風土47
今月の旅・見出し


雪国の冬の風物詩の金沢・兼六園の雪吊り

 今年も押し詰まって残り1ヶ月となりました。1年の整理や整頓、締めくくりに忙しい頃です。家にポツポツ届く賀状欠礼の喪中ハガキで知る先輩、知人らの訃報。しみじみと歳月の無常を知らされるこの頃です。

 雪国では庭木などの枝が雪の重みで折れるのを防ぐため、縄や紐などを張って吊り上られる"雪吊り"が見られ、まさしく冬の到来を予感させられます。

 とくに有名なのは金沢・兼六園の数多くの樹木に張られる、芸術的なまでの美しさの雪吊りです。実用的な中にも美的感覚が施されるのは、日本人の誇るべき美学ではないでしょうか。

 町はクリスマス商戦、そして混沌政治の総選挙。今年はいつになくあわただしく騒々しく月日が過ぎて行きそうです。

 湯煙がひときわ白く立ち昇るいで湯に浸かる旅ができるでしょうか?

栃木県■絢爛な人工美と緑の自然美、和と洋も潜む日光


日光山内のシンボル的存在の極彩色の東照宮・陽明門

東照宮造営のはるか昔からある山岳信仰の二荒山神社

人気抜群のニル・バーナのチーズケーキ(明治の館)

多く店や宿で味わえる名物「日光ゆば」(森のホテル)

 何事にも権威のある機関や組織などから授かる「お墨付き」は大きな威力を発揮します。英語では「GUARANTY」ですが、世界で最も力のあるお墨付きは「ノーベル賞」ではないでしょうか?

 

 歴史・文化、自然の分野では「世界遺産登録」の認定がそれに当たるでしょう。すでに価値が認識されて訪れることが多い京都、奈良、宮島、日光など、外国人ならともかく、まるで無知蒙昧の如くどっと押し掛ける姿はどんなものでしょうか?

 けれど観光にとっては大きな切札には違いありません。

 その1つの日光に久し振りに行ってきました。東照宮は言うまでもなく江戸幕府をひらいた徳川家康公を神として祭る宮であり、魂が眠る廟所です。無数の彫刻と極彩色に彩られた絢爛豪華な陽明門は変わらず輝きを放っていました。

 約50年ぶりの大修理中の天台宗の名刹・日光山輪王寺、霊泉と縁結びの山岳信仰の霊場の二荒山(ふたらさん)神社など山内には数多くの歴史遺産があります。

 三代将軍・徳川家光の廟所である大猷院(たいゆういん)は家康公を慮(おもんぱか)ってか、黒と金色を基調にした、極彩色とはほど遠いシックな色使いが特徴です。

 それにしても俗悪とまで評された東照宮のきらびやかさをいささか落ち着かせているのは、山内に茂る杉など巨木の緑の深さではないでしょうか?

 そんな日光山内の旅で、つい癖になって立ち寄るのが、アメリカ人貿易商の別荘を洋館を活用した西洋料理「明治の館」。オムライスやハヤシライス、ロールキャベツなどいわゆる日本的洋食が味わえます。同店のチーズケーキもバツグンの美味しさです。

 山岳信仰の日本的な霊地の日光はまた、高原性気候から外国人の避暑・別荘地としてもひらけました。羊羹とチーズケーキに象徴されるように和と洋が混在している町なのでした。

 交通は東武日光線東武日光駅、またはJR日光線日光駅下車、バスまたは徒歩。

<問合せ>
・日光観光協会 ☎0288・22・2496
・西洋料理 明治の館 ☎0288・53・3751

鹿児島県■幕末・維新の歴史の燃える思いを象徴する桜島


「まち巡りバス」はあっちゃん号(篤姫)とせごどん号(西郷どん)がある

レトロ&モダンなしゃれた車体のバスの「カゴシマシティービュー」

城山展望台から間近に見える大きくどっしりした桜島

ブランドショップには黒豚、薩摩揚げなど名品がいろいろ

 九州新幹線の全通から1年9ヶ月。博多~鹿児島中央間を初めて「特急さくら」で乗り通してきました。

 降り立った鹿児島中央駅はモダンで明るい建物。隣接してファッション、グルメ、ショップが200店集積したアミュプラザ鹿児島には若い男女が行き交い、都市的活気があふれていました。

 そのすぐ前にあるバス乗り場からは「まち巡りバス」と「カゴシマシティビュー」の2種類の市内巡回バスがあります。

 飛び乗った「まち巡りバス」(乗車1回160円・1日乗車券500円)はほぼ20分毎に発車。コースはザビエル公園前→西郷銅像前→西郷洞窟前→城山→薩摩義士碑前→南洲公園入口→異人館前→仙巌園前→磯海水浴場前→石橋記念公園前→かごしま水族館→鹿児島ブランドショップ前→天文館→維新ふるさと館前→鹿児島中央駅などを巡回。

 もう1つの「シティビュー」(1日乗車券600円)には上記とほぼ同じの"城山・磯コース"のほか、"ウォーターフロントコース"、"夜景コース"がありました。

 どちらも一回り約1時間で市内の主要観光名所を結んでいて、大変便利でエコノミーです。訪ね回る名所のそこここには幕末・維新の折、西郷隆盛、大久保利通ら多くの英傑の燃えるような思いが聞こえてくるようでした。

 ハイライトの1つの城山で下車して、城山展望台から市街地と海の向こうに大きく、どっしりそびえる桜島が正面に見えました。

 名物は黒豚、焼酎、薩摩揚げ、鹿児島ラーメンなど多種多彩です。

交通は九州新幹線鹿児島中央駅下車。

<問合せ>
・鹿児島中央駅総合観光案内所 ☎099・253・2500
・観光交流センター ☎099・298・5111
・いわさきバスネットワーク(まち巡りバス) ☎099・258・0668
・鹿児島市総合案内コールセンター(シティビュー) ☎099・808・3333

銘菓通TVチャンピオンおすすめの今月の菓子…名菓舌鼓(山陰堂・山口市)

日本には正月に備えて年末に餅を搗く風習がある。少家族化などさまざまな理由で地方もすっかり少なくなった。そんな折、おすすめしたいのが、見た目も美しくとろけるような軟らかさの「名菓舌鼓」である。もち米を蒸した透き通るような求肥皮ときめ細かく滑らかな舌ざわりの白餡とが溶け合うほどに調和して、上品な甘さに思わずうっとりしてしまう。
・4個入り830円~
・山口市中古町6-15
・電話083・923・3110

中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。