風土47
今月の旅・見出し


可憐な草花が自然のままに咲く軽井沢植物園
 今年も半年が過ぎようとしています。

 7月1日は富士山の山開き。夏の富士登山シーズンを前に山の安全を祈って、富士宮市(静岡県)の浅間大社では富士山開山祭が執り行われます。

 上・中旬までは梅雨が残る地域もあるでしょうが、梅雨の合間にカーッと照りつける太陽はうれしくも、また厳しい炎暑の夏の到来を予感します。

 児童、生徒、学生たちは夏休みに入り、家族で海や山に出掛ける機会も多いでしょう。浴衣、うちわで夕涼み、夜空の下の散歩も楽しみです。

 高原や山岳地帯では山野草(さんやそう)が太陽を貪るように美しい花を咲かせるときでもあります。そんな花に心寄せる旅も夏ならではのことでしょう。

 海、山、道路など事故にはくれぐれも注意しながら、夏を乗り切りたいものです。

 夏バテ予防のウナギの値段は今年はウナギ昇りのようですが、温度計の方はそうならないように祈りましょう。全国的に“節電の夏”になりそうですから。

秋田県■城下町風情がしっとり伝わる新緑の角館


低い黒板塀がまっすぐのびる武家屋敷通り

見どころ豊富な角館歴史村・青柳家(500円)

土産物も揃っている角館樺細工伝承館

美味しい漬物も製造販売する安藤家
 角館といえば黒板塀連なる武家屋敷町で知られる旧城下町。降りこぼれるような万朶(ばんだ)の桜で有名ですが、しっとりとした城下町情緒を味わいたくて新緑の町を歩いてきました。

 さすがに人出は少なく、花から葉っぱに変わった枝垂れ桜の下を小田野家、河原田家、岩橋家、青柳家、石黒家などの武家屋敷をゆったりと訪ね歩きました。どの屋敷も樹木茂る広い庭園をもっていて、涼やかな緑陰を作っていました。

 なかでもひときわ広い庭をもつ青柳家は角館を代表する見どころで、薬医門をくぐって入った寄棟造り茅葺き屋根の母屋は200年前の武家屋敷の姿を今に伝えています。

 庭内には青柳家の武具や文献を収めた武器蔵やアンティークミュージアムのハイカラ館、昔の農村の暮らしぶりを伝える秋田郷土館など見どころが多くありました。

 城下町は武家屋敷だけで成り立っていたわけではありません。武家の内町に対して、商人や職人らを集めた町人町は外町(とまち)と呼ばれ、火除けの広場の南側に造られました。

 商店街の上新町、岩瀬町、下新町、中町あたりにはその面影をしのばせるような古い蔵造りが点在、年季の入った看板を掲げて今も商いを続ける店も見掛けます。

 その1つが嘉永6年(1853)創業の味噌・醤油醸造元の安藤家。度々の大火から明治に建造したレンガ造りの蔵座敷が見られます。

 また明治から大正にかけて地主として羽振りをきかせた西宮家の母屋と5棟の蔵も見ものでした。下中町で見掛けた荒物・雑貨のイオヤ(伊保商店)の石造りにも時代が感じられました。

 秋田新幹線角館駅下車。武家屋敷町へは徒歩15分、安藤家へは徒歩15分。駅前にレンタサイクルもあります。

<問合せ>
・角館町観光協会☎0187・54・2700
・角館歴史村・青柳家☎0187・54・3257

富山県■チューリップと散居村でおなじみの砺波市


四季を通して見られる四季彩館のチューリップ

散居村を構成する杉や松の屋敷林に囲まれた農家

独特の形に丸められる砺波特産の「大門素麺」

丸ごと食べられる「庄川鮎」も名物
(いろり茶屋鮎の庄☎0120・01・0257)
 岐阜県北部の山地に発して北流し富山湾に注ぐ庄川(しょうがわ)の扇状地にひらけた砺波(となみ)平野。そこは水に恵まれた肥沃な土地を生かしたチューリップと散居村(さんきょそん)風景で知られる町です。地元の人の案内で巡ってきました。

 砺波にチューリップ栽培が始まったのは大正時代の中頃。1人の農村青年が取り寄せた球根がみごとな花をつけたチューリップの美しさに取りつかれたことからでした。庄川扇状地の砂質の土地が栽培に適していたのです。

 この町のシンボルが「砺波チューリップ公園」。色とりどりの花のじゅうたんをくりひろげるのは4月下旬~5月上旬。訪ねたのは花期が過ぎた6月上旬でしたが、公園の一角に建つ「チューリップ四季彩館」のチューリップスクエアでは年中咲かせているというチューリップを見ることができました。

 もう1つの散居村は自家の田んぼの一角に建てられた“カイニョ”と呼ばれる屋敷林に囲まれた農家が広い平野に点々と散らばる集落景観。それを遠望できる「散居村展望台」に立つと、大海原に点々と浮かぶ緑の小島のように見える、特異で美しい風景で、“陸の松島”といった感じでした。

 屋敷林は冬の風雪や夏の日差し除けに家の南西側に植えられています。厳しい自然と人の暮らしの共生の知恵がこのような景観を生んだのでした。

 この町の名物の「大門素麺」(おおかどそうめん)は、処方箋の薬袋のような包装紙の中に丸まげのように巻かれた手延べそうめん。江戸時代に市内大門村の売薬商人が知り合った能登・蛸島の加賀藩の御用素麺業者の元へ、村人が習得に出掛けて作られるようになったそうです。

 昭和初期の最盛期には60軒以上の農家で製造、現在も19軒が伝統の味を守り、作り続けているとのこと。袋には製造者の氏名が印刷されています。

 素麺作りは寒の間に丹念にこねあげ、何度も“より”をかけて寒風にさらしてじっくりと乾燥させます。コシの強さとと喉ごしの滑らかさはこうした手間暇をかけることから生まれます。

 市内の食事処では普通の素麺から洋風つけ麺、寿し、イタリアンなどさまざまな料理で食べられます。1包み580円です。珍しがられ、喜ばれるお土産になるでしょう。

 城端線砺波駅下車、または北陸本線高岡駅からバス

<問合せ>
・砺波市観光協会☎0763・33・7666
・チューリップ四季彩館☎0763・33・7716

銘菓通TVチャンピオンおすすめの今月の菓子…流れ梅(新潟市・大阪屋)

 梅果汁の中に渦巻くように浮かぶ透明感のある寒天風の麺。見た目にも涼しさがいっぱいで、つるつるすすりあげると、歯応えぷるぷる、舌につるっとなめらかな食感とひんやりの涼感と一緒に喉をくぐる。中に入った小梅の甘酸っぱさがアクセントになって一段と甘味と涼味を深める。夏の渓流を思わせる涼菓である。

・6個入り1820円(5月1日~9月10日販売)
・新潟市江南区大渕1631-8
・☎025・276・1411
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。