風土47
今月の旅・見出し


秋風と秋の空に似合いのしなやかなコスモス(北海道・釧路川畔)
 1~3日の越中八尾の「おわら風の盆」を皮切りにして、9月の扉が開きました。

強すぎるほどの存在感のあった太陽も、日毎に日没を早め、せかされるように1日が過ぎて行きます。

 野辺にはその字からいかにも季節を感じさせる「萩」の花。しだれた枝が風にしなやかに揺れるさまにふっと安らぎを覚えます。

 田では米、畑ではイモ、山ではキノコ、木にはクリやリンゴが実を結び、海からはサンマ、川にはサケが帰ってくるなど美味の季節。旅先ではこれらの旬に舌が満たされるでしょう。

 日の暮れの速さを惜しみつつ、心にも実り多い旅に出かけたいものです。

  秋の日の白壁に沿ひ影とゆく 大野林火

青森県■国道339号を龍飛から五所川原へ津軽の旅


ボタンを押すと歌が流れる『津軽海峡冬景色』歌謡碑

国道なのにクルマの通れない唯一?の国道・階段国道

じみ亭の「しじみらーめん定食」。お土産用も多数

太宰が生まれ育った大邸宅の「斜陽館」。今は記念館

5階建ビルをしのぐほどある五所川原の立佞武多
 弘前ねぷた、青森ねぶたなど夏まつりの8月が過ぎて、みちのく各地は実りの季節を迎えています。9月の声を聞くと、朝夕涼しくなりますが、今年は全国的な猛暑で、先日訪ねた津軽半島も蒸し蒸しする暑い日続きでした。

 青森から龍飛崎への途中、建設工事中の北海道新幹線が見えました。

 半島先端を訪れると、「龍飛」の名をいっそう広めたヒット曲『津軽海峡冬景色』の歌謡碑がありました。ボタンを押すと石川さゆりの歌声で「♪ご覧あれが龍飛岬~」の2番から鳴り出します。碑の前で一緒に歌う人も少なくありません。

 歌詞では「龍飛岬(たっぴみさき)」ですが、正式には「龍飛崎(たっぴざき)。ここは連絡船の窓から「かすみ見えるだけ」としか登場しないのに、歌の舞台として多くの観光客を引き寄せる立派なご当地ソングになっているのには驚きました。

 高台だけに津軽海峡や周辺の眺めは絶好。湿気の多い季節のせいか、津軽海峡夏景色は、間近の北海道が「かすみ見えるだけ」でした。

 歌謡碑から少し歩いて漁港へ下る狭い石段道も龍飛崎の名物的存在。津軽半島の中央部を背骨のように南北に貫くレッキとした国道339号線なのです。

 この国道を南下して立ち寄った十三湖(じゅうさんこ)は大粒で味の濃いヤマトシジミの名産地。湖畔の「しじみ亭奈良屋」でラーメン、釜めし、みそ汁、ホワイトソースのチャウダーなどシジミ尽くしの「しじみらーめん定食」をたっぷり賞味しました。じじみ飴、しじみアイスなどいろいろな食べ方があることにも感心しました。

 339号を南下すれば、太宰治のふるさと・生家「斜陽館」のある金木町(かなぎ)、巨大な立佞武多(たちねぶた)で知られる五所川原。太宰の『津軽』の文章となぜか吉幾三の『津軽平野』の歌声が浮かんできたのでした。

 龍飛崎へは蟹田から三厩まで津軽線普通で40分、灯台まではバスで40分。

<問合せ>
・外ヶ浜町三厩支所(龍飛崎)☎0174・37・2001
・しじみ亭奈良屋☎0120・135・443
・太宰治記念館「斜陽館」☎0173・53・2020
・立佞武多の館☎0173・38・3232

大分県■歴史と文学と暮らしのロマン薫る城下町・臼杵


城下町の面影が残るしっとりとした二王座歴史の道

道の途中にある無料休憩所の風雅な空間の旧真光寺

映画を記念して生まれた軽快で淡麗な大吟醸「なごり雪」と大分特産のすっきり甘い「カボスはちみつドリンク」

二王座の道に続くレトロな家並みが甦った八町大路
 大分県南東部、臼杵(うすき)は大友宗麟の築城に始まり、江戸時代は稲葉氏5万石の城下町として栄えた町です。国宝・臼杵石仏で知られる石仏の町でもあります。

 大分からの特急で30分、駅前で巨大な石仏に迎えられ、7~8分も歩くと中心街にそそり立つ岩山の上に臼杵城跡が見えてきます。

 城跡からは展望を楽しみ、5分ほど歩いて書院造りの屋敷をもつ城主・稲葉家下屋敷・旧平井家住宅に立ち寄りました。さらに5分ほど歩くと小説家・野上弥生子の生家(造り酒屋)を改築した文学記念館がありました。

 白壁や土蔵造りのしっとりとした家並みに歴史がしのばれますが、そのイメージを凝縮したのが、市街地続きにある丘を巡る二王座(におうざ)歴史の道です。白壁、黒板壁などの武家屋敷や寺々が軒を連ねる曲がりくねった細い石畳道は、そのまま時間を遡る歴史の道。三代将軍家光の乳母のお福、春日局(かすがのつぼね)が住んだという屋敷跡もありました。

 ここは2002年、近くの津久見町出身の伊勢正三の同名の楽曲をモチーフにした大林宣彦監督の『なごり雪』のロケ地にもなりました。

 臼杵へは日豊本線臼杵駅下車後、徒歩で10~20分。

<問合せ>
・臼杵市産業観光課☎0972・63・1111

銘菓通TVチャンピオンおすすめの今月の菓子…饗(あえ)の山(岩手県岩泉町・中松屋)

 蒸して渋皮をむいた栗を上品な甘さの小豆羊羹で巻いた珍しい棹物。栗はほくほくながらしっとり、羊羹は舌になめらかで、2つの異なる食感が1つになって上品な甘さを醸し出す。龍泉洞の湧き水と熟練の職人の手技がおいしさの秘密。冷たくして8ミリほどの薄さに切って食べると旨さが倍加する。
・1棹 2350円
・岩手県岩泉町岩泉下宿37
・電話0194・22・3225
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。