

中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事