風土47
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ツワブキ
花の少ない冬に咲く貴重な花のツワブキ(高知・牧野植物園にて)
 今年も残すところ1ヵ月。陰暦の12月の異称ながら、「師走」の名は陽暦の12月にすっかり定着。「師も走りまわるほど」との説もありますが、冬支度や忘年会、歳末・クリスマス商戦、買い出しなどに忙しく、旅になかなか出かけられない時かもしれません。

 ところが年末の1週間ほどのぞけば、乗り物や宿はすいていて、また料金も安めで実は狙い目。12月半ば過ぎ、新年を控えて部屋もリニューアル、常連さんを迎えるにあたって試作中の豪華なご馳走をいただいたりすることもあります。冬枯れの中で明るい黄色を放つツワブキの花に慰められます。

歴史・ひと・味、コクのある町・小倉

小倉駅小倉祇園太鼓の像が迎えてくれる近代的な小倉駅
旦過市場「ふじた」旦過市場には名物の「ぬかみそ炊き」の店がたくさん
ぬかみそ炊きぬかみそまみれだが味はまろやか滋味豊か。安いのもうれしい 
 北九州市の中心都市・小倉に行ってきました。無法松や暴れ太鼓で知られていますが、モダンな駅舎をはじめ高層ビルとともに商店が連なるアーケードが碁盤目状に延びる活気あふれる都会です。

 関ヶ原の合戦後、細川忠興が築城、あとに小笠原礼法で知られる小笠原氏が治めた城下町、長崎街道の宿駅としても賑わった歴史の足跡も残る、思いのほか懐深い町でした。

 街中に掛かる「清張生誕100年」の垂れ幕が語るように小倉は社会派推理から古代史・現代史まで幅広い著作をものした松本清張が生まれ育った町。作品から蔵書、暮らしぶりを展示する記念館も親しみ深く見てきました。そういえば秋に訪れた弘前では今年は「太宰治生誕100年」。生まれた場所も境遇も作風も、実に対象的なこの2人が同じ年齢だったとは思いもよらないことでした。

 清張が子どもの頃住んで、よく時間をつぶした本屋があった旦過橋のそばの庶民の台所の旦過市場では、小笠原初代城主忠真が好んだという小倉名物の「ぬかみそ炊き」を食べました。サバやイワシを丹精を込めた各家・各店秘伝のぬかみそ床で炊きこんだ味は、深い味わいながらけっしてしょっぱくなく、ふわりとまろやかなでくせがありません。清張さんも、明治後期、軍医として3年赴任した森鷗外さんも食べたはずです。地方発送もしています。

 工業都市だけのイメージがぬぐい去れ、人には会ってみなくちゃ、街は歩いてみなくちゃ……旅がらすの改めての感慨でした。

・北九州市観光協会☎093‐541‐4189
・松本清張記念館☎093‐582‐2761
・旦過市場「ふじた」(ぬかみそ炊き)☎093‐551‐1263

神戸と志摩で出合った西欧のXマスケーキ

シュトレーンけっこう堅いシュトレーン。噛みしめるほどに風味がにじみ出す 
ポルボロンポルボロンは崩れやすいので包み紙ごと口に運んでいただこう
 12月になると日本の街角はクリスマス色に染まります。洋菓子店にはイチゴで飾った華やかなデコレーションケーキが並びますが、欧米ではそれぞれの国にキリスト誕生の4週間前までの待降節に食べる独自のクリスマス菓子があります。近年、日本でもその種の菓子が多く作られるようになりました。

 その1つが神戸で見つけた御影高杉のドイツ菓子「シュトレーン」。ラム酒に漬けたレーズンやオレンジなどドライフルーツを小麦粉生地に練り込んで焼き上げ、粉糖をまぶしたパン風のケーキで、生まれたばかりのキリストがおくるみに包まれた形を表わしているとか。堅い生地の飾りの少ない質朴なケーキはいかにもドイツです。

 イタリアではドーム型菓子パンの「パネトーネ」、フランスでは木目などで木を表現したロールケーキの「ビュッシュ・ド・ノエル」。

 テーマパークの志摩スペインには、スペインの人が教会の結婚式やクリスマスなどに好んで食べる「ポルボロン」がありました。噛まなくても口の中でほろっと崩れる柔らかなクッキーで、食べながら「ポルボロン」と3回唱えると幸せになれると言います。シナモン、チョコ、キャラメル、オレンジなど5種類があります。

・御影高杉(神戸)☎078‐811‐1234
・菓子工房ポルボロン(志摩スペイン村)☎0120‐036781
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。