風土47
今月の旅・見出し

萩、葛、桔梗、女郎花(オミナエシ)、尾花(オバナ)、撫子(ナデシコ)、藤袴。


秋の気配しのびよるススキの群馬・野反湖畔
 風に涼しさが含まれるようになると、ふと思い浮かぶのが“秋の七草”です。今年は暑さが長いだけに、秋の訪れが待たれます。そういえば先日、群馬・中之条町(旧六合村)の野反湖湖畔で、尾花、つまりススキの銀色の穂を見かけました。

 日照りで水不足が心配されている一方で、集中豪雨などによる大きな災害など天候は例年と異なる現象をもたらしています。

 あるいは地球や宇宙をいじくり回してきた人類への警告かもしれません。だから日頃、自然への敬意と感謝を忘れずにいたいものです。

 ススキから始まり紅葉への秋の足取りの中で、米をはじめリンゴ、ブドウ、クリ、カキなどの野や里の実り、サンマ、イカ、サケ、エビ、アワビなど海の恵みが順次もたらされるありがたい季節。暑くも寒くもなく、風は清涼で、旅にも一番いい季節ではないでしょうか。

 頭を垂れる各地の黄金の稲穂につくづく瑞穂の国、日本を思います。

季節の甘味話■9月 栗菓子


栗菓子で代表的な「栗羊羹」(成田・なごみの米屋)
 9〜10月は栗の季節です。これを使った饅頭、羊羹、最中などは通年売られていますが、種実そのもののゆで栗、焼き栗、栗きんとん、栗かのこなどは旬のお菓子としてこの季節、店内を飾ります。

 なかでも栗そのものをふるいにかけ、砂糖を加えてじっくり炊き上げて茶巾(ちゃきん)で絞った岐阜・中津川の「栗きんとん」や栗餡を練り上げた長野・小布施の「栗かのこ」など、さまざまに工夫した栗菓子が多いのも日本ならではでしょう。栗大好き民族なのかもしれません。

山形県■福島との県境・峠駅と秘湯・五色温泉のロマン


シェルターの中にある峠駅とホーム

「峠の茶屋・最上屋」の5種の餅料理

駅のホームで立ち売りの「峠の力餅」

野趣に富んだ五色温泉「宗川旅館」の露天風呂
 かつて福島から米沢方面へ向かう奥羽本線の列車は奥羽山脈を一気に越えられず、赤岩、板谷、峠、大沢の4駅で折り返し線を使ったスイッチバック方式で急傾斜を克服しました。

 それも平成4年の山形新幹線の開業時に姿を消し、今は特急「つばさ」が停車せずに1日16往復ほど通り過ぎて行きます。以前使われたレールは取り外されたものの、豪雪に備えて駅舎や線路を覆ったスノーシェッドは残り使われています。その中にある標高626メートルの無人駅・峠駅に普通列車(1日約6往復)で降り立ちました。

 驚くことにホームには立ち売り人の姿がありました。明治34年以来、110年余続く、白く柔らかい皮でほどよい甘さの餡を包んだ「峠の力餅」の販売でした。

 鉄道開通前の羽州米沢街道で峠の茶屋を営んでいた先祖(初代)が、駅開設に当たる工事に尽力。その折にふるまった自家の餅の美味しさが大評判となり、のちに駅長の口利きで駅での販売が始まったそうです。先代は小柄ながら大変な“力持ち”であったこと、食べると力が出る意もこめて、“力餅”の名が付けられたとか。

 その製造元の駅前の「峠の茶屋」で、ズンダ、クルミ、あんこ、ゴマ、納豆の5種のつきたての餅とそばを味わいました。

 峠駅は吾妻連峰北登山口であり、秘湯・滑川温泉や姥湯温泉への入口で、宿泊者を迎えの宿の車が待っていました。

 隣の板谷駅から車で10分ほどに五色温泉があります。ここに立ち寄ってひと風呂浴びました。およそ1300年前、役小角(えんのおづの)が発見したという古湯で、一軒宿の「宗川旅館」(日帰り入浴500円)が緑の山あいにポツリと建っていました。

 素朴な内湯の他、少し離れた渓流沿いの露天風呂は無色透明、すべすべの美肌の湯でした。11月初めは紅葉がみごとだそうです。

<問合せ>
・峠の茶屋 ☎ 0238・34・2301
・宗川旅館 ☎ 0238・34・2511

鳥取県■城下町、港町、商都の表情多彩な米子を歩く


河口問屋町の繁栄伝える旧加茂川の蔵群

湊山山上の天守台跡からの大山の雄姿

美味で人気の米吾の駅弁「吾左衛門鮓」

風変わりな菓名の「ふろしきまんじゅう」
 県の西北部、日本海と中海に臨み、大山(だいせん)を間近に望む米子は人口14万8000人の歴史、自然、文化の豊かな活気あふれる商工都市です。

 400年前の城下町に始まり、その位置から陸海交通の要衝にあって物資の集散で大いに栄えました。

 その名残は駅の北方、米子下町、旧加茂川べりに建ち並ぶ白壁土蔵群に見られます。城の外堀として引かれた川には江戸末期~大正期、中海に入った船からの荷を積んだ小舟がひしめきあい、川岸の蔵も物資の出し入れで大忙しでした。なかでも本瓦葺き切妻屋根、土蔵を構えた広壮な廻船問屋の後藤家がその象徴です。湊山にそびえる米子城を守った9カ寺が連なる寺町もしっとりした風情の道です。

 間近の湊山山上には石垣を残す米子城へは徒歩20分ほど。汗をかきかき上り、天守台跡に立つと南東に伯耆(ほうき)富士として親しまれる大山が雄々しく目に映り、眼下には黒瓦屋根を交えたビル街が広がりました。中海、弓ヶ浜も見えて、一帯を治めた城主の壮大な気分にも浸れました。

 この米子で評判なのが、駅弁としても売られる(株)米吾(こめご)の「吾左衛門鮓」(5貫980円)。日本海近海で獲れた肉厚な鯖と鳥取産酢飯を北海道産真昆布で巻いた絶品の昆布巻き寿司です。

 また風変わりな菓名ですが、黒糖入りのしっとり皮とあっさりこしあんが絶妙に美味しい「ふろしきまんじゅう」(8個500円)は手土産にかっこうです.。餡を入れて皮を包む時、風呂敷のように四隅を折り畳むことからの名付けといいます。

 山本おたふく堂は近隣の琴浦町ですが、米子駅や米子空港などでも買えます。

<交通>
・山陰本線米子駅下車
<問合せ>
・米子市観光協会 ☎ 0859・37・2311
・米子市観光案内所 ☎ 0859・22・6317(米子駅内)
・(株)米吾 ☎ 0859・33・2221
・山本おたふく堂 ☎ 0858・53・2345
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。