風土47
今月の旅・見出し


無病息災、商売繁盛など願っての注連飾り
 大震災、原発事故、風水害など列島を襲った大災害の年が明けました。それらの傷跡が癒えるまでの道のりは果てしなく遠いでしょう。

改めて心からお見舞い申し上げ、一刻も速やかに復興が進むことを願いつつ、新しい年に希望を託したく思います。

心が寒いと体が冷えます。体が寒いと心が萎えます。そんな時、心と体が弾む行為の一つに旅があります。近所の横丁散歩から海外旅行まで、「歩く、見る、聞く、食べる、感じる」の5段活用で、まずは自分に元気を与えましょう。それがやがて日本に元気を広げることになるはずです。

社寺での初詣が旅の第一歩かもしれません。

静岡県■歴史しのんで名物堪能の旧東海道歩き


めでたさを感じさせる白雪頂く気高い富士山

由比本陣公園の一角に立つ東海道広重美術館

釜揚げ、かき揚げなど絶品揃いの桜エビ料理
(由比・くらさわや)

国宝指定になったきらびやかな久能山東照宮

古くから安倍川沿いの茶店の名物・安倍川餅
 「一富士二鷹三茄子」は初夢でみると縁起がよいとされる順序の例えです。これには諸説があり、駿河(静岡県)の国の名物というのが定説です。一説に徳川家康の好物ともいわれます。富士は無事、鷹は高、茄子は成すに通じることもあるのでしょう。

 その富士山を望む県都・静岡市に行ってきました。

市域は東海道を横軸に、安倍川を縦軸にして駿河湾から山梨県境の南アルプスまで南北に長く、全国・市の面積ランキングで第5位という広さ。2005年に政令指定都市に移行し、人口71万6000ほどが暮らしています。

人口の大半が居住する南部には東海道新幹線、東名高速道路、東海道など日本の大動脈が東西に貫いています。なかで旧街道の東海道五十三次の江戸から15番目の宿の蒲原と16番目の由比には本陣跡があり、かすかに往時を伝えてくれます。

由比には東海道図絵などで知られる当代きっての浮世絵師・歌川広重の作品を中心に展示した「東海道広重美術館」があり、しばし江戸の旅人気分が味わえました。

ここでは広重が描いた2つの富士三十六景「富士の寿ぎ」の企画展(1月4日〜2月5日)を開催中です。

由比・蒲原は日本で駿河湾でしか獲れない桜エビの特産地。桜色をした小さなエビの刺身はしっとり舌を満たし、釜揚げはふっくらと、かきあげはサクッと香ばしく、どれもそれぞれ濃やかな味わいでした。漁期は春と秋の2回ですが、桜エビ料理は通年食べられます。

難所の薩埵(さった)峠を越えると、宿場は興津、江尻、府中、鞠子と続きます。府中は静岡市の中心街で、家康公が江戸に移る前の4年間と大御所と呼ばれた晩年の10年間を過ごした駿府城の城下町でもありました。

この地で亡くなった家康公が葬られ、祀られたのが城の東南の久能山東照宮。極彩色で飾られた建物は近年国宝に指定。参拝・拝観客が増えているとのことでした。

 府中宿から西へ、安倍川を渡る手前がかつて街道名物の安倍川餅の茶店が並んだ地。

川を越すとやがて、とろろ汁で知られる鞠子(丸子)宿で、旧街道は軒先の屋号看板や石畳に江戸時代の面影しのばせる宇津ノ谷集落へと延びています。

 旧東海道が抜ける静岡市には古くて新しい歴史ドラマが今日も刻まれています。

<問合せ>
・静岡市経済局観光・シティプロモーション課 ☎054-354-2422
北海道■大地で育った美味といで湯と雪景色


ワシ観察のクルーズも楽しめる冬の十勝川

モール豚、じゃが麺など美味が多い十勝の味
(音更・十勝川第一ホテル)

歯切れのよさと軽やかなタレが絶妙の豚丼
(帯広・ふじもり)

花や作物で彩られる丘も冬は白いメルヘン

美瑛産食材のじゃがいもまるごとグラタン
(美瑛・湯元白金温泉ホテル)

冬の人気者の旭山動物園のペンギンのお散歩
 1年の始まりにふさわしい、まっさらな気分になれる旅ならダンゼン冬の北海道。

白銀世界の中にあったか温泉とうまいものがたっぷり待っています。

 というわけで昨年12月半ば、十勝から富良野・美瑛、旭川へと訪ねました。

 十勝は麦類、豆類、馬鈴薯(じゃがいも)、ビート(てん菜)などの北海道有数の穀倉地帯。特に十勝産小豆は餡作りには欠かせない、全国の和菓子屋から引っ張りだこの高級銘柄です。

また十勝産の新品種の小麦粉(ゆめちから)と馬鈴薯の澱粉を練り込んだ、もちっとして喉ごしもよい「じゃが麺」も生まれています。

牛や豚など酪農・畜産王国で、今や「豚丼」や「十勝牛ステーキ」など全国区の名物料理になっています。なかでも豚肉はホエー豚(チーズ作りの過程で余った透明な液を飲ませて飼育)に続いて、軟らかくてジューシーさで評判のモール豚(植物性温泉水モール泉で育てる)が人気を呼んでいます。

モール泉は十勝川温泉ならではの泉質で、日本でも稀有な紅茶色を帯びた植物性温泉。保湿効果があり、浸透性に富み、肌に優しいことから美人の湯の名もあります。

丘のまち・美瑛では十勝岳山麓に湧く白金温泉の4軒の宿で、美瑛産のじゃがいも、ニンジン、玉ねぎになどを添えたびえい豚のしゃぶしゃぶなど、冬ならではの食事・宿泊プランのキャンペーンを展開していました。

旅の終わりは氷点の町・旭川。有名な旭山動物園では雪道をよちよちと歩くペンギンのお散歩に見物者の顔がほころんでいました。

そんな雪景色と美味と温泉、体験が堪能できる冬の北海道。折しもただ今、「ウインター○食ショック!HOKKAIDO」(2011年12月1日~2012年3月31日・一部2月末終了もある)キャンペーンです。詳細は下記へ問合わせてください。

<問合せ>
・北海道観光振興機構 ☎011-231-0941
・美瑛町観光協会 ☎0166-92-4378
・びえい白金温泉観光組合 ☎0166-94-3025
銘菓通TVチャンピオンおすすめの今月の菓子…福ハ内(京都市・鶴屋吉信)

 心が浮き立つような明るい黄色のおたふく豆をかたどった皮に砂糖、卵黄などを混ぜた白餡が入った桃山仕立ての焼き菓子。ほこほこの皮のあとにしっとり上品な甘さの餡がふんわり口に広がる。枡型の杉箱に対角線に竹を置いて「ますます繁盛」を表わしている。12月1日~2月3日の期間限定。まさしく縁起物の正月菓、節分菓だ。
・8個木箱入り2100円~
・京都市上京区今出川通堀川西入
・☎075-441-0105
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。