風土47
今月の旅・見出し


富士山の伏流水あふれる水の町・三島
 暑中お見舞い申し上げます。

 日本列島、猛暑続きの毎日ですが、いかがお過ごしですか?

 海、山、高原、渓谷、そして北国へと涼を求める場所はたくさんありますが、毎日、事故が絶えません。自然のありがたさとともに恐ろしさを、人間の弱さとともに自分への過信も捨てましょう。

 上旬はロンドン・オリンピック、中旬は高校野球のテレビ観戦。帰省旅行、別荘滞在、なじみの地への家族旅行など、母国意識、故郷意識も高まる月になりそうです。

 8月は「心の戸籍簿」がふっと開かれる季節かもしれません。

群馬県■水と緑と果実豊かな歴史の街・沼田


沼田城の歴史を語り継ぐ櫓台石垣

歯応えしっとりの荒木屋の栗羊かん

沼田名物の割田屋の味噌まんじゅう

水量と水勢の迫力に圧倒される吹割の滝
 しばしばの水上や越後方面への旅で、つい素通りしてきた沼田・利根方面に、知人の誘いで行ってきました。

 沼田は県の北東部、480年前の沼田氏の築城に始まり、北条・真田・黒田・土岐氏らの居城として明治まで続いた城下町です。上越国境の抑えの地として重要な位置にありました。薄根川、利根川などに囲まれた河岸段丘の断崖の突端に本丸、東南の丘陵地を城下町にした天然の要害で、真田氏の時代は関東ではまれな5層の天守閣が築かれ、霞城の名とともに5代91年の治世が続きました。

 今は櫓台石垣や堀跡に歴史を読み取るばかりで、緑豊かな市民公園になっています。

 沼田藩御用達の薬種商だった商家・生方家や、藩主の末裔が東京・渋谷に建てた旧土岐家の一部住宅洋館が移築され、歴史のつながりを伝えてくれます。

 城下町の名残をしのばせる入り組んだ道には古い土蔵や商家などにポツリポツリ出合います。本町通りの老舗の菓子店「荒木屋」や味噌饅頭の「割田屋」、着物の「みはし」など商店が足並みを揃えて街づくりに取り組み始めていました。

 歴史的な街から北へ足をのばすと、夏のラベンダー、冬のスキー場で知られる玉原(たんばら)高原、国道120号を東から北へ向かうと、旧利根村の名勝、幅30m、高さ7mに及ぶ豪快な吹割(ふきわれ)の滝、皮膚病に効能高い老神(おいがみ)温泉など、清涼感があふれる名所がたくさんありました。

 春のイチゴ、初夏のサクランボ、夏のブルーベリー、秋のブドウ、リンゴなど沼田は関東有数のフルーツの産地でもあります。

 交通はJR上越線沼田駅下車または上越新幹線上毛高原駅からバス25分。

 車では関越自動車道沼田ICすぐ

<問合せ>
・沼田市経済部観光交流課 ☎0278‐23‐2111
・沼田市観光協会 ☎0278‐23‐1137

滋賀県■湖上に浮かぶ緑の国宝の島・竹生島


船上から見た琵琶湖に浮かぶ竹生島

伏見城の遺構といわれる宝厳寺の唐門

宝厳寺と都久夫須麻神社を結ぶ船廊下
 日本一の広さを誇る琵琶湖。その北側は湖北と呼ばれる地域です。

 湖上には周囲2㎞、神々の島と呼ばれ、古くから信仰を集めてきた竹生島(ちくぶしま)が浮かんでいます。長浜に何度も行っていて島を目にして、お参りしたいと思いながら一度も渡ったことがなかったのが、実現しました。

 自然林に覆われたこんもりとした島には人は住んでいませんが、船が近づくと、西国三十三番大三十番札所の宝厳寺(ほうごんじ)と都久夫須麻神社(つくぶすまじんじゃ)の1寺1社が隣合せに、傾斜地に張り付くように建っていました。

 入島料(400円)を払って船着き場の前の土産屋や食べ物屋を抜けると、いきなり急な167段の石段が始まり、上り詰めると宝厳寺本堂(弁天堂)の明るい境内がひらけました。

 この寺は行基の開基で、弁財天と千手観音を本尊とする真言宗豊山派の古刹です。一段高い地に建つ朱赤の三重塔を仰ぎ、宝物殿で寺宝を拝観。外に出ると伏見城の遺構といわれる華麗な桃山建築の国宝・唐門を多くの人が見上げていました。

 宝厳寺から秀吉の御座船を使ったといわれる船廊下伝いに行くと、重厚な社殿の都久夫須麻神社に出ます。伏見城の日暮御殿(ひぐれごてん)を移築したといわれる本殿も国宝指定で、絵天井や襖絵など華麗で重厚な建物は、いかにも神の島の社殿に似つかわしい風格を湛えていました。

 交通は長浜港から琵琶湖汽船で30分。彦根港からの船便もある。

<問合せ>
・長浜観光協会 ☎0749‐62‐4111
・琵琶湖汽船 ☎0749‐62‐3390

銘菓通TVチャンピオンおすすめの今月の菓子…沢の翠(名古屋市・両口屋是清)

 蒸し暑い日本の夏。消夏法はいろいろあるが、目に舌に涼感を訴えるのが和菓子。中でも秀逸なのが「沢の翠」。渓谷から湧き出る沢の水が木々の下を流れる情景を錦玉羹で実に美しくみごとに表現。歯触りもぷるっとして、甘さがあっさりながら滋味が深いのでぜひご賞味を。8月下旬までの期間限定の販売だ。
・1棹1470円、半棹735円
・名古屋市中区丸の内3-14-3
・☎052-961-6811
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。